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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第四章 雷雨をこえて架かる虹 ~あまねく愛のまぼろし~
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第45話 自由意志

「私が遠回しにちからを使う理由はただ一つ。直接的な手助けをすれば、それは君たちのエリア移動を阻害することになるからだ」


「エリア移動を阻害……?」


「知ってのとおり、エリア移動とは精神的な成長にともなう魂の進化を指している。ちなみにラムスの件で、シムルのSSは(6)に到達したはずだよ。おそらく元は(4)あたりだったのだろうけれど」


(……合ってる)


 シムルと最初に出会ったとき、彼のSSは(4)だった。それが現在、本当に(6)に至っているのであれば、すでに楓也と同じエリアまで来ていることになる。


「ヴェリスや阿岸君は?」


「ヴェリスは無垢むくな魂であったがゆえ、シムルとともにすこやかな成長をとげている。彼女は(3)から(5)まで移動しているだろうね」


(6)ではなく?」


「ああ。彼女はおそらくYOSHIKAの魂と呼応している。彼が先に進むまでは、ともに停滞する可能性が高い」


「……何をもってそういう判断をしているのかわかりませんけど、阿岸君のSSはまだ(5)のままという意味ですよね」


「その解釈かいしゃくで問題ない。彼はまだ決定的な機会が巡ってないようだからね――まあ、君がつかみかけている案件が片付けば一気に動くかもしれないけど?」


「……またそうやってほのめかすんですか。そのにおわせも含めて、エリア移動の阻害ってやつがからんでいると?」


「フフフ、理解がはやくて助かるよ。……でも、今後のためにもう少しだけ踏み込んでおこうか。もぷ太くんは"自由意志"を知っているかな」


「? やぶから棒に、なんの話です」


「阻害の延長線上にある話さ。君は、成長とはどういう時に起きるか考えたことはあるかい」


「成長? そりゃ、努力して、自分を磨いた時に……」


「では、その努力しようという意志はどこから来るのかね」


「……先に進もうと思えるような出来事があったとか」


「ふむ。でもその出来事は、本人にとってターニングポイントに成り得たとしても、また別の人にとっては何の変哲へんてつもない、些事さじにすぎないかもしれないよねぇ?」


「…………なにが言いたいんですか」


「つまり本人が必要性を感じ、そうしたいと心から願うことで初めて努力という行動が生まれる。そしてそれが実を結んだ時、人はようやく成長できるのだよ」


「そのことと"自由意志"に、なんの関係が?」


「車の両輪りょうりんというやつさ。己の成長にかかわる決定を能動的に行うために、不可欠となるのが自由意志だ。自由意志は人間のアイデンティティであり、自由であるがゆえプラスにもマイナスにもかたむくことができる。……そこへちからを持つ者が現れて成長を手助けした場合、どうなると思う?」


「?」


「答えはかんたん――自由意志は怠惰たいだというマイナスを選択し、成長の機会そのものが失われる。なにせ自分が動かなくても、ちからのある者がなんとかしてくれちゃうわけだからねぇ」


「……それって、あなたとぼくたちの比喩ひゆですか。甘えるなとでも言いたいんですか? ……ぼくらは怠惰を選んだりしませんよ! ただ、人間生きていれば本当にどうしようもない時だってあるでしょう! そういう時は普通、みんなで助け合うものじゃないですか……あなたには、人のこころがないんですか!?」


「なかなか鋭いね」


「は……?」


「私のこころは――いや、いい。もぷ太くん、最後に大事なことを伝えよう。今日ここに来てもらった一番の理由でもあるんだけど」


 そう言って情報屋は浮かび上がる。

 この男は、いつもこうやって唐突にいなくなろうとする。


「待ってください! まだ聞いてないことがたくさん……!」


「いいかい、もぷ太くん。君のいう"どうしようもない時"というのは、実は偶発的に発生しているものではない」


「!?」


「物事には、それが起こらなければならなかった理由が必ず存在し、またそれと向き合うことでしか得られない成長も存在する。君たちは今後、君たち自身の自由意志で困難に立ち向かった先でしか、押垂おしたり夕鈴ゆうりに辿り着くことはできないよ。くれぐれも気をつけて」


「! あなたは、もうすべて知って……!」


「どうかな。あと、今の話はまだYOSHIKAに言わないほうがいい。言えばその分、目標への道のりがさらにけわしくなるからねぇ。ククク……」


 音もなく消え去る情報屋。

 静寂をきわめた洞窟でひとり、楓也は目を閉じて考えふける。


(結局、あの人なりの誠意のつもり……だったのかな? いずれにせよ、ぼくがやらなきゃいけないことは変わらない。フィクサー(・・・・・)の証拠を、もっと集めなきゃ)



「自由意志と、♯∽Δ�§¶ですか……」


 星空の下、アイとアーリアが並んで座っている。


「ええ。後者はエリア(8)以上でないと認知できないので、きっと別の伝え方をしていると思いますが……今ごろ、もぷ太さんもこれと同じ話を聞かされているでしょう」


「楓也ちゃんが? 一体どなたから……」


「みなさんが黒の情報屋と呼んでいる人――波來ならい明虎あきとらからですね」


「まあ! あの方、プレイヤーでしたのね……わたくしはてっきり」


「ふふ、確かにわたし達と近いものがあるかもしれません。あの人の魂はちょっと変わっていますから」


「……明虎さんとあなたは、どういう関係なんですの?」


「それについては、次の目的地で知る機会があるはずです。申し訳ありませんが、今はお教えすることができません」


「わかりましたわ。それで、今回お話していただける内容はこれで全部でしょうか?」


「……もう一つあります。エリア(9)にいるあなただからこそ、この段階でお伝えしておかねばならないことが」


「?」


「夕鈴と同じあやまちを繰り返さないためにも、どうか心して聞いてください。さもなくばあなた達は――ヴェリスさんに殺されることになります」

今回は作中屈指の重要エピソードかもしれません。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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