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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第二章 誰がための力 ~暗躍する善意~
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第27話 湯けむりのなかで 男性編

 次なる町、アラギに到着した一行。しばらくはここを拠点にして、ヴェリスと佳果のレベルを90まで上げる予定だ。エリア移動に関しては、常に関連イベントの発生に気を配っているものの、結局どれが該当するのかは終わってみないとわからないため、ひとまず受動的な姿勢でのぞむということでパーティは合意した。


 そして予定通り、周辺モンスターと戦ってレベリングを行う二人。アーリアと楓也も、素振りをして技や魔法の精度を磨く。一汗かいた彼らは、アラギに戻って温泉に入ろうと思い立った。


「おんせんってなに?」


「でっけぇ風呂だよ。なかなかいいもんだぜ」


「! 風呂、すき!」


 ヴェリスの目が輝いている。そういえば、宿屋では三回も入ったと言っていた。


「あら、ヴェリスちゃんもお好きでして? わたくし、温泉には目がありませんの! アラギは他の町と比べても素晴らしい浴場ばかりで、特におすすめなのは山の方にある『せせらぎの湯』です。あそこは景色もよくて、なんといっても源泉かけ流しですわ!」


「うわあ、よさそうなところですね!」


「……いや、そもそもゲームに源泉とかあんのか?」


「そこ、野暮なことは言いっこなし!」


「アーリア、わたし行ってみたい」


「まあ、ヴェリスちゃんは良い子ですわね。では早速まいりましょう!」



 せせらぎの湯、男子更衣室。楓也のアバターは現実世界の容姿を基準としているため、アバターのおしゃれ着を解除するとしっかり本人のいでたちになる。腰にタオルを巻いた彼を見て、佳果はしみじみと言った。


「なんか新鮮だな。こっちでお前の姿みんの」


「あはは、そういえば初めてだったかも。というか、あっちでは温泉なんて一緒に行ったことなかったよね……ぼくも不思議な感覚だよ」


「だな。しっかしお前、もっと肉とか食ったほうがいいんじゃねーか? そう細いと力でねーだろ」


「結構たべてるはずなんだけど……まあ、細い方がオシャレ的には都合がいいし、ぼくはこのままでもいいかなぁ。そういう阿岸君は、やっぱりバキバキなんだね?」


「おう。鍛えてっからな」


「でも、君こそたんぱく質ばっかりってると早死にしちゃうよ? 野菜とかもちゃんと食べないと」


「あー、わかっていはいるつもりなんだが……野菜たけーんだよ」


「……そっか。はやく、逆玉ぎゃくたま輿こしに乗れるといいね」


「逆球残し? なんだそれ魔球かなんかか?」


「なんでもないよっ。さあ行こう」


 浴場に入ると、おもむきのある和風の内装が目に飛び込んできた。まるでオープンしたてのような美しさと清潔感があり、内湯うちゆだけでも圧巻の広さを誇っている。ゲームならではの利点として、パーティで入場すれば他の客はいない状態で楽しむことができる。貸し切り同然で、好きなだけ滞在が可能だ。


「ひゃー、こりゃ確かにすっげぇわ。アーリアさんの温泉好きってのは、伊達だてじゃねぇみてーだな」


「本当だね。これで現実の身体もキレイになってくれたら最高なんだけど」


「ま、さすがにそりゃ贅沢ぜいたくってなもんだろ。とりあえず、ちゃっちゃと身体洗って、入ってみようぜ」


 身支度がおわった二人は、さっそく内湯に入った。ヒノキの優しい香りに包まれて、心がやすらぐ。温度も熱すぎずぬるすぎず、丁度よいあんばいだ。おっさんのような声をあげる佳果の身体から、バフのエフェクトが立ち上った。


「おっ、これこういう効能もあんのか」


「お風呂上がりの1時間、ステータスの一部が向上するんだ。といっても上昇値は微々たるものだから、あくまでもメインは温泉を楽しむことだよ」


「なるほどな。なあ、あっちのドアから露天も行けるっぽいぜ」


「わ、行ってみようか」


 ししおどしのある露天風呂は閑静かんせいで風情にあふれ、山からの絶景が一望できる。湯の花が咲いており、肌が少しぬるっとして面白い。二人はひとしきり温まったあと、ヘリに腰かけながら話した。


「……阿岸君、クイスのことなんだけど」


「あん? んだよ改まって」


「本当にごめん」


 うつむいて暗い顔をする楓也。佳果はその横顔をちらと見て、景色のほうへ向き直った。


「お前がスパイやってたって話だろ? 別にいいんじゃねーか。俺らのためだったって話だし」


「でも、ぼくはあの人たちの凶行に気づけなかったどころか、間接的に君やヴェリスを危険にさらす手伝いをしてた部分もあるんだ。……許されることじゃないよ」


「そりゃ結果論だろ。相手のほうが一枚、上手うわてだっただけのこった」


「いや、違うよ。ぼくがもっとうまく立ち回れていれば……もっと早くみんなに素性を打ち明けていれば、君をあんな目に合わせずに済んで――」


「はぁ~~。お前な、その理屈だと俺だって力不足であいつらに捕まっちまった落ち度があんだろうが。ヴェリスを除いたら一番未熟なくせして、なんも考えずに独断であいつを遊園地あそこに連れて行ったのも俺だし、拷問されるくらい敵をあおり倒してメンチ切ったのも、俺自身の選択なんだよ。アイと出会った時点で、なんか嫌な予感はしてたのにな……ばっちりフラグ回収? ってやつしてやがんの」


 歯にきぬを着せず、佳果は肩に湯をかけながらニカっと笑った。


「むしろ、お前らの方が狙われなくてよかったわ」


「……阿岸君はやさしすぎるよ」


「ばっきゃろー。あれこれ考えすぎて、んな顔してる奴に言われたかねーよ」


「ごめん……ありがとう」


「へっ、気にすんな。つーかさ、あの連中なんか様子が変だったんだよな」


「え?」


「いちいち言動にためらいがあったぜ。俺が色々やられてる時も、あのダクシスとかいうやつ以外はあんま乗り気じゃねーみてぇだったし」


「――やっぱりそう、なんだ」


「どういうことだ?」


「クイスは、限りなくアウトに近いグレーゾーンで活動している部分の多い組織だったんだけど、基本的に一線は引いていたんだよ。それも、ダクシス代表の指示でね」


「……つまり?」


「どこかに、今回の一件をけしかけた(・・・・・)存在がいる。ぼくはそいつのしっぽを、絶対につかんでやるつもりだよ」


 火照ほてる身体とは裏腹に、楓也が冷たい表情と声色で静かに言った。

 佳果はおもむろに湯船へ入ると、彼の腕をぐいと引っ張った。


「おらぁ!」


「へ? あ、うわぁ!!」


 どぼーんと水しぶきあげて、お湯に顔面からつっこむ楓也。ぶぼぼと咳き込みながら涙目で振り返ると、そこにはカカカと笑って仁王立ちする佳果の姿があった。


「とにかく! 今後はお互い隠し事なしってことでこの話は終わりだ! せっかくのいい湯が辛気くさくてかなわねぇだろ? そら、向こうまで競争でもしようぜ!」


 ジャバジャバとクロールを始める佳果は、なんだかやけに楽しそうだった。広がる波紋に当たり、楓也は自分のなかで何かがじんわりと溶け出すのを感じた。

お察しのとおり、次回は女性編です。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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