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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第四章 雷雨をこえて架かる虹 ~あまねく愛のまぼろし~
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第56話 妄執

※今回のお話は、おそらく作中で最も精神的な暴力表現を多く含んでいます。苦手な方は、ざっくりとお読みいただければ幸いです。

「あ~、一応いちおういま就寝時間っすよね? 教師が生徒つかまえて、こんな場所来てていいんすか?」


「ん? 僕は、部屋から抜け出して中庭でアンニュイな顔をしていた不良生徒を見つけたから、少し元気づけてあげようかなと思っただけですよ。真夜中の洞窟探検――なかなかいきな計らいだと自負しているのですが」


「いい歳してよく言うっすよ……で、鍾乳洞ここに何があるってんです? さっき宝物がどうとか言ってましたけど」


「……すぐにわかります」


 そう言って、担任教師である依帖えご稔之としゆきが奥へ奥へと進んでゆく。佳果は先ほど、ヴェリスたちとの連絡を終えて部屋に戻ろうとしていた矢先、巡回中の彼に見つかってしまった次第だ。


 修学旅行中は基本的に夜間の移動が禁じられており、生徒はかわやとロビーを除いて勝手に外出することはできない。よって佳果は何らかの罰を受けると覚悟していたのだが、予想に反して稔之は「今日くらいは見逃してあげます」と笑った。ただ代わりに少し付き合えとのことで、現在の状況に至っている。


「着きましたよ」


 稔之が立ち止まる。しかしいくら見回しても、特に何かがある気配はない。辺りには天井から垂れるつらら石に、地面から隆起りゅうきする剣山けんざんのような石筍せきじゅんが広がっているばかりだ。

 

「? おいおい、まさかこのへんの景色が宝物ってオチじゃ……」


「おや、君にもそういった風情ふぜいがわかるのですね」


「……はぁ~、勘弁してくださいよ。なんか天気もやばくなってきたし、気が済んだなら戻って――」


「ほら見てください。ここ」


 佳果の言葉をさえぎって、稔之がニコニコしている。彼は石筍の隙間から、何かを取り出してみせた。見ると、ボロボロの小さな巾着きんちゃく袋が彼の手に乗っている。


「そりゃ……おまもり?」


「ええ。もう20年以上前になるのかな……これは、千歳ちとせさんが僕にくれたものなんですよ」


「…………あ?」


 今、この男が口にしたのは――そんなはずないと思いつつも、人違いではないという直感がなぜか脳を支配している。


 千歳は自分の母親の名だ。

 5年前、弟とともに失った大切な存在をあらわす、まるっこくて懐かしい響き。

 同時にこの場で出てくるには、あまりに不自然でとがった響きだった。


「……なんすか急に。え、もしかして母さんの知り合いとか……? くれたってのはどういう――あ、そうか。それ形見かたみになるから、俺に渡そう的な感じで……」


「なにを言ってるんだよ。これは僕のものだ」


「――――」


 稔之の口調が豹変ひょうへんし、冷酷な眼差しが向けられる。

 思考が追いつかない。すべてが突然すぎて、頭がまっしろに染まってゆく。

 ただ、一つだけ絶対的な予感が背筋を這いずりまわっていた。


 ――触れられたくないものが、すぐそこまで迫ってきている。

 逃げ出したい。でも動けない。

 佳果が凍りつくさなか、稔之は徐々に恍惚こうこつの表情を形成していった。


「今でも昨日のことのように思い出す。あの日、僕らは君たちと同じように、ここへ修学旅行で訪れていたんだ。千歳さんは綺麗で賢くて気の利く、本当に非の打ち所のない素晴らしい女性だった」


()


「僕はね、当時見つけたこの秘密の場所で、彼女と二人きりになる約束をした。もちろん愛の告白をするためだよ。僕が思いの丈を伝えると、彼女は消えてしまいそうなくらいはかなく美しい笑みで、このおまもりを手渡してくれた。なんて奥ゆかしい返事だったのだろうね」


(――)


「その瞬間はまるで桃源郷のように鮮烈で、得も言われぬ甘美な光景だった。だから僕は彼女が部屋へ戻ったあと、このかけがえのない時間を永久に保存しておきたいと思って、おまもり(これ)を二人の愛の証明としてここへ封印したんだ。以来、毎年お参りを欠かしたことはない」


(――――)


「でもね……きっとのっぴきならない事情があったんだろうねぇ。彼女はあろうことか、僕ではなく赤の他人と交際を始めたんだ。ふふ、まあ普通だったらそこで怒るよね? ……けど、僕は寛容かんようだから。彼女には何か崇高すうこうな考えがあるのだと理解して、尊重する道を選んだのさ。だから卒業式の日も成人式の日も、僕は彼女の不倫を許して許して、許し続けた」


(――――――)


「……なのに。あいつ、結婚して子どもまでつくりやがったんだよ。いくらなんでも、そこまで擁護ようごできる道理はないだろうに。僕は当然あいつの家まで行って、事情をあらいざらい吐かせることにした」


(……ろ)


「そしたらあいつ、開口一番になんて言ったと思う? ……『どちらさまですか』だってさ。信じられるかい? 彼女は彼女の狂った理念に洗脳されて、最愛の人を忘れてしまっていたんだ。なんとなげかわしい」


(やめろ)


「でもさすがにそんなごうの深い横暴、このおまもりに宿る神様も許せなかったらしくて……その日をさかいに、僕は"声"を聞くようになった。"声"は、あいつに罰を与えるために必要なことを、ぜんぶぜんぶ教えてくれた」


(やめろよ)


「この計画はそこから始まったんだ。僕は彼女により深い反省をしてもらうため……君が少し育ってきた頃合いで、最初の罰を与えることにした。そう、あいつをたぶらかした犯罪者にまずは消えてもらったんだよ。昔は仲が良かったんだけどねぇ……彼は取り返しのつかないことをしてしまったんだから、しょうがない」


(やめてくれ)


「まあそういうのを生業なりわいにしている連中に頼めば、わんに沈めるなんて造作もないことだった。ああ、君のなかでは行方不明になってるんだっけ、お父さん(・・・・)


「!!」


「次の罰は、その年に生まれた和歩かずほ君が六歳になった頃だったか。君もよく覚えているだろう? あの痛ましい事故のことを」


「あ……あれ、は、医療ミスで……!」


「そう医療ミス! 君は病院が隠ぺいしようとしたその事実を、必死に暴いたんだよね。当時、僕も感動したなぁ……でもさ、実はあれ、新薬の実験だったんだ」


「は」


「君が無理やり引きずり出した院長らは、いわば捨て駒。バックにはもっとたくさんの思惑おもわくが動いていて……もっとも、それらは僕が"声"を聞いて根回しした結果なんだけども。……あれ、こどもの君にはちょっと難しかったかな」


「…………ああ……なに、……言ってんのか、さっぱりわかんねぇ……」


「で、本当はその次の罰で君をさばくはずだったんだけど……最期まで洗脳が解けなかったんだろうね。千歳のやつ、先に自分で死んじゃったからさ。そうなってくると、必然的に彼女の罪を背負えるのはもう、息子である君しかいないじゃないか」


 茫然自失ぼうぜんじしつの佳果を、稔之はさげすむような瞳で見つめる。


「さて、長かった天誅てんちゅうもここいらで幕引きとしよう。青波君、いい加減出てきたらどうだい」


「……?」


 反射的に振り返ると、ずぶ濡れの楓也が息も絶え絶えに岩陰から姿を現した。


「ふう、や」


「阿岸君。こいつが……依帖えご先生が、すべての元凶だったんだ。ご家族の件も、クイスの件も……そして今、きみとヴェリスになにかしようとしているのも!!」


「俺に……? ヴェリス……?」


「青波君の言うとおりだ。クイスは元々君たちをマークしていた組織だった。だからその手腕しゅわんをわざわざ買ってあげたというのに……お粗末な連中で失望させられたよ。ま、おかげでヴェリスさんが育って結果オーライだったんだけど。君への断罪が、より素晴らしいものに昇華したからね」


「あんた、ヴェリスに何をした!? 超感覚に介入ってどういうことだ!?」


 楓也が悲痛な叫び声をあげる。だがもはや、いかなる音も意味を持たなくなるほど佳果の心は崩壊しかけていた。


「ふふ、簡単な話だよ。まだ制御が未熟な今の段階で、僕の"声"の主――神の御力みちからによって彼女の魂のバランスを壊してあげたんだ。ちょうどそろそろ、"黒の侵蝕"がすすんで意識を保てなくなる頃合いだろうね。あとは放っておいてもくたばるだろう」


「なぜ、なぜそんな……!!」


「決まっている、全ては阿岸君に反省してもらうため――まあ、あれはたかだかバーチャルの命だけどね。ほら、何をうつむいている? これは、君のお母さんが招いた事態なんだよ? 君のお母さんのせいで、君の家族はみんな死んだ。そしてまた一つ、大切な命が失われようとしている。何か一つくらい言うことはないのかね」


「――」


 佳果はひたすら黙りこくって、地面をうつろな目で見つめている。

 その様子があまりにも凄惨で、楓也は大粒の涙を流しながら稔之をにらんだ。


「ふう。興ざめだ。死ぬ前に、千歳の意志が見られると思ったのに」


「!?」


 稔之が取り出したのは、二丁の銃だった。

 片方を自らの頭に突きつけ、もう片方を佳果へと向けている。

もう少し抑えたかったのですが

依帖さんが勝手に喋りまくるのを

筆者の力では止められませんでした。

次回、なんとか彼の凶行に抗っていきたいと思います。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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