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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第五章 陽だまりの風がふく ~萌芽するしあわせ~
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第60話 祈りと光

 その後、楓也が家に連絡したり風呂に入ったりと色々しているうち、二時間ほどが経過した。するとめぐるが帰ってきて、人生初の面接の結果がなんと即採用だったことを告げる。佳果と楓也は、彼が帰りがけに買ってきてくれた弁当をごちそうになりながら、お祝いの言葉を送った。


「すごいじゃない! よかったね、すぐに決まって!」


「なかなか見る目あんじゃねーか、その店」


「ありがとう……でもとんとん拍子すぎて、ちょっと不安だなぁ」


 詳しく話を聞いてみると、少し変わった店長がきりもりしている食事処しょくじどころのようだ。というのも、めぐるの顔の腫れを見た瞬間に「何も言わんでええ」となぜか二つ返事で働くことになったらしい。その場で簡易的な説明と研修も受けてきたそうで、彼のアスターソウル購入計画は、期せずして幸先さいさきのよい滑り出しとなった。


「まあ、始めのうちは当たって砕けろの精神が大事だぜ。早く慣れるといいな」


「うん、頑張ってみる」


「ファイト! でもそうなると、須藤君はしばらくバイト漬けの生活になる感じ?」


「そうだね。どうせ暇だし、シフトは入れるだけ入ってみるつもり」


 彼らの高校は現在、事件の対応に追われているため当面の間は臨時休校となる予定だ。さらにこの三人については、こうむったであろう精神的な負荷が考慮されて、今年いっぱいは任意登校、通信学習でもよいという特例が認められている。つまり、時間的な余裕はたっぷりある。


「店主、明日の早朝からでも来て欲しいって言ってた。……ちょっと早いけど、ぼくはそろそろ寝る準備をしようかな」


「気合入ってんな! ……俺ら、こんなに頑張ってるやつのとこで居候いそうろうしてていいんだろうか」


「やることといえばゲームだけだしね……なんだかダメ人間になっちゃった気分」


「そ、それは違うよ。詳しい事情はわからないけど、アスターソウルには君たちを待ってる人たちがいて、絶対にやり遂げなきゃいけないことだってあるんでしょ? 自分のほうは全然気にしなくていいから、二人はプレイに集中して」


「……お前、聖人すぎるだろ」


「後光が見える……」


「そ、そんなことないって。じゃあ、おやすみ」


 そそくさと部屋を出るめぐる。二人は彼への感謝を胸に、敷き布団の上へ寝転がって頭にデバイスをセットした。

 二日ぶりのアスターソウルが始まる。



「よ、佳果さん……!? 楓也ちゃぁあん!!」


「ぶぉっ!?」「わわっ」


 アスター城下町の宿にて再会した直後。

 アーリアが彼らに全霊の抱擁ほうようを繰り出した。


「ど、どうしたんだよアーリアさん!?」


「す、すびません……大丈夫だとはうかがっておりましたけれど、実際にお二人の顔を見るまではわたくし、もう心配で心配で……」


「……そうか。早く来れなくて申し訳なかった」


「なかなかインするタイミングが作れなかったもので……ごめんなさい」


「いえ、いいんですのよ。こうして無事に戻ってきてくださったのですから」


 涙をぬぐってにっこりと笑うアーリア。その後ろには、椅子の背にもたれかかるシムルと、ベッドで安静にしているヴェリスの姿があった。


「佳果、楓也! おかえり!」


「ああ、ただいまだぜ」


「……兄ちゃんたち、色々と大変だったみたいだな。……力になれなくてごめん」


「何いってるの。君はその間、ずっとヴェリスを守ってくれてたんでしょ?」


「ああ、いやその。おれはあまり助けにならなくて」


 あの夜、通信が終わったあと。ヴェリスは依帖えご稔之としゆきの介入によって魂のバランスを崩され、昏睡してしまったそうだ。そこまでは聞き及んでいたとおりなのだが――どうやら、ほどなくして波來ならい明虎あきとらが出現したらしい。彼はアーリアとシムルに侵蝕を最小限に抑える方法を教えてきたのだという。


(あの人はまた、まどろっこしいことを……)


「でもおれの光、まだ弱いみたいでさ」


「光……? どういうことだ?」


「あの時、ヴェリスちゃんは超感覚を強制的に起動させられていたらしいんですの。不安定な超感覚は"黒"に染まりやすい――その一方で"白"も届きやすいとかで、明虎さんはわたくし達に『祈って光を届けろ』とおっしゃったのですわ」


「光はSSが高いほど強まるんだって。ヴェリスが助かったのは姉ちゃんの光が抜群に強かったのと……佳果兄ちゃんがエリア移動に成功して、ヴェリス自身の光が変質したからなんだとさ。……要するに、おれだけじゃ守りきれなかった」


 シムルは以前のように、卑屈な気持ち混じりでこのようなことを言っているわけではなかった。純粋に感じる己の未熟さと不甲斐なさを真摯しんしに受け止めた結果、こうした言葉がこぼれ出るだけなのだ。しかしヴェリスは彼の葛藤かっとうなど目もくれず、あっけらかんと言い放った。


「? シムルの声、ちゃんと聞こえてたよ」


「え?」


「うまく言えないけど、祈りそのものに強弱はないと思う。シムル、助けてくれてありがと」


「お、おう……?」


 不意に感謝を述べられ、困惑気味のシムルが頭をかく。二人のこうしたやり取りがどこか懐かしく感じられた佳果は、彼らの頭にポンと手を置いた。そうしていつもの調子でニカっと笑うと、日常に帰ってきたという実感が全員の心にしみわたった。


「えへへ……ところで、チャロさんが来たのは本当に驚いたな。あのマークから現れたということは、やっぱりヴェリスの装備している勲章づたいに……?」


「ん、たぶんそう。わたしほとんど意識がなかったからよく覚えてないんだけど……佳果が大変だから、ちょっと借りますって心のなかで言われた気がする」


「ふむ、現実世界への干渉か。いよいよ、夕鈴あいつの生きている未来ってのが近づいてきた感じがするな」


「でも兄ちゃん、まだアーリア姉ちゃん以外がやっとエリアⅥに移動できたってだけだろ? Ⅹを目指すなら、折り返しをちょっと過ぎたくらいじゃんか」


「そりゃそうかもしれねぇが、暗中模索の段階からここまでこぎ着けたのは快挙だと俺は思うぜ。ほら、お前も素直に喜んどけや!」


 シムルのほっぺをつまんで無理やり笑顔をつくる佳果。「にゃめろー!」と怒る彼から逃げようと、二人はドタバタ走り回っている。それを見て、アーリアは人知れず安堵していた。


(佳果さん、今回の件で暗い影を落としているものかと思いましたが……本当に平気そうでよかった。それにしてもこの二人……まるで兄弟みたいですわね)


「ねえねえ阿岸君。内部? 的にはもうSSが上がっているみたいだけど、またステータス画面でボタンは押してないよね?」


「ん? あ~、確かにそうだな。さっそくやってみるか」


「では、ヴェリスちゃんも一緒に」


 彼らはステータス画面を開くと、SS表記の横にあるビックリマークに触れた。例によって昇華の実行確認が出現し、"はい"を押す。すると魂のグラフィックが変化してゆき、元々は水っぽいスライムのような質感だったものが、ほとんど水に近いさらさらとした流動体へ移り変わる。色は佳果が緑で、ヴェリスが黄色メインだ。

 そして、忘れかけていたあの変化が同時に起こった。


「ヴェ、ヴェリス……!?」


 驚くシムルが見つめる先。

 ヴェリスが、15歳くらいの少女に成長している。

お読みいただき、ありがとうございます。

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