表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
43/355

第35話 不変の変化

「そりゃ、おれだって……」


 シムルは眉間みけんにシワを寄せて、拳を強く握りしめた。


「おれだって、ひとりじゃ何もできない自分が心底ダッセぇと思ってるよ! でも……でも、他に方法がなかったんだ! モンスターと戦えば半殺しにされる! おれみたいな汚いガキは働こうにも門前払いだ! おれが何かしようとすると、必ず世界がそれを邪魔してくるんだ……!」


 まくしたてるシムル。涙を浮かべ、声を震わせる少年を縛っている怒りの矛先は佳果ではなく――その瞳を通じて痛感する、己の無力さに向けられていた。自分がちっぽけな存在であると理解するたび、行き場のない厭世感えんせいかんがぐるぐると思考をかき乱してゆく。


「なんでだ……? なんでおればっかり……悪いのはあいつらの方じゃないか。なんでこんな目に合わなきゃならない? なんでおれが、あいつらのためにこんな頑張らなきゃいけないんだよ!?」


 佳果の胸ぐらをつかんだシムルは、守れなかったプライドの残骸をひた隠すように叫んだ。様々な感情でぐちゃぐちゃになったその顔から、片時も目をはなさず佳果は言った。


「シムル。お前は死ぬほど優しいんだな」


「!?」


 予想だにしない言葉に、彼は目をむく。楓也とアーリアは目配せして小さくうなずくと、引き続き二人の対話を見守った。ヴェリスは佳果の背中をじっと見つめている。


「お前の言うとおり、この世にはどうしようもねぇ理不尽ってのがあるらしい。マジで、嫌になっちまうよな」


「…………」


「しかもタチの悪いことに、その理不尽ってやつはいつまで経っても変わることを知らねぇ。たぶん俺たちは生きているかぎり……それに責められ続けるんだろうよ」


「……そうだよ! そんな理不尽がなければ……あいつらさえいなければ、おれたちは平和に暮らせていたのに! こんなふうにつらい思いをすることもなかったのに!」


「けどなシムル。たとえ世界が変わんなくったってよ……お前は(・・・)変われるはずだろ?」


「! ……それは違うッ! クソみたいな世界のために、おれが変わらなきゃいけない理由なんてあるわけがない!」 


「ああ、そうだな。その変化を受け入れちまったら、ここまで踏ん張ってきたてめぇの生き様を否定することになっちまうもんな」


「そこまでわかっているなら……!!」


「まどわされてんじゃねぇ!!」


「!」


 佳果の一喝が響きわたる。

 自分よりも大きい人間の叱咤しったに耳がひりつく。しかし故郷でさんざん聞かされた怒号とは異なり、その声は恐怖や悲しみをもたらす力を内包していなかった。

 少し冷静になったシムルは、改めて彼の瞳を見る。そこに宿っているひかりが、自分の心奥しんおうにへばりつく何かを無遠慮ぶえんりょに照らし続けているのがわかる。


「お前の変化はそいつらのためのもんなのか? 違ぇだろ! お前自身と、てめぇが守りたいもん守るための変化だろうが!」


「そ、それは詭弁きべんだ! 世界が変わらないままなのに、おれだけが変わったって……そこに意味なんかないじゃないか!」


「本当にそうか? 俺にはまるで、変わらねぇ世界がお前を絶望させて、お前自身が変化をこばむよう仕向けてるように見えるぜ――今まさに、そうなってるみたいにな」


「……!」


「そんなくだらねぇ出来レースにわざわざ付き合ってんのは……お前が、本当の自分を殺せるほど優しいからだ。いいかシムル、"変わらねぇ"って土俵どひょうでやり合うんじゃねぇ! お前がお前を生きられない理由に振り回されてやるな! 不変の世界なんて放っておいて、てめぇの大切なもん守ることだけを考えやがれ!」


「――」


 佳果がシムルの小さな両肩を、わしっとつかんだ。

 後頭部をなぐられたような感覚が押しよせる。彼の手からじんわりと伝わる熱が、経験したことのない感情を呼び起こす。

 ――会ったばかりの、まだ大人でもない男の言葉が、どうしてここまで心を乱すのだろう。どうして、涙を止められないのだろう。


「……ぐすっ……でも、おれが弱いのはまぎれもない事実だ。変わりたくても……変われない。おれじゃ故郷を救えないんだ……」


「心配しなくていい」


「え……?」


「さっきステータスを見せてもらったが、お前はそもそもこの辺りのモンスターに太刀打たちうちできるレベルに達してねぇ。それと文無しだから当たり前だが、装備も最低限のものすらそろってねぇ状況だ」


「うん。それらを適正水準に引き上げるだけでも、だいぶ話は違ってくると思うよ」


「あなたは何も知らなかっただけなのですわ。そしてそのような逆境のなかでもひたむきに生き抜いてきたからこそ、こうしてわたくしたちと巡り会えたのでしょう」


「あの……それって……」


「ああ。今からお前をヴァルムって町へ連れて行く。そこから始めれば、着実に強くなれるぜ。最終的にはあの闘技場で優勝できるくらい鍛えてやるから、せいぜい覚悟しておけ」


「! ほんと……!?」


「たりめーだろ。一緒に強くなって……ちょっくら救ってやろうぜ、お前の故郷をよ」


 佳果はいつものニカっとした笑みで、シムルを励ました。ヴェリスはその光景が少しうらやましかったが、すぐに優しく目を細めて彼の背中をたたいた。


「がんばろっ、シムル」


「ヴェリス……兄ちゃんたち……! ありがとう!!」

変わるのって本当に勇気がいります。


※お読みいただき、ありがとうございます!

 もし続きを読んでみようかな~と思いましたら

 ブックマーク、または下の★マークを1つでも

 押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ