第43話 うたげ
「ご協力に感謝いたします」
アスター王国軍、特殊部隊の隊長サブリナがお礼を言った。
シムルに暴行した偽の隊長らが連行された後、佳果たちはサブリナらの任務である残党の捕縛や、住民のケアを手伝っていたのだ。現在は全員で鉱山から帰ってきて、村人たちの狂喜乱舞を眺めているところである。
「当然のことをしただけだぜ。こっちこそ、あんたらが来てくれて助かったよ」
「何よりです。しかし、我々がもっと早い段階で賊の存在に気づけていれば、きっとここまでの事態には……本当に申し訳ありません」
サブリナは悲痛な表情をしながら、シムルに向かって深く謝罪した。彼はまっすぐに目を合わせると、にっこりと笑って返事する。
「姉ちゃんたちは悪くないよ。ここ、普通の人はそもそも見つけられないし、入ってこれない場所だったんだろ?」
「……ええ。不思議なちからで隔離された空間に存在しているようですから、情報提供がなければおそらく今も――ですが、それとこれとは話が別です。我々は、我々を騙る不届き者の蛮行を未然に防げなかった。この怠慢、あなた方には一体どうお詫びしたらよいものか……」
「だーかーら! それは姉ちゃんたちのせいじゃないってば! さあ、これからあいつら運んだり報告したりで、いろいろ忙しいんでしょ? この村はもう大丈夫だから、気にしてないでそっちに集中して!」
「シムルくん……ありがとうございます」
「……あの、サブリナさんちょっといいでしょうか」
「もぷ太どの?」
「その情報提供をした人って、今どこにいるかわかります?」
「ああ……いかんせん神出鬼没な方であるゆえ、恐縮ながら仔細はわかりかねます。ただ、今回の件が一段落したら皆様にお渡しするようにと預かっていたものがこちらに」
「まあ、なんでしょう?」
楓也が紙切れを受け取り、みんなでそれを覗きこむ。
そこには見覚えのある文字列と、一文が添えられていた。
「これ……あのときと同じ」
「あのとき? ヴェリス、この変な文字読めるのか」
「うん。ざひょーって言って、場所をあらわすものなんだって」
「ふーん……なあ、今度過去になにがあったのか聞かせてくれよ。まだ話してもらったことなかったよな?」
「そうだったかも。じゃあ今度ね」
「約束だぞー!」
二人が約束をとり付けている横で、佳果たち三人はひそひそと相談する。
「おい楓也、大丈夫なのか? "もぷ太くんだけで来るように"とか書いてあるが、場所はあの洞窟だろこれ」
「正直かなり怪しい誘いだとは思うけど……ぼくもあの人と話しておきたいことがあるし、ひとまず行ってみようかな」
「そうか? まあお前なら特に心配いらねぇと思うが、くれぐれも気をつけろよ」
「うん、肝に銘じておく! でも指定された時刻までは、まだかなり時間があるね」
「でしたら、わたくしに提案があります。サブリナさんも少々よろしいですか?」
「はっ。なんなりと」
◇
アーリアの先導で、ラムスの村の復興支援がはじまった。
村人たちは既に彼女の固有スキル《ユピレシア》によって回復しているのだが、せめて今日くらいは心を休めて欲しいという想いから、ゆっくり羽をのばしてもらっている。その間に、バフを盛って身体強化をした自分たちが動きまわり、掃除や改修といった作業を高速でこなしてしまおうという作戦だ。
ラムス自体が比較的、小規模であったこと。またサブリナが残していった部隊員たちが助力してくれたことも相まって、佳果たちは荒れ果てていた村を最低限生活できる水準まで一気に復元していった。
「よし、第一段階は上々。お次は宴の準備に入りますわ!」
村の中心部に大きなキャンプファイヤーをつくる。そこへ、食材の調達で山に出かけていたシムルとヴェリスが帰ってきた。インベントリから次々と出てくる色とりどりの野菜、大量の獲物や川魚を見て、佳果と楓也はたいそう驚いた。
「お前ら、よくこんなに採れたな!」
「すっごい美味しそう!」
「へへ、シムルがいい場所を知ってたの」
「長らく手つかずになってたからな。山のさち取り放題って感じだったぜ」
「自然さまさまですわね! さて、味つけについてはさっき住民のかたに教えていただきましたので、あとはわたくしが料理をするだけ。少々お待ちあれ!」
アーリアは手慣れた様子で食材に触れつつ、ウィンドウをいじる。するとそれらは空中に浮かび上がって自動的にカットされ、見る見るうちに立派な料理へと変身してゆくではないか。しかも皿付きだ。
「うお!? アーリアさん、こんなことまでできるのかよ!」
「うふふ。最初は現実と同じように包丁とんとん、お鍋ことこと……といった感じで熟練度のレベリングが必要なのですが、極めるとできちゃいますの♡」
こうして、ささやかではあるが、故郷の空気を吸いながら楽しめる即席の宴が開催された。集まった村人たちは解放の喜びを分かち合い、おふくろの味が再現された新鮮な料理に舌鼓をうった。大いに盛り上がっているさなか、シムルとその両親が佳果たちの元へあいさつにやってくる。
「兄ちゃんたち。改めて、本当にありがとうな。俺たちを救ってくれて……息子を支えてくれて、感謝します」
「つらいこともたくさんありましたが、またこの子の顔を見ることができるなんて……家族みんなでここへ戻ってくることができるなんて、まるで夢を見ているような気分です。生きていて……本当によかった……」
泣き崩れる母親の背中をさするシムル。
その光景を見て、佳果は目を細めながら言った。
「俺たちは何もしてないっす。あいつらを捕まえたのは本物の王国軍ですし、こういう巡りあわせになったのも、ぜんぶシムルが歯を食いしばって努力してきた結果なんすよ。お礼ならぜひ、シムルに言ってやってください」
「シムルはすごいんですよ! 闘技場で優勝しちゃうくらい強いんです!」
「他人のためならなんでも全力の、とーっても心の優しい子ですわ!」
「シムルは、わたしの自慢の友達です」
「お、おい……! 恥ずかしいからやめろって!」
「まあまあ、こんなに素敵な人たちと出会えるなんて……あなたにとっては大変な旅路だったと思うけど――良かったわねシムル」
「……ああ。ヴェリスや兄ちゃんたちは、いつもおれの心にいてくれた。それだけで力がどんどん湧いてきてさ」
「そうか、家族が増えたんだな。ようしわかった!」
シムルの父親が盃をかかげて、キャンプファイヤーの方へ歩み寄ってゆく。そうして彼は、高らかに宣言した。
「みんな、俺たちラムスの民に新しい家族ができたぞ! 外の世界からやってきた佳果くん、もぷ太くん、アーリアさんにヴェリスちゃんだ! 知ってのとおり、彼らはうちの息子を導き、我らを助けてくれた! 永遠に続くと思われた闇はうち祓われ、もはや我らを縛るものは何もない! 今日この瞬間の自由に、そして彼らの深い愛情に感謝を! とびきりの祝盃をあげようぜぇ!」
「うぉおおお」と地鳴りのような鬨の声が辺りに鳴り響いた。
「俺たちはこの恩を一生忘れねぇ! 最高の家族にかんぱいだぁ!!」
自動料理、あったら便利ですよね。
※お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかな~と思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!