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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十六章 贖罪がもたらすは ~懺悔に花を添えて~
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第347話 ヴェリス

「サプレッション」


 静かに固有スキル名を唱えた佳果の体が、オーラに包まれる。そのゆらめきは以前と比べて輝度の落ち着いた金色で、他にも赤と青の発光体が周りを旋回、足元には太極図が浮かび上がっている。エフェクトが変化しているのは明らかだ。


「あ、あれ……?」


 不意に、ヴェリスが戸惑いの声を上げる。佳果の灼然いやちこなる雰囲気に目を奪われていた一同は、はっとして一斉に振り返った。すると彼女の体からもまた、金・赤・青・白・黒のオーラが立ちのぼっているではないか。


「ヴェ、ヴェリス……!?」


「……ふむ。阿岸君とは、少し顕れ方が違うみたいだけど……」


 楓也の言うとおり、彼女の場合は発光体や太極図が見受けられず、オーラのみが流動している塩梅だ。“マイオレム”を発動したときと同じで、さながら炎色反応のごとく、各色が混じったり単一になったりを繰り返しながら神秘的にはためいている。

 シムルはその美しさに圧倒されてしまったが、すぐに我に返り、会得したばかりの零感を駆使して“中身”がどうなっているのか洞察を始めた。かたわら、アーリアはとある場面のヴェリスを思い浮かべる。


「このゆらめき……見覚えがありますわ」


 彼女の言葉に反応して、空間に映像が投影される。

 映し出されたのは、アパダムーラと交戦中のヴェリスである。


「あ! そういえば……」


「確かに、こんな感じじゃったのう」


 互いに顔を見合わせ、小さくうなずく零子とガウラ。二人はあのとき後方支援に回っていたものの、最前線で奮戦するヴェリスの姿は凛々しく、どこか神々しくすらもあったため、遠目であっても脳裏に焼きついていたのだ。ただし、映像とは異なる点がひとつだけがある。当時、彼女のオーラに金色は含まれていなかった。


「……もともと、ヴェリスちゃんが纏うオーラは赤と黒の二種類だけだったんですの。そこへ青が加わったのは、囚われた佳果さんを助けるべくクイスのアジトへ赴いたときでした」


「さらに白が増えたのは、ウーさんが“正しい時”に化けたあとでしたよね」


「……で、仕舞しまいには黄金すらも混じったというわけか」


 相槌がてらチャロとノーストが補足してくれる。だがいつもと違い、二人はそこから流暢な解説に入ることはなく、難しい顔をして続けた。


「……実をいいますと、この件に関しては強い斥力が働いておりまして。それもわたしだけでなく――」


「吾にもまったく見通せぬ。つまり上位誠神と魔神、双方に秘匿されている可能性がある。その点で、別の宇宙が絡んでいる心配はないだろうが……」


「完全に意図を解き明かすのは、“曖昧”な吾輩でも不可能だにゃあ」


 ウーも二人のお手上げ宣言に加わる。――どうやら眼前の光景には、何かとんでもない事実が隠されているらしい。ここにきて楓也はふと、かつての明虎の見解を思い出した。


『彼女はおそらくYOSHIKAの魂と呼応している』


(……あの人でさえ、推測の域を出ないといった口ぶりだったけど。斥力の影響を受けない黒雲(アレ)と繋がっている今の阿岸君なら、もしかすると――)


「佳果、これなに?」


 楓也が期待を寄せるさなか、ヴェリスが皆の抱いている疑問をストレートに投げかけた。その眼差しは事あるたび「あれなに」「ここなに」と訊いてきた、あのときと何ら変わらぬ無垢さであった。

 佳果は微笑し、静かな口調のままで答える。


「そうだな……おおよその見当はついてるんだけどよ。確証を得るには、シムルの考えを聞いておく必要がある」


「シムルの?」


「ああ。先読みした情報の中に、いくつか欠けてる部分があったもんでな。そこを共有するかどうかは、本人に任せる采配なんだろう」


「采配……? いったいどなたの――」


 そこまで言いかけて、アーリアは押し黙る。

 佳果が深々と頭を下げたからだ。


「――みんな、さっきは本当にすまなかった。黒雲(こいつ)の侵蝕を抑えようと必死こいてたら、すっかり周りが見えなくなっちまってた。……本来なら、この映像が見えたはずだったんだ」


 「頼む」という兄のアイコンタクトにうなずき、シムルがクルシェと対話したシーンを共有する。無論、今回は等倍速で。

 うつわに関する情報は神の助けがあってようやく理解可能な概念であることに加え、この瞬間に取り立てる必要もないため、掻いつまむ程度にとどめておく。いま焦点を絞るべきは――対話の終盤、彼が“純粋”な状態で見た地球の姿である。その様子を空間に映しながら、シムルは言った。


「ウーを助けたとき、みんなも一度見ているはず。地球を覆ってる、このきらきらした粒子のことを」


「うん、見た。……何回見てもきれいだね」


「まこと、えも言われぬ美しさよのう」


「……あのときは直後にウーの転生を控えてたから、まじまじと観察するのはこれが初めてだけど」


「ええっと。今しがた共有していただいた情報に鑑みるなら……あれはいわば、地球の生命エネルギーなんですよね?」


 零子の確認に、シムルは「そうだと思う」と返し、続ける。


「問題は、その生命エネルギーにときおりデコボコが発生していること。基本はきれいな円形を保っているけど……ほら、またあそこに」


 彼が指さした部分が、まるでドライアイスを水に放り込んだときのようにモクモクと縦横無尽に動いている。やがて元のなだらかな状態に戻ったが――アーリアは真剣な表情で推し量った。


「これは……“霊媒”、なのでしょうか?」


「“零感”の可能性もあるな。いずれにせよ……」


「――そう。星の生命(いのち)として、あれが自然な在りかただとはとても思えない。わたしはずっと、そこに引っかかっていました。そして、この直感が間違っていないとすれば……」


 チャロがウーとシムルを交互に見やる。この二人のげんをもって、佳果の言う“確証”が得られると思ったからだ。


「シーちゃん。吾輩も今やこの星の一部だから、薄々感じてはいたんだけど……もしかして?」


「……さっきからずっと、零感を通してヴェリスを見てたんだ。ウーの言うとおり、この“曖昧”な目をもってしても完全には神々の意図を捉えることができない。ただ――」


 ひとつだけ、火を見るより明らかな事実がある。それを口にするのは、彼女との距離を言語化するようで非常に憚られたのだが。彼は意を決したように、ヴェリスを見据えて言った。


「お前と、同じなんだよ」


「……え?」


「お前のオーラ……その根底にある生命エネルギーがさ。地球のそれと、同じように動いてんだよ」


 刹那、彼女は目をまんまるにした。難しい知識が前提になっているゆえ、言葉の意味を正確に理解できたわけではない。しかし、理解せずとも感覚で納得してしまう。ヴェリスは佳果に向き直り、どうしたらよいかわからないといった面持ちで答えを求めた。

 彼は一呼吸おいて、ついにその重たい役割を打ち明ける。


「――やっぱりそうか。ヴェリス、どうやらお前んなかには……地球の魂が宿っているらしい」

この話はもう少しあとでやるつもりでしたが、

今以上に適切な場面が訪れる気がしなかったので

思い切って書き切りました。


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