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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第42話 本当の自分

「あ、あんただれ!?」


「そんな些末さまつなことはさておいて――あなた、彼らが憎いですよね?」


「え……」


「彼らはこの村を乗っ取り、皆を奴隷にした。家族は傷つけられ、あなた自身も二度踏みにじられた」


「……ああ」


「これほどの所業を前に、煮え返るはらわたをしずめるというのは……いかんせんこくな話だと思いますが」


「なにが言いたい」


「彼ら、無防備ですよねぇ。無防備でしょう?」


 そう言いながら、黒ずくめの男がシムルの肉体側に触れた。すると浮かんでいた自分はそちらに吸い寄せられ、元通り動けるようになる。だが、周囲の時間は止まったままだ。次に男は、警備の者から槍をとりあげてシムルに手渡した。


「これで頭でも心臓でも突けば、時が動き出したあと彼らは死にます」


「…………」


「しかもこの瞬間に起きたことは、何一つとして証拠が残らない。やるならまさに、千載一遇せんざいいちぐうのチャンスです」


「……なんでこんな真似まねを? あんたも、おれをはめようとしているのか」


「ククク、あるいはそうかもしれません」


「くそっ……なんなんだよ……やっぱりおれは、こういう運命なのか? どうしていつも……」


「悩まれている間に、もう少しお膳立ぜんだてしておきましょう。国をかたるというのはたいへんリスキーな行為でしてね。彼らに肩入れするような愚かしい陣営など、目下もっか存在しておりません」


「……どういう意味だ?」


「要するに、彼らさえつぶしてしまえば第二第三の悲劇は起こらない――俄然がぜん、やる気が出てきたんじゃないですか?」


「なるほど……でも」


「?」


「おれがこいつらを始末したところで、この世からこういう悪意自体がなくなるわけじゃないだろ」


「……ほう」


「兄ちゃんが言ってた。理不尽な世界は、変わることを知らないって。それってつまり、悪意は不変って意味なんだろうと思う。すごく嫌な解釈かいしゃくだけど」


「……続けてください」


「おれは今、こいつらをすぐにでも殺せるよ。だけど、たぶんそれはこいつらと同じ不変の悪意を、おれ自身もまとうことになるんじゃないか? こいつらを殺したら、きっとおれは別の悪意も殺さずにはいられなくなる……でも兄ちゃんは、変わらない土俵でやり合うなとも言ってた。だから……」


「ふむ。ということは、あなたにとって勝たなければならない相手は彼らでなく――あくまでも自分であると?」


「ああ。それにさ。おれにはもう負けられない理由もできちまってるんだ」


「……ヴェリスさんですか」


「そうだ。おれは、おれがそうしてもらったように……これからもあいつを助けられる存在でありたい。だから、二度と負けるわけにはいかない」


「しかし、それは負けた自分を切り捨て、勝った自分を選択することとも言えます。よいのですか? 負けた自分が、本当のあなただったかもしれないのに」


「あんたずいぶん意地の悪いこと言うな……そうじゃなくて、負けた自分がいたから勝てた自分がいるんだ。どちらも本当で、どちらも偽物で……うまく言えないけど、おれたちはそうやって"おれ"になった。そしておれがおれである以上は、もう迷ったりする必要はないのかなって、ちょっとそう思っただけだ」


「……クク……フフ……ハハハ」


「おい、なに笑ってんだよ!」


「いえいえ、楽しいときに笑わないでどうするんですか。そんなことじゃ長生きできませんよ?」


「いやなんの話だよ……」


「さて、あなたの意志はよく理解しました。ならばこれは彼にお返ししましょう」


 黒ずくめの男は槍を元の位置に戻した。

 そうしてふわりと浮かび上がると、振り向きざまに言い放つ。


「これから時を再開しますが、あなたは依然として窮地きゅうちのなかにあることをお忘れなく。ただ、結構楽しませてくれましたからね……餞別せんべつとして、一つ助言をさしあげましょう」


「助言……?」


一撃もらいなさい(・・・・・・・・)。それでは」


「あっ、待って! あんたは一体!?」


 シムルの問いに答える間もなく、彼は消えていった。

 同時に時が動き出し、眼前の男二人がたじろぐ。


「!? お前、いまひざをついていたはず……」


「くっ、隊長さがってください! 何らかの幻影魔法かもしれません!」


「なに!? ……小僧、こちらの厚意をむげにしたな! この場で切り捨ててやる!」


 動揺して武器を構える二人を、不思議なほど冷静に見つめるシムル。

 黒ずくめの男は変人極まりなかったが、時を止める絶対的な力を持っているのに、まるで自分を試すかのような問答をするだけして、結局なにもせずに去っていった。彼を信じるわけではないが、もらった助言の向こう側にはきっと、思いもよらない何かが待っているのだろう。そんな予感が、シムルをいつになく強気にさせた。


「切り捨てる……? こんなこども相手に、武器がなきゃ立ち向かえないのかよ?」


「なっ……! き、貴様、本性をあらわしやがったな……!」


「あ、そっか! へなちょこパンチしか打てないからか! うわぁ、すぐに気づいてやれなくてごめんな。威張り散らしてるだけで、本当はクソ雑魚だったんだよな!」


「――どけ、望みどおり殴り殺してやるからよ」


 挑発にのった隊長が、感情のままに拳を振るう。それを甘んじて受けたシムルは、扉を突き破って吹き飛んでいった。


「これだけで済むと思うなよ! まだまだ痛めつけて……!?」


 壊れた扉から複数の兵士が入り込み、またたく間に二人を取り囲んだ。状況が理解できない隊長は、呆然と自らに突きつけられた剣の刃先を見つめている。


「王国軍だ。現行犯で貴様らを捕縛する。あとの仲間は鉱山だな? これまでの狼藉をふくめ、洗いざらい吐いてもらうから覚悟しておけよ!」


「ば、ばかな……! どうしてここがわかって……!」


 大の字で倒れているシムルは、そのやり取りを聞いてくしゃっと笑った。


(ああ、変われてよかった。変わらなくて……本当によかった)

正義と悪意は表裏一体。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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