第51話 みちしるべ
「お疲れさまでした」
消耗した二人をねぎらい、フルーカが回復薬を振りまいた。
そうして一同はテーブルへ戻ると、今の訓練方法についておさらいする。
「要するにヴェリスが無の境地的なものに入っちまえば、超感覚のやべぇ側面に対策できるってわけか」
「はい。当面は先ほどの要領で反復練習が必要になると思いますが、次第に自分の力だけでも至れるようになるでしょう」
「わたし、がんばってみる」
「偉いですわヴェリスちゃん!」
「でもさ兄ちゃん、毎回あれやるってなると結構しんどいだろ? おれも協力するから、ゾーンってやつの入り方おしえてくれよ」
「そりゃ構わねぇが、一応は奥義の類だしな。習得すんのは相当きちーと思うぞ」
「……だとしてもだ。ヴェリスを助けるためならやるよ、おれ」
シムルの瞳に信念の炎が灯っている――覚悟を決めた漢に二言はない。
佳果はふっと笑って拳を前に突き出した。意図を察し、シムルも同じように拳を突き出す。コツンと響いた音は誓いへと代わり、彼らはお互いに小さくうなずいた。
その光景にはにかんだヴェリスの両肩には、楓也とアーリアの手が置かれている。陽だまりのバルコニーに、爽やかな風が吹き抜けていった。
「あなた方を見ていると、とても優しい気持ちになれますね。幸せをおすそ分けしていただいた気分です」
微笑むフルーカは、そのまま続ける。
「……さて、そろそろいい時間でしょうか。ヴェリスちゃん、最後に一つだけ」
「?」
「超感覚のコントロールに成功すれば、あなたはあらゆる魂を鑑定できるようにもなります。そのことを覚えておいてね」
「かんてい?」
「ええ。鑑定とは、その人の本質を知ること。とりわけ魂のもろい領域――何を恐れ、何に怒り、何が悲しくて、何が許せないのか……そうした暗い部分に光を当てることで、苦しみの根源が浮かび上がって、エリア移動の手がかりが見えてくるのです。……ぜひその力で、皆さんを導いてあげて」
「……わかった」
(エピストロフへの到達に超感覚が役立つって、そういう意味だったんだ)
「ふむ……そうなりますと、エリアの進行度からして最初の鑑定は佳果さんが受けるか、ヴェリスちゃんがセルフチェックするのが順当ですわね」
「だなぁ。しっかしよー、まさかもうヴェリスに追いつかれちまってるとは……シムルに至っては楓也と並んでるようだし」
「へへっ、どんなもんだい!」
「ま、ちょちょいと追いついてやるけどな。待ってろよ二人とも!」
佳果がおどけたテンションでシムルと楓也に肩を組む。しかし彼の表情はさっきまでと違い、どこかこわばっているように見えた。ヴェリスはあえてそれに言及せず、フルーカに別れのあいさつを切り出す。
「おばあちゃん、今日はたくさんお話してくれてありがとう!」
「まあまあ、どういたしまして。私もこんなに楽しかったのは久しぶりです。こちらこそ、素敵なひとときをありがとうございました」
「んじゃ、また適当に遊びに来るぜ」
「貴重なお話を聞けて良かったです」
「それではフルーカ様、ごきげんよう」
「お菓子ごちそーさんでした!」
こうしてアスター城を後にした一行は、城下町へと繰り出す。
このお話に出てくる情景は後々に繋がっていきます。
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