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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第37話 つよさへの第一歩

「すごい、自分の身体じゃないみたいに軽い……」


 ヴァルムのショップ内。アーリアのアドバイスを参考に、じっくりと装備を整えたシムルが感嘆の声をもらす。佳果は彼の肩をたたき、「よかったな」と喜びを分かち合った。この店は何度も利用しているため、割引価格で購入させてもらえたのも僥倖ぎょうこうだった。


「姉ちゃんの説明がわかりやすかったから、自分に合ったものを選べたよ。さっきは一緒に悩んでくれてありがとう!」


「どういたしまして! でも感覚の違いを感じられるのは、あなたの素質によるものだと思いますわ」


「……そうなのかな?」


「ああ、お前は運動神経が良いみてぇだな。強くなるためには重要な要素だが……この先レベルが上がったり、装備を更新するたびに変化するから覚悟しとけよ」


「え゛っ! おれ対応できる自信ないよ」


「クク、まあ不安になるのはわかるぜ。俺やヴェリスも通った道だしな」


「兄ちゃんたちも?」


「おうよ。だがそんな時、便利なわざがあるんだ」


「便利なわざ……?」


「"かた"のことだよね、佳果」


「そのとおり」


「あはは、阿岸君のあれ、迫力あるよね!」


「??」


「実演するから、草原まで行こうぜ」



 武道には得てして、型というものが存在する。これをどう捉えるかは扱う武器や流派、理念によって異なってくるのだが、一つだけ共通点がある。それは、最も効率的な"心と身体の連動"を実現させるための、真髄がつまっているという点だ。


 草原に着いた一行は、アーリアと楓也がシートに座って参観さんかんするなか、ヴェリスとシムルが佳果と向き合うかたちで立っていた。


「始める前にひとつだけウンチクだ。お前、守破離しゅはりって知ってるか?」


「いや、聞いたことないな」


「そうか。平たく言えば、まずは基本を守って、次にそれをトコトンぶっ壊して再構築する。んでしまいにゃ自己流で好き勝手やっちまえーって意味なんだけどよ」


(一部の方面から怒られそうな要約だなぁ……)


(うふふ。佳果さん、生き生きしてますわね)


「なるほど……? で、それと型ってやつに、何か関係があるのか」


「ああ。ヴェリス、復習だ。説明してみな」


「うん。型はね、守破離の"守"――つまり、基本を守るために使うわざなんだって。弱いうちは、それだけに集中したほうがいいらしいよ」


「ふむ、具体的にはどうするんだ?」


「型を使って、まずはてめぇの能力が今どのへんにあるのかを正確にはかる。んで、等身大の能力がわかったら次は理想とのギャップを探す段階だ。身体の"ぎこちなさ"を確認する作業と言い換えてもいい」


「なんか難しそうだけど……そのあとは?」


「じきに、何が足りないのかが見えてくる。そっからは身の丈に合った鍛錬を積むようにするだけで、心と身体が繋がって自由に動けるようになるぞ。これが基本を守るってことの意味だ」


「……なんとなくはわかった。でも、まだイメージが湧かないなぁ」


「うし、じゃあ今から型を見せるぞ。つってもこの世界に合わせて俺が勝手につくったもんだけどな」


 佳果はひとつ深呼吸すると、ファイティングポーズをとった。そうしてパンチを左、右、左と可能な限りすばやく打ち、その連撃を三回ほど繰り返す。これには拳のスピードや空気抵抗をみることで、瞬発力と筋力を把握する目的がある。

 

 次に上段――人間でいう顔の高さをねらった後ろ回し蹴りを、これまた全力で放つ。身体がやわらかく、体幹がしっかりしていないと軸がブレて着弾点が動くため、ほどよい柔軟性と巧緻こうち性、すなわち器用さが問われる技術といえよう。


 後ろ回し蹴りが終わったら、そのまま片足で踏み出して飛び膝蹴ひざげりに転じる。飛距離に応じてジャンプ力がわかり、さらに地面に着弾した際の反動と穴の規模によって、防御力と攻撃力が読み取れる算段だ。なお、この際に痛みは生じない。


 最後は、飛び膝蹴りのはずみを利用して前方宙返りを行い、着地後は元の地点まで全力疾走ぜんりょくしっそうで戻る。身のこなしと足の速さから敏捷性をうかがい知ることができ、またここまでの動作でたまった疲労度から、スタミナも確認できる。


「ってな具合だ。地味で不格好に見えるかもしれねぇが……この世界では、これが一番手っ取り早く自分の能力を体感できると俺は思うぜ。日頃からやってりゃ、もし大きな感覚変化が起こっても、どう変わったのか冷静に見極められるはずだ」


「おお……確かにそれならレベルアップや装備更新にも対応できるか。とりあえず、おれもやってみるよ!」


「じゃ、わたしも最近やってなかったから一緒にやる」


「ああ!」


 こうして"型の稽古を行ってからレベリング"という習慣をつけたシムルは、その後驚くべき速度で成長してゆくことになる。

運動神経がほしい。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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