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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第三章 円をえがく道 ~負けられぬ理由~
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第32話 おいかけっこ

「おめでとうヴェリスちゃん」


「えへへ、ありがとう」


 大金星をあげてロビーに戻ってきた彼女を、アーリアはひしと抱きしめた。


「なかなか気合い入ってたじゃねーか」


「ぼくもまだ優勝したことないのに……本当にすごいね!」


「そうかなぁ?」


 きゃいきゃいと喜びを分かち合う一行。

 その様子を遠くから覗いている何者かの視線に、彼らはまだ気づいていなかった。



 闘技場を後にして郊外に向かい、予定通りレベリングも済ませておく。現在ヴェリスのレベルは75だ。次のレベルキャップまで、あと15レベル。


「ヴェリスはもうすぐ、一旦カンストだな」


「ん、いい汗かいた」


「二人とも、お疲れー!」


「つめたいものを用意してきましたわ」


 アーリアが差し入れのドリンクを手渡してくる。「サンキュー」とそれを受け取った佳果は、ゴクゴクと飲みながら言った。


「そういやさ、俺はSSがⅤだから、レベルは150で打ち止めになるんだよな?」


「うん、合ってるね。何か気になることでも?」


「ん~~、今後のエリア移動のことを考えると、やっぱ俺も上限まで上げといたほうがいいのかなって」


 これまでヴェリスがエリア移動に成功した二つの事例では、いずれも彼女のレベルがカンスト状態になっていた。これが偶然なのか条件なのかはわからないが、無関係とは考えにくい。


「どうなんだろう……単純にレベルが上がれば身体能力もアップするから、イベント探しの道中が楽になるのは確かだけどね」


「条件になっている可能性があんなら、上げとくに越したことはねぇ気がしてな。まあ、どのみちこいつを置いて先へ進むつもりもねぇし……いま考えなくてもいいか」


 ニカっと笑ってストレッチを始める佳果。ヴェリスはちゅるるとドリンクを飲みながら思った。最近、みんなの目的はエリアⅩへの移動なのだと、薄っすら理解できるようになってきた。今の話を聞くかぎり、佳果は早く150レベルに到達するべきではないのだろうか。


 ――もし、自分が足をひっぱっているとしたら。

 不安そうな表情をするヴェリスを見て、アーリアは彼女の後頭部をなでた。


「アイちゃんの言っていた期日まで、まだ10ヶ月以上もあります。この短期間でヴェリスちゃんは二つもSSを上げたわけですから、引き続き同じペースで進んでゆけば、近い将来エリアⅤにも到達できるでしょう」


「そうですね。そこから先はぼくらも一緒にエリア移動すればいいだけですし、焦らずに全員(・・)で進みましょう。ね、ヴェリス?」


「……うん、わかった」


「ん? ……あ゛! すまねぇヴェリス、不安にさせちまったか?」


「ダイジョブ」


「だぁ~俺が悪かったよ! お前を置いてっ走ったりしねーから安心しろって!」


「……じょーだんっ」


「お、お前なぁ」


「あっはは、阿岸君のそういう顔はじめて見た」


「うふふ、わたくし達は運命共同体です。きっと誰が欠けてもエリアⅩには到達できませんから、みんなで足並みをそろえて、なかよく着実にまいりましょう!」



 アラギに帰還すると、もう現実世界ではよい時間になっていた。

 お開きムードになり、みんなでヴェリスを宿に送っていっせいにログアウトする。去り際、佳果は「俺らが戻るまで、なるべくこっから出んなよ」と耳打ちした。


 一人になったヴェリス。しーんとした室内は、どこかさびしい。

 ベッドに座って目を閉じると、闘技場での戦いがよみがえってくる。

 身体がビリビリして、心がふるえた優勝の瞬間。

 ――釘をさされたばかりではあるが、もう少しだけ。

 彼女は町のにぎやかさに、もう少しだけ酔っていたい気分だった。


(ぷれぜんとを買うなら、今がチャンスだ)


 賞金とチップの入った袋を握りしめて、町へと繰り出す。何を買おうかと商店街をさまよっていると、不意にネコが路地裏へ入るのが見えた。小さい生きものが珍しくて、ヴェリスは思わずその後についてゆく。


 すぐに袋小路ふくろこうじにたどり着いた。残念ながら、ネコの姿はもう見当たらない。しょんぼり戻ろうとした瞬間、身体にドンと衝撃がはしる。尻もちをつき、何事かと振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。手元にはお金の入った袋が――盗まれたのだと理解したときは、既に少年が走り出したあとだった。


「ま、まって! それは大事な……!」


 いくら呼びかけても少年が止まる気配はない。しかたなく、ヴェリスは本気で追いかけることにした。独自のルートで器用に逃げ回る少年だったが、彼女のすばやさは伊達だてではない。郊外付近までやってきたところでとうとう、ふんづかまえられてしまう。


「かんねんしな」


「くっ、くそぉ……!」


「さ、かえしなさい」


「い、いやだ! これはおれのもんだ! 死んでもわたさない!」


 懸命に袋を守る少年を見て、ヴェリスはふと過去の自分が重なった。生きるために、パンにしがみついていたあの局面。ふるえている少年の瞳は、よく知っている深い闇にまみれていた。彼女の脳裏のうりに、老人と若い男、そして佳果の顔が思い浮かぶ。


「……いいよ」


「…………は?」


「あげる。じゃ、いろいろがんばってね」


 そう言い残し、ふらふらと町へ帰ろうとするヴェリス。彼女の後ろ姿をぽかんと見ていた少年だったが、すぐに我に返って立ち上がる。


(なんだよ、それ)


 自分は決死の覚悟でこれを奪った。奪ったからこそ失ったものがある。なのにあいつは、それを奪い返すどころか、まるで許したかのように去ってゆくではないか。

 奪われたはずのあいつは、自分の知らない何かを得たのだとわかった。くらべて、自分は失ってばかりだ。きっと、今までも、この先も――。


(……なんだよそれ!)


 気がつくと少年は走り出し、ヴェリスに袋を突き返していた。


「え、なに」


「かえす!!」


「でも、さっきは……」


「かえすったらかえす!!」


 泣きじゃくる少年。

 よくわからないが、とりあえず話くらいは聞いてやろうとヴェリスは思った。

足は速くも遅くもないはずなのに、

鬼ごっこでは鬼ばかりやってた記憶があります。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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