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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第二章 誰がための力 ~暗躍する善意~
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第28話 湯けむりのなかで 女性編

「あ……!」


「どうですかヴェリスちゃん、これが温泉です!」


 はじめて見る圧倒的な湯量ゆりょうにヴェリスは興奮した。けむりがもくもくしていて、やわらかい熱気を感じる。構造は男湯と同じなのだが、こちらは暖色系がコンセプトになっているらしく、そのデザインだけでもリラックスできる空間に仕上がっている。なみなみと湯が張っている大きな湯船は美しく輝き、思わず飛び込みたい衝動にかられてしまう。


「アーリア、あれ入ろう!」


「ふふ、はやる気持ちはわかりますけれど、先にシャワーを浴びてからにしましょう」


「えー、でも」


「これも大人のエチケットですわよ」


「お、大人の……!」


 素直に踏みとどまり、意気揚々とバスチェアに座るヴェリス。アーリアはバスグッズの入ったカゴを横に置いて彼女の後ろにかがむと、ペリドット色のしなやかな髪にシャンプーをつけて優しく泡立てた。


「わわっ」


「洗ってさしあげます」


「いいの?」


「もちろん。わたくし、シャンプーの腕には自信がありましてよ。少し前まで美容師をやっていましたから」


「びようし、ってなに?」


「そうですわね……"かわいい"や"きれい"になるための、お手伝いをさせていただくお仕事かしら」


「もしかして、きらきらにするの?」


「まあ、素敵な表現。そうそう、みんなのことをぱぁっと明るくするんですの」


「……ねえアーリア。わたしも、きらきらになれるかな」


「ヴェリスちゃんはすでに十分じゅうぶんひかっていると思いますが、あなたがそうなりたいと心から願うなら――きっとなれます。わたくしも応援しますわ!」


「そっか……ありがとう! あれ、よく見たらアーリアもきらきらしてるね」


「へっ? そ、そうかしら」


 鏡ごしに、ヴェリスの視線が上下している。

 アーリアは少し照れて、脇をしめながら言った。


「うーん、髪をおろしている方が好印象なのでしょうか……」


「髪? んと、それはどっちも好きだよ。あとね、いつもの服のアーリアも好きだし、今のぽよんアーリアも好き」


 モコモコの泡にまみれた髪で振り返り、抱きついてくるヴェリス。フルーティーな香りと、軽快にスキップしているような彼女の鼓動に思考をほだされる。アーリアは目を閉じ、心の声に耳をすませた。


(わたくしにもし家族がいたら、ずっとこんな穏やかな気持ちで暮らせていた未来もあったのでしょうか)



 露天風呂に来た二人は、一風いっぷう変わった浴槽よくそうに目が行った。いわゆる"つぼ湯"というやつで、こぢんまりとしたそれには専用のカケヒ――つまり新しい湯を供給するための竹が備えつけられている。常にフレッシュなとろみを楽しめる他、少し狭いのもかえって、まったりとした時間を演出してくれるおつな代物だ。


「あそこでゆっくりしましょうか」


「さんせい!」


 二人で同じつぼ湯にかって絶景を堪能たんのうしていると、少し離れた場所から佳果と楓也の声が聞こえる。やたらと楽しそうだ。


「あら、向こうもいい感じに骨休めできているみたいですわね」


「一緒に入りたかったなぁ」


「ふふ、それだと二人がのびのび入れませんもの。わたくしたち大人は我慢です!」


「そっかぁ、大人だからしょうがないね」


「ええ。……ところでヴェリスちゃん、嫌だったら答えなくてもいいのですが、あの時――太陽の雫をにぎっていた時、何をお祈りしていたんですの?」


「ん~? 佳果とアイ……ゆうり? が教えてくれたことかな」


「佳果さんと夕鈴ちゃん? 今回わたくしと楓也ちゃんには見えていませんでしたけれど、記憶の話かしら」


「たぶん、そうだと思う。……二人がね、気づかせてくれたの。わたしがあの時、本当にやらなきゃいけなかったこと」


「?」


「あいつらを襲ってる時、わたしずっと心が痛くて苦しかった。でもそれはわたしだけが感じていたものじゃなくて……佳果やみんなも、そうだったんだって気づいた」


「……ええ」


「一人で気づけなくてごめんなさい、って思った。気づかせてくれてありがとう、とも思った。でも、本当はどっちも同じ気持ちだってわかって……だからあの時、わたしは敵を倒すんじゃなくて、みんなを助けるために力を使わなきゃいけなかったの」


「力……あの、青いオーラのことですわね?」


「うん。あれ、わたしの深いところから出てるみたい。あいつらを倒したいって心で叫んだら、わたしはわたしじゃなくなってた。でもみんなを助けたいって心で叫んだら、あのきれいな石がモヤモヤを吸いとってくれて……ぴかーって、お空にも知らせてくれた。そしたら、わたしはわたしになってたんだ」


「お空、ですか」


 ふと見上げると、澄んだ青空がどこまでも続いている。あの先にあるものは、たとえどんな世界にったとしても――変わらないのかもしれない。

お色気不足で申し訳ありません(デフォルト)。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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