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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第33話 ねがいのありか

 近くにあった川のほとりに座って、二人は言葉をかわした。


「で、なんでったの?」


「……おれの故郷はまずしくてな。税をおさめられなくて、国のおえらいさんが居座って監視してるんだ。そいつら、村のみんなを……奴隷どれいみたいにこき使うんだよ」


「どれい……」


 嫌なフラッシュバックが起こる。こちらを人として見ていない、ギラギラした目。売るほうも買うほうも、自分ではなくその先にある欲望に興味があるだけ。

 ヴェリスは、少年の燃えるような赤い目がうるんでいるのに気づいた。彼もまた、怒りと憎しみのはざまでおぼれているのだろう。彼女の視線を感じた少年は、涙と顔の傷を隠すようにそっぽを向いた。えりあしを縛った黒髪が、風で揺れている。


「でも、金さえ用意すれば解放してくれるって一番偉いやつが言ってた。おれは土下座して頼みこんで、なんとか出稼ぎに行く許可をもらったのさ」


「……」


「ただ、あいつらが要求してる金額は思っていたよりも法外で……とてもじゃないが、マトモなやり方で集めるのは無理だと思った」


「――なら、やっぱりこれを」


「ダメだ! それを受け取ったらおれは……おれは二度と、本当の意味で故郷に帰れなくなっちまう。……やったあとで気づくなんて、つくづく馬鹿みたいだけどな」


 少年は立ち上がり、ボロボロの服をぎゅっと掴んでうつむいた。


「なあお前、強いんだろ? 一緒にいたあの兄ちゃん達もさ」


「え? ……たぶん?」


「一生のお願いだ。あいつらをぶっ飛ばしてくれないか……!?」



 ログアウトした佳果は昼過ぎまで寝て、学校へ向かった。

 あっという間に午後の授業は終わり、放課後になる。楓也に途中まで一緒に帰ろうと声をかけたところ、これから生徒会室へ資料を届けなければならないとのことだった。見るからに重そうだったゆえ、半分持つと申し出る。


「お前、勉強も部活もマジメにやってんのに……生徒会まで入ってんのな」


「あはは、内申ないしん稼ぎみたいなものだよ。バイトはしてないし、帰ったら阿岸君たちとアスターソウルができるから……くじけずに頑張れるかな」


「もしかして、いい大学でも狙ってんのか?」


「その逆さ。ぼくはこれだけやれるんだーってところを親に見せつけて、夢に近づくための下積みをしてる感じだね」


「夢?」


「うん。まだ誰にも言ったことないけど、ぼくは役者になりたいんだ」


「へぇ、そりゃいいな!」


「そ、そう……?」


「ああ。お前ならぜってーいい役者になれるわ」


「ありがとう……でも、どうしてそう思うの?」


「お前は色んなやつの立場で物事を考えられるからな。なのに自分の軸がぶれることもねぇ。そういうやつの演技は、きっと大勢の心に届くだろうなと思ってよ」


 彼は誇らしげにそう言った。こういうところは、本当に敵わない。

 楓也は少し泣きそうになったが、再びお礼をいいながら笑った。


 生徒会室にたどり着いた二人は、コンコンとノックをしてからドアを開ける。なかには事務作業をしている担任教師の依帖えご稔之としゆきが座っていた。


「おお、ご苦労さま青波君……あれ、阿岸君もお手伝いですか? 感心ですねぇ」


「ちょっと気が向いたもんで」


「えへへ、本当に助かったよ。依帖先生、資料はここに置いて大丈夫ですか?」


「ええ、二人ともありがとうございました。しかし阿岸君、最近はちゃんと出席しているようで何よりです。遅刻するのは相変わらずみたいですけど」


「俺、夜型人間っすから」


「……まったく、若いうちから変なくせをつけないようにしてくださいよ? それと青波君。申し訳ないけど、これからも彼の面倒を見てやってくれますか」


「はい、もちろんです」


「おいおい、小学生じゃねーんだから……」


「ならばしっかりと自己管理をすること! 二人で夜更かしばかりしていてはダメですからね?」


「へーい。んじゃ俺らはこれで」


「失礼いたします!」


 生徒会室を後にした二人は、そのまま下校する。

 道中、佳果は楽しそうにアスターソウルの話をしていた。その一方で、あいづちを打つ楓也の表情はどこか曇っている。


「ん? どうかしたのかよ」


「あ、ごめん。ちょっと考え事しちゃって」


「……さてはまた何か抱えてやがんな? 隠し事はなしって言ったばかりだろ」


「うん。でもまだ、確実なことは言えなくて……そのうち、必ず相談するから」


「……ならいい。お前んち、確かあっちだったよな? ここで分かれとくか」


「そうだね。じゃあ後ほど、アスターソウルで落ち合おう!」


 「おーう、またな」と手をふって帰ってゆく佳果。

 楓也はその後ろ姿を見送ったあと、あごに手を当てて思いふけった。


二人で夜更かし(・・・・・・・)?)

筆者が最初に描いた夢は医者でした。

皆様は過去、どんな夢を持っていましたか?


※お読みいただき、ありがとうございます!

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