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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第五章 陽だまりの風がふく ~萌芽するしあわせ~
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第62話 ありがとう

 ヴェリスは特に緊張している様子もなく、自然体であいさつを始めた。


「こんにちは。わたしはヴェリスといいます。今日はいろんな人が来てくれたので、すごく嬉しいです。おばあちゃん……じゃなかった。フルーカ女王様、このような場を設けていただき、心から感謝を申しあげます」


 彼女が明るい表情でそう言うと、会場の奥でひそかに座っているフルーカにスポットライトが当たった。あちこちからどよめきの声が上がる。フルーカはプレイヤーだが、滅多におもてへ出てこないため大変に珍しい存在だ。いま初めて顔と名前が一致した者も多く、全員がかしこまろうとした。そのさまを見て彼女は微笑む。


「皆様、私はフルーカと申します。一部ゲームマスターの権限をさずかり、この世界がより良いものになってゆくよう、陰ながら尽力させていただいております」


(ゲームマスター? ばあさん、やっぱ只者じゃねぇんだな)


「とはいえ此度はあくまでも無礼講ぶれいこう。今の私は近所にいるおばあちゃんだと思って、どうか肩の力を抜いてくださいね」


 どこまでも温和な雰囲気のフルーカに、参加者はそれぞれ顔を見合わせて安堵した。無償で城の一部を貸し出し、美味しい料理を無尽蔵に提供してくれるなど、普通に考えれば何か裏があると勘ぐってしまうものだ。しかし彼女のつむぐ言葉を聞いて、そうした疑り深さはおろかしい杞憂きゆうであったと確信させられる。


「ふふふ。そしてこのパーティーはあそこにいるヴェリスちゃんの発案によるものです。趣旨しゅしはずばり"日頃お世話になっている人への感謝"。ぜひ皆様方も、今日くらいは隣におられるそのかたへ、思いの丈を伝えてあげてくださいね」


(わあ……ほっこりするイベントだなぁ。おとといの修羅場が嘘みたいだよ)


「さて、その先駆けというわけではありませんが……彼女は、大切な家族に向けて手紙をしたためたようです。今から本人が読み上げますから、どうかあたたかい目で見守ってあげてください。もちろん、その後は皆様の番ですよ~?」


 フルーカの言葉で会場が大いに和んだ。

 まもなく、ヴェリスの朗読が始まる。


「えっと。わたしまだ文字があまり上手く書けないから……実際に書いたことと、いま思ったことを両方いうね」


「よっ、いいぞ嬢ちゃん!」「がんばって~!」「僕にも言って~~~!」


「えへへ。まずはわたしがいちばん自慢じまんしたい家族の、シムル!」


(お、おれぇ!? あいつ、兄ちゃんたち以外にも用意してたのか……!)


「シムルはいつも何かを一生懸命に頑張っていて、努力する天才(・・)なんだ。難しいことをよく知っているし、知らなかったことだって次の日にはもうわかってたりするの」


「お~、そりゃ故郷を救ったっていうあいつのことだよな!」


 闘技場の優勝時、まっさきにチップをくれたあのおじさんがシムルの方を指さす。すると彼へスポットライトが当たった。照明さんのなせるわざだ。


(げげ、こっ恥ずかしい~!)


「そう! シムルはね、ずっと悪いひとたちに故郷をいじめられて、苦しい思いをしていたんだ。でも自分だけのちからで強くなって、最後はみんなを助けてみせた。それにちゃんとわたし達のちからも頼ってくれるし、すごくかっこいいんだよ!」


「うぉおおやっぱ最高だぜ坊主は!」「かわいい~!」「僕にも言って~~~!」


「……最近ときどき悩んでいるみたいだけど、わたし達はみんなシムルの家族だから。何かあったら相談してね」


(それが逆に悩ましいんだっての。まあでも――ありがとな、ヴェリス)


 誰にも聞こえないような小声でシムルはそう言って、照れ隠しするように後ろを向いた。ヴェリスはにっこりと笑って続ける。


「次はふう……もぷ太! もぷ太はいつもみんなのことをよく見ていて、わたし達が気づかないようなところで、こっそり支えてくれているんだ」


「もぷ太って、確かあのかわいい兄ちゃんのことだよな!?」


 同じく、スポットライトが彼へと当たる。


「……ねえ、あの子ちょっと前まで劇場にいた子じゃないかしら」


「わあ本当だ! 男性役も女性役もこなす、実力派の美人さんよね!」


(はぁ!? 楓也、お前そんなことまでやってたのか)


(まあ、仮にも役者志望なわけだしね。最近はやってないけど、こっちの世界は衣装も自由に選べるし疲れないし、練習にはもってこいなんだ)


「もぷ太は頭がよくて、危ないことも自分からすすんでやることがあるの。でもそれはいつも、わたし達を大事に想ってやってくれていることなんだ」


(ヴェリス……)


「わたしはもぷ太のそういう優しいところが大好き。それにね、もぷ太がいなかったら、誰かとケンカしたときにどうやって仲直りをしたらいいのか、今でもわからなかったかもしれない。……心のくばりかた、教えてくれてありがとう。わたし、今でも一番好きな食べ物はハンバーガーだよ」


「ヴェ゛、ヴ゛ェ゛リ゛ス゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛……」


 むせび泣く楓也の背中を、佳果が苦笑してたたいた。アーリアは自分の番が来る前から、既にもらい泣きして顔をおおっている。


「次に、アーリア!」


「ひゃい! わたくしもヴェリスちゃんが大好きですぅううう……」


(おいおいアーリアさん、あいつまだ何も言ってねーだろ)


「え、マジ!? 前から気になってたけどあの人ってやっぱりアーリアさんなんだ」


「アーリアさんって元"千花繚乱"メンバーで、トッププレイヤーの!?」


「色んなおしゃれ着をデザインしている人よね? 私も装備買ったことある!」


「なんかこうして見るとすげぇパーティだな……」


「えへへ、みんなもアーリアのこと知ってるんだね。アーリアはわたしが一番尊敬している人で、いつもきらきらしてて"かわいい"の。誰よりもつよくて、誰よりもあたたかくて……わたしが間違ったことをしているときは、それがどうしてダメなのか、でながらまっすぐに目を見て叱ってくれるんだ」


(ああ、いけませんわ……視界がぼやけてヴェリスちゃんの顔が見えない……)


「アーリアがいてくれるから、わたし達は安心して前にすすむことができる。もちろん、頼りっきりにならないようこれからもがんばるけど……よかったら、ずっと一緒にいてください。アーリアのぜんぶが、わたしは大好きです!」


 よろりと倒れ込むアーリアを受けとめる佳果。これ以上ないほどに幸せそうな顔をしており、もはや何も言う気にはなれなかった。そして言わずもがな、次は我が身である。


「最後に、佳果」


「あの強面こわもての兄ちゃんか」


「フルーカ女王をぞくから救ったって、風のうわさで聞いたことあるよ」


「まだ若いみたいだけど、結構イケメン……ってかあの子、今あっちで話題になっている高校生くんでは!?」


「ええ!? あの外道げどうな教師に、家庭を壊されたっていう……?」


(さすがに知っている連中もいるみたいだな)


「佳果はわたしがどんなにつらい時でも、一緒になってたたかってくれるの。何が痛いことで、何が苦しいことなのか――それだけじゃない。何が楽しいことで、何が嬉しいことなのか。どんな心でいたら、みんなを支えられるのか。大切なことはぜーんぶ、佳果が教えてくれたんだ」


(ヴェリス……)


「本当はよわいところもあるのに、それを絶対に人へ見せない。自分自身がたいへんな時だって、誰かのためなら全力で助けてくれる――わたしね、最近思うんだ。佳果は前に、わたし達が引き合ったのは偶然じゃないって話してたけど……きっと、本当にそうなんだと思う。だってわたし、こんなにも佳果が大好きだから。もし佳果のいない世界があるなんて言われても、全然(ぜんぜん)信じられる気がしないもん!」


 そう言ってはにかむヴェリス。佳果は必死にこらえていたが、頬をつたってゆくものの温かさに気づき、自分のことながら何を耐える必要があったのかと、泣きながら笑った。


 こうしてヴェリスによる感謝の表明が終わると、会場はやわらかな拍手に包まれた。そしてすっかり感化された他の参加者も次々に壇上へと上がり、思いの丈をぶつけてゆく。

 ――パーティーは大成功だった。

お読みいただきありがとうございます!

手紙っていいですよね。


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