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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第四章 雷雨をこえて架かる虹 ~あまねく愛のまぼろし~
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第58話 愛と我欲

「……チャロさん……!?」


「こんばんは、もぷ太さん。阿岸佳果も、よく頑張りましたね」


 彼女はふわりと地上へ舞い降り、稔之としゆきあわれみの眼差しで見つめた。


「お、お前は……!!」


「……あなたは(・・・・)一線を越えました。彼らの自由意志をもてあそび、本来ならば起こり得なかった未来すらいたその罪――わたしが導きましょう」


「なに!?」


 チャロは金色こんじきの剣を構えると、横なぎの一閃を繰り出した。一直線に飛び出した斬撃が彼に直撃してすり抜ける。


 "斬られた"という感覚が全身にほとばしり、思わず失神しそうになる稔之。しかし実際に怪我けがを負ったわけではないようで、身体を確認すると無事だった。彼はニタリと笑って平静をとり戻しかけるが、次の瞬間気づいてしまう。おまもりのほうが、真っ二つに割れているのだ。


「あ…………ぁあ……ぁぁぁああああああぁぁ!!!」


 膝を落として慟哭どうこくを始める大の男。あまりの光景に、銃をおろした佳果と楓也は絶句せざるを得なかった。だがそれは彼の狂気に当てられたからというよりも、割れたおまもりからが立ちのぼる漆黒しっこくきりに対する驚嘆と言ったほうが正しかった。


(なんだありゃあ……!?)(なんて禍々しい気配……!!)


 二人が戦慄せんりつするなか、チャロだけが毅然きぜんと対峙している。


「これは救済ではなく調伏ちょうぶくです。もはやあなたの自由は保障されない……この土壇場でくらい、どうか神妙にしていてください」


《邪魔をするな》


「……邪魔そのものであるあなたが、いったい何を言っているのやら。さあ、然るべき場所へお行きなさい。無明むみょうの地にて、自らのあやまちと向き合うのです」


 チャロが祈りの所作をおこなうと、まばゆい光が一帯を包み込む。漆黒の霧はそれ以上なにも語らずに、どこかへと消えていった。残るは突っしてうわ言を繰り返す、泣きつらの稔之だけだ。


「愛が……僕らの愛が……」


「さて、依帖えごさん」


「僕の……大事な……」


「あなたにはあなたの責任があるのですよ? 今回の件は、あなたが愛をはき違えたところから始まっているのですから」


「っ……ぁぁあああふざけるなぁああ!! 僕より彼女を想い、捧げ、愛した人間など他にいない!! お前に何がわか……!?」


 激昂げっこうする彼が、チャロの瞳を見て硬直する。


「その……その目は……あの時の千歳さんと、同じ……」


「――あなたは確かに一途いちずな想いを貫きました。それは誰にでもできることではありません。しかしあなたが愛と呼んでいるものは……ご自身の自尊心がもたらした、闇のまぼろしに過ぎなかった」


「自尊心……? 闇のまぼろし……?」


こちらにおいて(・・・・・・・)、愛とは、広義では他者を自分のように感じられる能力と定義づけられています」


「…………」


「その本質は光であるがゆえ、心をおおう闇が深ければさえぎられ、屈折し、ついには自らを満たすためだけの口実と成り果て、あらゆる火種へ変貌へんぼうを遂げる……残念ながら、この世界ではまだ往々にして起こっている現象です」


「…………」


「あなたは愛されないという現実から逃れ、ゆがめてしまった感情を自他に押しつけ従わせた。その自尊心こそが、"我欲がよく"という名の闇を増殖させ、愛をかたらせてしまった真の原因です」


「愛されない、だと……? 僕が……僕が愛されていなかったと……?」


「ええ。もっとも……愛されるためには己を知り、感情と思考の源泉をつきとめて、すべての闇を自らの意志でうち祓わなければなりません。それは決して平坦な道のりではありませんから――あなただけが孤独、というわけでもないのですよ」


「そんな……僕は、ずっと…………ずっと独りだったのか?」


「……孤独もまた、闇のひとつ。照らすもまみれるも、その決定権はあなたにゆだねられています。今後の人生、自らのとがと向き合いながら……いつか、確かな答えが見つかるとよいですね」


 チャロがそう言って微笑むと、稔之の焦点がだんだんと定まらなくなる。やがてバタリと倒れた彼は、もう起き上がる気配がなかった。


「お、おい。あいつなんで倒れたんだ?」


「長らく魂に癒着ゆちゃくしていた悪しきものが剥がれて、均衡きんこうを保てなくなったのでしょう。今は昏睡していますが、いずれは意識を取り戻すはずです」


「……楓也、なに言ってるかわかるか?」


「あはは、ぜんぜん……って、この音は」


 遠くのほうから、複数の人の声が聞こえてくる。


「なっ!? まさかあいつの仲間か!」


「心配ないよ。たぶん、ぼくが呼んでおいた警察の人たちがやっと来てくれたんだと思う」


「そうなのか……つか、どう説明すんだよこの状況……」


「お取り込み中に失礼ですが、お二人とも」


「あん?」「はい?」


「一つだけ教えてください。もしわたしが来なかったら……あなた方は撃っていましたか?」


「…………どうでしょう」


「正直、自信はねぇな。ただ今は、撃たずに済んでよかったと心底思ってるよ」


「と申しますと?」


「……この世には絶対に許しちゃいけねぇ悪意ってもんがあるらしい。けどよ、俺にはこんなに頼もしいダチがいて――」


 佳果は、楓也とめぐるを交互に見遣みやった。


「俺なんかの帰りを楽しみに待ってるやつらもいる。……死んでも、俺のこと見ててくれるやつだっている」


「阿岸君……」


「そいつらが笑っている場所に行くのと比べたらさ。どんな憎しみだって、取るに足らねぇって思えるっつーか。だから俺は……もう大丈夫だ」


「……ふふ、そうですか。では最後に朗報をお届けします」


「朗報?」


「超感覚へ介入されて崩壊が始まっていたヴェリスさんですが、あなたのエリア移動(・・・・・・・・・)にともなって、侵蝕しんしょくは止まりました。もうご心配にはおよびませんよ」


「!! ……はは……そうか、俺SSが上がって……あいつ、助かるんだな……!」


「ぅ……ぅう、よかった……ぐすっ……本当によかった……」


 弛緩しかんしてへたり込む二人。チャロは優しく目を細めると、静かに消えていった。やがて警察や教師、野次馬の生徒らの姿が見えたところで、彼らの意識はぷつりと途絶える。

ターニングポイント。


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