第29話 プレゼント
「じゃーん、いかがかしら?」
「わ、さすがアーリアさん! 見違えたよ阿岸君!」
「そ、そうか……?」
「ん、佳果いいかんじ」
アラギの町は他所と比べてもショップが豊富で、装備はもちろん、外見を変えることのできる"おしゃれ着"の品揃えもよい。イメージチェンジするにはうってつけの場所であるゆえ、長らく無難な格好をしていた佳果とヴェリスは現在、アーリアの厚意によって着せかえ中である。
「自分に関してはよくわかんねぇけどよ、ヴェリスは似合ってると思うぜ。まあ本職? のアーリアさんが見繕ってくれたわけだし、当然っちゃ当然か」
足首まで丈のあるマントのようなアウターに、アシンメトリーの肩アーマー。白と青を基調とした軽装鎧は清廉さとワイルドさが調和していて、彼の品格にぴったりだ。この世界の服は適宜、物理的に透ける機能がそなわっているため、動きやすさにも支障はない。
対してヴェリスは黄色とオレンジを中心にスカートとケープをまとい、髪飾りやペンダントなどのアクセサリー類もつけている。一気に華やかな雰囲気となった彼女は、あどけなさを残しつつも妙齢と錯覚させるような、上品かつ健康的な佇まいに変身している。
「うふふ、二人ともとってもまぶしいですわ! この町に来たら服をプレゼントしようとずーっと考えていたので、感無量です!」
「そうだったのか。恩に着るよアーリアさん」
「ありがとうアーリア!」
「どういたしまして! それでは会計してまいりますわね。店員さーん」
ご満悦でレジに向かうアーリア。楓也は改めて二人のコーディネートを眺め、しきりにうなずいている。
「うんうん、よかったね! そのロッドや剣も様になってるし!」
「ま、得物として使うかはまだわかんねーけどな。やっぱ男は拳だろ!」
「拳だね!」
一緒になって左の手のひらにパンチするヴェリス。アスターソウルでは61レベル以降から武器が解禁されるということで、彼女はロッド、佳果は剣を買ってもらった。しかし彼らは運動能力が高いステータスのため、格闘路線のほうが性に合っているのかもしれない。武器はあくまでも、飾りとして携帯する未来がみえる。
「ん~、阿岸君はともかく、ヴェリスはたしなみを覚えたほうがいいかもなぁ。……色々と便利だよ?」
「便利?」
「おい楓也、ちょっと悪い顔してんぞ」
◇
買い物を終えた一行は、今日も今日とてレベリングを行うべく郊外に向かっていた。ヴェリスは新しい自分がよほど気に入ったのか、くるりと回りながら先行している。
「ご機嫌かよ、あいつ」
「ふふ、こちらまで嬉しくなりますわ。ゲーム内の服はよごしたり破けたりしても、お店に行けば一瞬で直せますし……いくら動いても邪魔にならないから安心です」
「オシャレ好きにとっては天国みたいな環境ですよね」
「ええ、本当に」
「……今まで考えたこともなかったが、そういう世界もあんだな」
「お、興味もった? 阿岸君もこっちへ来るかい!?」
「いや、お前のはなんか違う気がすんだけど……」
「ねーみんな!」
唐突に、前方のヴェリスが声を張った。
「あー? どした」
「わたしもみんなに、ぷれぜんとあげたい!」
「まあ!」
「えへへ、あの子はどんどんかわいくなっていくね」
「親バカみてーだぞ。……でもよおヴェリス! なんか買うためには結構、金がいるんだぜ?」
「うん……モンスター倒すだけじゃ足りないよね。なにかいい方法ない?」
「でしたら、あれ一択でしょう!」
「あれ?」
佳果とヴェリスは、彼女の指さす方向を見る。そこに構えていたのは、観覧車からも見えたあの闘技場だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
「最後に服買ったのいつだっけ……」
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