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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第41話 正念場

 コテージが見えてくると、おもむろにシムルが立ち止まった。


「悪い。中に入るの、おれ一人じゃダメかな」


「あん? ダメってこともねぇが、なんでだよ?」


「ここまで来れたのはヴェリスやみんなのおかげだ。でも、最後にかたをつけるのはやっぱり……おれ自身じゃないと意味がない気がするんだ。だから、頼むよ」


「……わかりました。ですが、念のため窓から様子を見させていただきますわ」


「やばそうな時はすぐに行くから、安心してがんばってきて」


「終わったらごはん食べよ。あの父ちゃん? って人も一緒に!」


「ああ、ありがとう!」


 真剣な面持おももちでコテージに入ってゆくシムルを見届けた一同は、こっそりと外壁に張りつき、窓をのぞいた。中には、鎧を着た男が二人いる。片方は大きなデスクに頬杖ほおづえをついてあくびをしており、もう片方は部屋の扉の前で、警備をしている様子だ。そこへ、シムルのノック音が響きわたる。


「何者だ!」


「シムルです。前に、出稼ぎの許可をもらった者ですが……ただいま帰還しました」


「シムル? 誰だったか」


「隊長、いかがいたしましょう。声からしてこどものようですが」


「まあいいだろう。通せ」


 シムルが入室する。警備の者は彼の首筋に槍を当てて、隊長と呼ばれた男の前まで誘導した。


「あいつ! 物騒なことしやがって……!」


「あの人たち、本当に国から派遣されたのかな。やってることが横暴すぎるよ」


「……みなさん、場合によっては強行突破で制圧するかたちになるかもしれません。いつでも動けるよう、心の準備はしておいてください」


 アーリアの言葉に、三人は神妙な顔をしてうなずく。そうして再び室内の様子をうかがうと、男は立ち上がってシムルをじろじろと確認し始めた。


「お前は……思い出したぞ。あの時に泣きついてきたガキか」


「その節は温情をいただきまして、ありがとうございました」


「……けっ。それで、何の用だ」


「未納分の税金をもってきました。確認をお願いします」


「なに?」


 シムルが差し出した袋を、ひったくるように受け取る男。彼はデスクに金貨を並べて少し驚いたような表情をしていたが、それは徐々に下卑げびた笑みへと変わってゆく。


「なるほど、本物のようだな」


「! では、約束どおり村のみんなを解放して……!」


「ぷっ……くくく……」


「え?」


「だぁっはっはっは!!」


 突如として爆笑する男に、シムルだけでなく佳果たちも唖然あぜんとしてしまう。


「あの、解放の件は……」


「シムルだったか。お前、本当にこれっぽっち(・・・・・・)で足りると思っていたのか? どこまでも間抜けなやつめ」


「は……なにを、言って」


「まあ確かに? 一個人としちゃあ大金かもしれないな? だが俺たちが徴収ちょうしゅうしてんのは税だ。わかるか? 国家規模で運用する税なんだよ! これしきで足りるわきゃねーだろうが!!」


 男が金貨を払い落とし、じゃりじゃりと無機質な音がけたたましく鳴り響いた。


「そ、そんな……でも、約束して……」


「ん? 隊長、こいつまだ金持ってるみたいですよ」


「ほう……解放だとか人聞きの悪いこと抜かしておいて、保身の分はしっかりキープってか。なかなかしたたかな小僧だ」


「!! これはダメだ! これはみんなから貰った、大切な……!」


「ふざけんな! ぜんぶ出させろ!」


 命令された警備の男が、無理やり袋を引きはがしてくる。ひざをつき、がくがくと震えるシムル。それを見下して、愉悦ゆえつにひたるように隊長は言った。


「お前はなーんにもわかっちゃいねぇ。あの日お前を外に出してやったのだって、別にやっすい土下座に同情したからじゃねーんだぞ?」


「……?」


「あれはな、お前の母ちゃんが誠意を見せたから手放してやったんだ。それをあたかも自分のちからだと勘違いした挙げ句、今さらすずめの涙もってきて正義ヅラとはな――馬鹿なこどもを持つと、親は報われねーもんだ」


「!!」


「いいか、お前は一人じゃなんもできねぇゴミクズなんだよ。ただ鉱山にいるゴミどもよりも、いくらかマシなのは認めてやってもいい。……そうだな。今回もってきた額、次は一週間で用意してみろ」


「――」


「それを続けられたら、今度こそ温情をくれてやるさ。もっとも、いつまで続くかはわからないけどな。っはははは!」


 悪意の濁流だくりゅうが、あらゆるものを飲み込み、破壊してゆく。聞き耳を立てていた佳果は、鬼の形相ぎょうそうで今にも飛び出そうとしていた。そんな彼を止める気にもなれず、楓也とアーリアは戦闘態勢に入る。しかし意外なことに、三人を制止したのはヴェリスだった。


「みんな、ちょっと待って」


 後ろを向くと、いつの間にか鎧を着た集団がすぐそばの岩陰で待機している。連中の仲間かと思って肝を冷やしたが、ヴェリスは凛とした表情で「大丈夫だよ」と言った。刹那、コテージ内の時間が止まり、男二人とシムルがぴくりとも動かなくなる。


「合図だ。総員、配置につけ!!」


 何事かと思っているうちに集団はコテージを包囲し、精鋭と思われる者たちが数人、入り口から内部へと突入していった。そして彼らを指揮しきしている女性がこちらへと近寄ってくる。


「こりゃあ、一体……」


「失礼、我々はアスター王国軍の特殊部隊。にせの部隊がここに駐留しているという情報提供があり、参上した次第です」


「お、王国軍!?」


「あなた方のことも存じ上げておりますよ。我々は味方です。ここはどうか、お任せいただけないでしょうか」


 佳果たちが混乱している一方、シムルは自分の固まった身体を天井から見下ろしていた。先ほどまで対峙していた隊長らも、微動だにせずたたずんでいる。


「な、なにが起きたんだ?」


「私が建物内の時間を止めたんですよ。そして、今のあなたは意識体です」


 真横に、怪しい黒ずくめの男が浮かんでいる。

お読みいただき、ありがとうございます。

「お金ってインベントリに入らんの?」

と思った方がいらっしゃいましたら、

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