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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第34話 心のドア

「よし、かわいいのができましたわ!」


 仕事部屋でひとりごつ彼女――アーリアこと知京椰々(ちきょうやや)は、ついゲーム内での口調が出てしまった自分に対し、小さく笑った。


(わたし、よほどアーリアが好きみたいね。どっちも自分だけど!)


 今しがた描きあげた渾身のデザイン画を、最終チェックしてから先方に送る。椰々は「うーん」と体をのばし、紅茶を飲んで一息ついた。そろそろ夕方だ。今日のノルマは達成したし、あと小一時間もすれば彼らもログインする頃合いだろう。


 仕事部屋から出て、普段着に着替えてから顔を洗う。気持ちのメリハリをつけるため、たとえ在宅ワークの日であっても彼女は自主的に化粧をする習慣があった。


 ぷはぁとさっぱりして、顔をタオルで包みこむ。鏡を見ると、深い青色の大きな瞳が充血していることに気づく。少したれ目の二重ふたえまぶたはうっすらとむくみ、下の方には淡いクマもできていた。


(やだ、ちょっと根を詰めすぎたかしら)


 念入りにスキンケアをしてから、ウェーブのかかったアッシュブラウンの長髪をポニーテールにして、キッチンへ向かう。自炊している最中、ぼんやりと浮かんでくるのはヴェリスの顔だった。


(あの子、身寄りがないのよね……)


 自らの境遇と、彼女を重ね合わせる。

 赤ちゃんポストにあずけられ、里親に育てられた椰々は本当の親を知らなかった。しかし義理の両親は、これ以上ないくらいに愛情をそそいでくれた。ファッションデザイナーとして自立した現在、彼女が稼いだお金のうち半分を毎月仕送りしているのは、人の愛し方を教えてくれたことに対する感謝のしるしであり、また「もう心配いらないよ」という意思表示でもあった。


 その分を貯金して「早くいい人を見つけなさい」と結局心配されてしまっているのはここだけの話であるが――椰々にとっては、今の生き方こそが最善だった。


 ただ、ヴェリスにとっての最善がどういうかたちなのかはわからない。彼女には無限の可能性と、無数の選択肢がある。ならば、わたくし(・・・・)だからこそできるやり方で、その歩みを支えたい。幸せになってもらいたい。もちろん、若いあの二人の青年も含めて。

 アーリアは行儀ぎょうぎよく食事をしながら、ひとり意気込んでいた。


「ふふっ、今日も楽しい思い出が作れるよう、がんばるぞー!」



 佳果たちがアスターソウルで集合する時刻は、いつも19時から20時くらいの間だ。今日はたまたま、全員が19時ぴったりに集まってきた。アラギの宿で顔を合わせた一同は、見知らぬ少年が一人混じっているのに気がつく。


「おわ、ヴェリスそいつ誰だ?」


「んと、シムルっていうらしいよ」


「……ども、お邪魔してます」


「まあ! もしかしてお友達ができたんですの?」


「ん~、友達というより"くらいあんと"かなぁ?」


「ヴェリス、どこで覚えたのそれ……」


 シムルは律儀りちぎに、自らが一度あやまちを犯したことも含めて、いっさいの事情を正直にうち明けた。その上で協力をあおぎたいと申し出る彼の表情は、真剣そのものだった。


「頼む、どうか力を貸してくれよ!」


「なるほどな。しかし、そんな状況の村があるならもっと話題になってそうなもんだが……」


「シムルくん、あなたの故郷はこの地図でいうと、どの辺りにありますか?」


 アーリアがマップを見せると、シムルはおおよその位置を指さした。だが、そこに村があるといった情報は特に載っていない。


「うーん、表示上にない場所か。イベント専用のエリアとかかもしれないね」


「イベント専用……おいシムル、お前ってNPCなのか?」


「? ヴェリス、えぬぴーしーってなんだ」


「ステータスって言ってみて」


「す、すてーたす」


 現れたウィンドウにはしっかりとSSやスキル説明が出ていた。シムルの年齢はヴェリスと大差ないように思われるため、彼もまた、NPCに転生した現実世界の魂と考えるのが妥当だろう。ところがウィンドウを目にするのはこれが初めてらしく、彼は目をぱちくりさせながら大変驚いている。


「プレイヤーみてぇだな。んで、お前はその村で育ったのか?」


「あ、ああ……赤ん坊のころからそこで暮らしてたけど」


「となると、ヴェリスちゃんとは少し違うケースみたいですわね……」


「ええ、まさかヴェリス以外にも転生者がいるなんて」


「……なあ兄ちゃんたち! それよか返事を聞かせてくれよ!」


「そうだったな。――でもその前に、ひとつ確認したいことがある」


 おもむろに片膝をついて、シムルと目を合わせる佳果。彼の真っ直ぐで澄み切った瞳は、直視していると何かが壊れそうな気がして、シムルの赤い瞳は小さく泳ぎまわった。


「な、なんだよ……」


「お前はおとこを見せてここまでやってきた。人のもんパクっても、すぐ思い直せるくらいには根性もわってる。だからこそ、確認しておきたい」


「……?」


「お前は、お前が(・・・)故郷を救いたくて今まで気張きばってきたんだろ。それを見ず知らずの俺らにゆだねちまって、後悔しねぇのか?」


「!」


 泳いでいた瞳が止まる。反撃するかのごとく佳果に向けられた視線には、強い意志の光と、恐怖におびえる闇の二律背反にりつはいはんがせめぎ合っていた。

親孝行、できるうちにしたいですね。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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