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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十六章 贖罪がもたらすは ~懺悔に花を添えて~
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第338話 ザワザワ

(うう、相変わらず気味が悪いなあ……)


 変なエネルギーでいっぱい。これは初見時ヴェリスが忌憚きたんなく述べた、このやかたの評価である。霊感をおさめた今のシムルならば、何が「変」なのか探ることもできよう。だが、依然としてこわいのが苦手な彼に、無理をするという選択肢はなかった。見ざる聞かざると縮こまりつつ、奥の部屋へ進んでゆく。ちなみにウーはいったん滝に戻って休憩してくるとのことで同伴しておらず、現在はひとりだ。


(ええっと、確かここだったよな)


 ほどなくして、「陽だまりの風」を命名する運びとなった思い出の場所――占いの間に到達する。扉を開けると、以前はなかった大きなテーブルが中央に置かれていた。新調したのだろうか。

 シムルが入室した瞬間、周りに座っていた何人かが彼のほうへと向き直る。


「おっ、来たね!」


「待っていましたわ、シムルくん!」


 とびきりの笑顔で迎えてくれたのは楓也とアーリアだ。

 ――先ほどまで霊的な次元にどっぷり浸かっていた影響で時空感覚が麻痺していたからだろうか。二人の声を懐かしくすら感じてしまう。

 なぜか感慨深そうに「ただいま」と返事するシムルにアーリアは一瞬きょとんとしたが、すぐに目を細めてこう言った。


「……うふふ、おかえりなさい」


「その感じだと、シムルもいろいろあったみたいだね?」


「うん、本当に……いろいろと」


「――となれば、此度こたびはまた一段と長くなりそうだな」


 楓也たちの向かいに座っているノーストが、腕を組みながら相槌をうつ。隣にいるガウラも大きくうなずいた。


「なんだかんだ、最近はみな自らのなすべきことに集中していたからのう。わし含め、それぞれ積もる話を持ち寄るかたちになりそうじゃ」


「タイミング的にはベストですね。ここで情報共有しておけば、わたしたちは加速度的にエピストロフへ近づけるはずですから」


 上品にホットティーをあおるチャロ。話の流れからして、どうやらいつもの“会議”を控えているようだ。いつもはラムスで開催しているが、今回の舞台はこのエレブナ。何か意図があるのだろうか。


「……ってあれ? ヴェリスや兄ちゃんは? 零子姉ちゃんも見当たらないけど……」


「零子ちゃんはわたくしたちを“おもてなし”してくださるそうで、今はその準備に。ヴェリスちゃんたちは……お花を摘みに行かれてますわね」


「あ、男性用は扉を出て右の突き当りにあるよ。和迩わにさん、まだ準備には時間がかかると言っていたから。もしアレだったら、シムルも今のうちに行っといで」


「なるほど、おっけー」


 言われるがまま、着いたばかりの部屋を出てお手洗いに向かうシムル。例によって、NPCの性質をもつ者は食事で霊質をまかなって生命エネルギーを維持している。この体はアストラル体だが、新陳代謝のためには排泄も必要となるのだ。


(ん? でも、兄ちゃんは必要ないよな。どうしたんだろう)


 兄があえて花を摘みに席を立ったのなら、他の皆も同じ疑問をいだいていておかしくない。しかし先ほど、特に誰も気にしている様子は見受けられなかった。なぜか? ――答えは、無人のお手洗いが物語っていた。


(ああ、そっか。冷静に考えたら、そりゃそーだよね……)


 つまるところ、(ヒュレー)体がメインの兄は一時的にログアウトして、向こうで用を足しているのだろう。終わったら直接、占いの間に姿を現すものと考えられる。ならば自分も早く済ませて、さっさと戻ろう――そう思った瞬間だった。


「おう、シムルじゃねえか」


「へあっ!?」


 ガチャリと鍵を開ける音と同時に、個室から出てきたのは佳果である。


「あ、わりい……途中だったか?」


「いやまだだけど……じゃなくて! なんで兄ちゃんがここに!?」


「ん、誰も言ってなかったか? ……ちっとばかし、考える時間がほしくてよ。いかんせん、ひとりじゃねーと上手くまとまらん気がしたもんでな。んで、考え事といやぁやっぱここだろ?」


「……」


 確かに、閉鎖的な空間とは得てして雑念が生じにくい。たとえば“追体験”の際に苦しめられたあの悪夢のループも、閉じ込められた病室がリスポーン地点だったから最低限の施行回数、思考回数で攻略できたのだと今は思っている。――などと、自分は何をマジメに考察しているのだろうか。


「ご、ごほん。とりあえずおれは終わったらすぐ戻るけど、兄ちゃんは?」


「そうだな……もう少しと言いてえとこだが、向こうもそろそろ始まるだろうし。ここいらで切り上げて、お前と一緒に戻るとするぜ」


「りょーかい。じゃあちょっと外で待ってて。……もう絶対おどかさないでよね」


「わるかったって……」


 佳果が出ていったのを確認し、ふうと一息つくシムル。なんだか最近いろんな人に驚かされている気がする。

 ――しかし、兄が人目をはばかってまで考え事とは珍しい。もちろん思慮深い一面があるのは知っているが、このタイミングで何か悩んでいるのだとしたら少し気になるところだ。


(……まあ、必要なことなら包み隠さずしゃべるだろうし、隠したとしてもみんなが放っておかないよな)



「んん」


 お手洗いの前で腕を組み、天井を見上げる佳果。


(……だぁー、どうにも引っかかるぜ。桐彦さんたちに“西沖会”ってワードを聞いてから、なーんか頭ん中がモヤモヤするんだよな。そりゃ俺にとっちゃ因縁の相手なわけで、当たり前っちゃ当たり前だが……じゃあ、心までザワザワすんのはなんでだ?)


 彼に憑依している桐彦と福丸は、存在の周波数が合わないためアスターソウルに顕現できない。いま彼らがそばにいたならば、零子を介して西沖会の情報を再確認したい心境である。


「……」


 ――否、実際にはできないかもしれない。なぜなら、それについて思いを巡らすたび、漠然とした恐怖が芽生えて「踏み込む」ことを躊躇させられるからだ。


(……まったく情けねえ。恐怖になんざ、もう縛られないと思ってたんだがな)

久しぶりにみんなが集合です!


※お読みいただき、ありがとうございます!

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