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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第36話 家族

 ヴァルム近郊までやってきた佳果たち。この一帯は、レベル1から30までのレベリングに適した環境だ。シムルのレベルは14――つまり格上さえければ、彼ひとりでも渡り合える相手の多い地域である。


「うりゃぁあ!!」


 勇気を振りしぼって戦闘を試みるシムル。すると、モンスターたちは拍子ひょうし抜けするほどあっさりと沈んでいった。彼は無知だった己を恥じると同時に、とうに見放したはずの自分が、今一度帰ってきたような心地に目頭めがしらが熱くなった。


 周辺の敵を一掃し、町で装備を買うためのお金を貯めてゆく。なお、本人たっての希望で佳果たちはいっさい加勢していない。彼は自分だけのちからで金策きんさくのぞみ、やがて目標額を集めきった。「待たせた! さっそく町に行こう!」と意気込むシムルの表情は、とても晴れやかだった。


 ヴァルム到着までの道すがら、シムルは戦果の金袋かねぶくろを見つめながらしみじみ言った。


「まさかレベルなんてものがあったとは……そんなの、故郷じゃ知ってるやつは一人もいなかったよ」


「でもお前、俺らと会った段階ですでに14レベルだったよな? どっかで上がった感覚とかなかったのか?」


「そういえば村を出てすぐ、モンスターが道をふさいでたから倒したんだけど……そこから急に身体が軽くなった気がする」


「たぶん、その時にレベルアップしたんだろうね。……あれ? でもあの辺りのモンスターって確か80レベル前後だったはず……一体どうやって倒したの?」


「崖から大岩を落としたり、他のモンスターを誘導してきて争わせたりしたんだ。一週間くらいかかったけど、粘り勝ちってやつかな」


「へぇ、それはすごいや! 阿岸君も言ってたけど、シムルは根性あるね! 地頭じあたまもいいみたいだし、将来有望だよ!」


「そ、そんなことは……」


 められ慣れてないのか、シムルは赤面して横を向いた。


「ふふっ。とはいいましても、あまり無茶をしてはいけませんわよ? 故郷にはあなたの帰りを待っている人が、たくさんいるのですから」


「……おう。おれも、もうあんな危ない橋をわたるのはごめんだ……何度も負傷して、死にかけたからな」


「! 怪我をしたんですの……!? 傷は今どうなっていますか!」


「え!? もうけっこう前のことだし、治ったから平気だよ」


「いいからよくせてください!」


「お、大げさだなぁ姉ちゃんは……」


 シムルは少し照れながら服をめくった。腹や背中、腕などに戦いの勲章くんしょうが刻まれている。幸いどれも完治しているようだが、当時はかなり重傷だったであろう深い傷跡もいくつか残っている。


「まあまあまあ……痛かったでしょう」


「や、痛いのは慣れてるし。別に余裕だったよ」


 頭の後ろで両手を組んで、くしゃっと笑うシムル。彼にとっての普通は、世間にとってのそれと大きく乖離かいりしていた。原因となったのは、税をせしめているという例の連中に違いあるまい。――まざまざと非情な現実を見せつけられ、一同は事の深刻さに閉口せざるを得なかった。


「……余裕ってのは嘘か。本当は、自然に助けてもらわなかったらやばかった」


「自然、ですか?」


「ああ。おれさ、家が貧乏だったから食える野草とかキノコとか、だいたいわかるんだよ。そのなかには傷の回復を早めるやつとかもあって……おれが死なずに済んだのは、そいつらのおかげなんだ。おれにとって自然は命の恩人。毎日祈るくらいには感謝してる」


 あまりにも厳しい環境と境遇。彼はそのような逆境のなかでも、必死に生き抜くすべを模索して今日まであがいてきたのだろう。その小さな身体が背負った無数の痛みを想像すると、かつて失った大切な存在の記憶がよみがえってくる――佳果は静かに目を細めて言った。


「……そうか。なあシムル。自分のことダセぇとか言ってたけどよ」


「?」


「お前はかっけぇよ。今まで……よく一人で頑張ってきたな」


 わしゃわしゃとシムルの頭をなでまわす佳果。その感触が妙にくすぐったくて、なぜだかまた泣きそうになってしまう。「よ、よせよぉ!」と逃げるようにヴェリスの横へ並んだ彼は、こっそり小声で言った。


「ヴェリス! お前の家族、なんかみんなふわふわしてんぞ! 変な感じする!」


「……かぞく?」


「兄ちゃんたちのことだよ。お前の家族なんだろ?」


「…………」


 きょとんとするヴェリス。想定と異なる反応がかえってきて、シムルは少し引き気味に言った。


「も、もしかしてなんか訳ありだったのか? すまん」


「ううん、そうじゃなくて……かぞくって、何かなぁと思って」


「はあ? お前そんなことも知らないのかよ……決まってるじゃん」


「?」


「いつも、自分の心にいてくれる人たちのことを家族っていうんだよ。……少なくともおれの故郷ではそうだったけど、もしかして他じゃ違うのか?」


「心に……」


 ヴェリスはおもむろにみんなの前に躍りでて、質問する。


「ね、わたしは佳果のかぞく?」


「あん? どうしたよ急に」


「アーリアは? 楓也は? わたしの……かぞく?」


 純粋なまなざしで聞いてくるヴェリス。三人は一瞬顔を見合わせたが、すぐに破顔した。佳果はアーリアと楓也に耳打ちすると、かがんでヴェリスとシムルに肩を組んだ。そうしてあっという間に五人の円陣ができあがる。何事かと驚いて地面を見つめているうちに、佳果の言葉が響きわたった。


「俺たちはパーティであり、ダチであり、仲間でもあるが……それ以前に家族だ。誰がなんと言おうと、それだけは変わらねぇ! わかったか!?」


「「おー!」」


「おい、二人聞こえなかったぞ」


「わたしも?」「え、おれも言うの!?」


「もっかいいくぞー。俺たちは家族だ! わかったか!?」


「「「「おー!」」」」


 普段見せることのない佳果の一面に驚きつつも、言葉にできない熱が全身を駆け抜けてゆくのがわかる。ヴェリスはにんまりと、幸せそうに笑っていた。

かっこいい大人になりたい。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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