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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十六章 贖罪がもたらすは ~懺悔に花を添えて~
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第346話 阿岸佳果

「別の、宇宙」


 ヴェリスは黒雲をまじまじと見つめた。正直、理解も想像も及ばない。ただ、“他の世界”が自分たちの意志とは関係なくどこかで回っていることは、かつてアーリアが魔境の存在に思い至った際、記憶を失っていたノーストが見せたあの驚愕と困惑の表情に学んでいる。

 ――それはとても残酷な真実であると同時に、とても慈悲深い現実でもあった。きっとノーストは、知る前も、知ってしまった後も、たくさんの痛みを感じたに違いない。


(……痛いのは嫌い。でも……それに救われることもある)


 佳果と始めて出会ったとき、打ち合った手のひらがジンジンしたのを思い出す。あれは自分の原点だ。おそらく他のみんなも、そういう出来事があって今を生きている。痛みは辛いが、辛さは笑うための原動力になる。なのに、佳果は。


(ずっと……夢のなかにいたんだね……)


 麻酔を打ち続けていたのは、あの黒雲だ。そこに在って、そこには無い呪い。ノーストのおかげで、黒い光と同じ性質を持っているのはわかった。でも、いつかけられた呪いなのかはわからない。黒い光にしても、『狂え』の先に死の運命があったのなら、結局なにを期待していたのかがわからない。

 佳果のいない世界、陽だまりの風が止んだ世界に、特別な価値があったとでもいうのだろうか? もしそれが、どうしても必要なものだったのだとして。こちらの宇宙では、痛みなくして、得ることも捨てることもできないというのに――。


(あ)


 ――違う、のかもしれない。宇宙が変われば、価値も変わる。この“現在”は、数多の意志から望まれ、生まれ出たものだ。それはどこまでも正確で、綿密で、誰のせいでもあるし、誰のせいでもない結果。だからこそ、ヴェリスは思わずにいられなかった。なぜ呪いではなく、祝福というかたちで。


「なかよく……できなかったのかな」


 彼女が涙を流すと、頬を伝って落ちた雫が、波紋となって空間に広がった。そのあたたかな揺らぎに触れ、陽だまりの風はにわかに、正気を取り戻してゆく。


「……そう、だね。たぶん、ぼくたちの尺度では向こうを計れないのと同じで、向こうもぼくたちのこと計りかねた結果なんだと思う。でも……」


「佳果さんが選ばれたのには、必ず理由があるはずですわ。わたくしたちはそれを……家族として、人間として、いずれ突き止めなくてはなりません。ただ……それをなすためにも、今この瞬間、まずやらなくてはならないことがあります」


「ええ。……あたしたちのやるべきは、愛をやわらかくすること。まだまだ、道半ばではありますけれども――」


「これだけは断言できるよ。兄ちゃんのソレは、過去じゃなくて未来のために使うべきだ。だから、現在いまを踏み外させるわけにはいかない。もし足元がおぼつかないっていうなら……」


「佳果よ、お主はただ、どこまでも阿岸佳果であれ。わしに……自分に“逃げろ”と言ってくれた、あの熱き炎をしるべに」


「うぬの存在証明を果たすがよい。そして、吾らとともにゆくのだ。すべて(・・・)を赦し救うという、かくも酔狂で痛快な旅路をな」


「ヨッちゃんならできるよね! だってあなたは、いつだって愚直に道なき道を切り拓いてきた。なら、あなた自身もきっと……」


「“否定”を、生きる理由にしなくて済むはずですよ。あなたが頭ごなしに肯定してみせた、わたしが言うのだから間違いありません」


 心の伝播が活性化している影響で、まるで全員がひとつの意思で喋っているかのように、佳果を鼓舞してゆく。極めつきは――。


『ふふっ。どうやら、もう二人旅じゃなくても良さそうだね』


 佳果の内側から、再び黄金の粒子が舞った。

 それは夕鈴の姿を象り、彼に語りかける。


「ゆう、り……? どうして……」


『言ったでしょ? “あなたが自分を否定し続けたとしても。あなたが佳果であるかぎり、この想い(ひかり)が消えることはありません”って…………あ、そっか。あのときの佳果、気を失っていたんだっけ』


「!? いったいなんの話…………いや……でも俺は、この光のこと……前から知っていたような……」


『――やっと、“本当の自分”を生きられるようになったんだね。……大丈夫、何も思い出せなくたって、魂は覚えているから。そこは誰にも触れさせないし、絶対に奪わせたりしない』


「……お前は……」


『さあ、ここからが佳果(・・)だよ! わたしはいったん手を離すことになるけど、またすぐに伸ばしてくれるって信じてる。そしたら力いっぱい握り返すから……今度こそ、次は現実世界(あっち)で会おうね、佳果!』


 一方的のようで、双方向の、違えることのない、何度目かの約束。それを矢継ぎ早に取り付けた夕鈴は、満足そうに笑みを浮かべて薄くなってゆく。その様子を驚きつつもどこか安堵して見守る一同に、彼女はぺこりと一礼してみせた。最後に楓也とチャロにアイコンタクトを送った彼女は、目を細めて小さく手を振り、ついには消えていった。


 ――佳果は、静寂のなかでしばらく俯いていた。しかし、ふと口元をゆるめて顔を上げる。そこにはいつもの光を瞳に宿しつつも、黒雲と繋がり続ける彼の勇姿があった。

久しぶりに、キャラクターたちの意思に導かれて

当初の予定とはだいぶ異なる展開になりました。


ちなみに


アーリアが魔境の存在に思い至った際=第80話

佳果と始めて出会ったとき=第14話

あのときの佳果=第331話


です。ご参考までに。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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