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第336話 コーザル

※更新速度を上げるため、今回のエピソードから「重複表現の忌避」を緩和します。詳しい内容につきましては、あとがきをお読みください。

「――」


 にわかに現れたもう一人の自分に驚くシムル。コーザル体と名乗った彼の表情はアラギの『せせらぎの湯』で見た牛頭天王ゾグのごとく、意味ありげに草臥くたびれていた。世界の光から生まれたように見えたが、もしや――。


「……へへっ、さっそく勘違いしてるみたいだな」


「え?」


「おれは別に、チャロ姉ちゃんみたいな存在でもなけりゃ神仏の類でもないよ。わかりやすくいうなら、あんたらがやがて行き着くであろう“SSⅩ”に近いシムル。この場ではとりあえず、未来の自分とでも考えればいいんじゃないかな」


「未来の……」


 唐突すぎてイマイチ理解が追いつかない。ただ、直前のクルシェのげんに加えて、今まで見聞きしてきた話を統合すると腑に落ちる点はいくつかある。


 ひとつは、世界の光があるこの領域――天界の一角が、メンタル体で観測できる次元なのだということ。以前、明虎は「精神統一」や「零気」といった技術を用いて愛を活性化させれば、アストラル体以下でも“感じられる”ことを教えてくれた。しかしそれを“視る”レベルに引き上げるためには、どうやらこの「精神体」が必要不可欠だったようだ。


 そしてもうひとつは、「数多の意識が収束する源流」である世界の光が、未来の自分を象った意味。これはつまり、「自他の意識」が時空を超えた領域にて融和し、境界線を失うものであることを示唆しさしている。かつてアスター城で奥義を披露した際、兄は『俺とかお前とか関係ねぇ気がしてきたぞ』とつぶやいていたが――。


ヴェリス(あいつ)が『最後はひとつになる』って言ってたのもそうだけど、こういう意味だったのか……)


「ちなみに、おれたちは一般的にハイヤーセルフとも呼ばれているぞ。器としては霊体(れいたい)。さっきも言ったけど、コーザル体ってのに当たるわけだ。んでもって……」


『その先は私が説明しよう』


 再びクルシェの念話が頭に響きわたる。――否、背後から声が聴こえた。

 おもむろに振り返るシムル。するとそこには、迫力のあるいかめしい顔をした巨大な黒龍がたたずみ、目の前に迫っていた。


「どわわっ!?」


『おっと、すまない……驚かせてしまったか』


 彼は微笑すると、徐々に小さくなって人のかたちをとった。長い黒髪をなびかせ、中性的な顔立ちをしている。これは以前、東使組のビルで精神世界に突入した佳果や楓也と接触したときと同じ姿なのだが、シムルにとってはこれが初見である。

 表現しがたい美しさを帯びた存在に、彼は思わず呼吸を忘れてしまった。


(なんて神々しい……って、神様なんだから当たり前か)


「ふふ、この領域はほぼ5次元に位置するゆえ、こうして私も顕現できる次第。――とまあ、それはさておきだ。仕上げとまいろう」


 クルシェは未来のシムルの後ろに(ヒュレー)体、(エーテル)体、(アストラル)体、精神(メンタル)体のホログラムを生成した。


「これら四つの器は、最上位であるコーザル体がつかさどっている“意志の指令”に依存する。ここでいう意志とは、汝らが等しく抱いている根源的な想い。すなわち世界の光と同じ周波数をもった“願い”を指している」


「同じ周波数の願い、ですか」


「どんな願いだと思う?」


 未来の自分が問いかけてくる。

 ――世界の光に融ける前段階の「集合意識」において、たとえばラムス村の近くに生えているラムノンの実は「誰かの糧になりたい」という願いをもっていた。これを「万物のささやき」として聞けるようになった現在のシムルは、他の植物や動物などの願いを汲んで、料理などに昇華することもできようになっている。


「……世界の光は、おれら人間の集合意識も含まれている“世界善意”。なら、それが求めているのは――」


 ふと佳果やゼイア、ナノの顔が浮かんだ。その後ろにはヴェリスがいて、陽だまりの風がいて。さらには、これまで自分を応援してくれた人たち。ひいては「魔除け」を届けて喜んでくれた世界中の人たちの笑顔もあった。

 彼らを想起したシムルは、願いの正体を確信せずにはいられなかった。


「おれは……おれたちはたぶんお互いに、お互いを愛したいと思っています」


 彼の出した回答に、クルシェと未来の自分は顔を見合わせてから深く頷き、そして笑った。


「そう、生きとし生けるものは“愛したい”という普遍の感情に則って天命を果たすことを本懐としているのだ。この“意志の指令”がまず最初にあり、そこへメンタル体の“意思の指令”が加わって、アストラル体以下へと駆け巡る。終着点である肉体においては太陽たいよう神経しんけいそう――第二の脳とも呼ばれる自律神経の中枢ちゅうすうや心臓と連携し、当人に“願い”を遂行させる」


「そのとき愛の光がつよい(おれたちに近い)人ほど指令の純度が保たれるから、より愛しやすくなるんだ。でも我欲の闇がつよければ、指令の内容は伝言ゲームみたいにどんどん変わっていく……しかも悪い方向にな。この場合、行き着く先は“愛したいのに愛せない”という自己矛盾と、内なる調和の崩壊」


「そちらへ傾き、意志を十分に発揮できない者は、常に心のどこかでむなしさを感じ続ける。それがあらゆる成長を阻害し、停滞を選択させ、人生の目的に迷い続ける原因となるのだ。ともなって輪廻転生の期間も延長されてゆく」


「……」


 ならば、どうやって意志を十分に発揮すればいいのか――答えはもはや、言うまでもないだろう。霊体の声を改変せず、指令を屈折させなければよいのである。そのために自分たちがなすべきは。


(……他人を自分と同じように見なせばいい。誰でも奪われたら苦しいし、与えられたら元気になる。みんながそういう性質をもった家族なんだって……ただ、そう認めればいいんだ)


 シムルはすっきりした表情で、世界の光をまじまじと見つめた。

 日の出のように美しい。光を浴びているととても心地よい。

 その感覚を全霊で味わっていると、未来の自分がそばに近寄ってきた。


「?」


「今の感覚を忘れないように。そうすりゃ、きっとあんたも愛せるよ」


「……うん」


「――さて、ここまで来ればあとは纏うだけ(・・・・)だ。……いくぜ?」


 「どこに?」と尋ねる前に、未来の自分はひらりと宙を舞った。そしてメンタル体の自分と重なり、二人のシムルはひとつとなる。瞬間、見ていた世界の光は一気に遠ざかって、周囲が宇宙空間へと変化した。


「こ、ここは!?」


「おめでとう」


「えっ……?」


「汝は辿り着いたのだ。五つの器を形成している原初のエネルギー。魂の次元(・・・・)に」

まもなく第十五章が完結します。


※お読みいただき、ありがとうございます!

 もし続きを読んでみようかなと思いましたら

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 押していただけますとたいへん励みになります!


さて……唐突ではございますが、まえがきでも触れたように、今後はなるべく更新速度を上げて作品の完結を目指すため、これまで意図的におこなっていた「重複表現の忌避」を緩和しようかなと考えております。


重複表現とは、たとえば「それ」「この」「そこ」「こと」など、いかんせん無意識に使いがちな単語がひとつのエピソード内、または直近の数話内で頻出する事態を指します。


他にも「~である」「~だ」といった文末表現。さらに接続詞としての「しかし」「だが」、推量をあらわす「ようだ」「そうだ」「らしい」「とのこと」など、同じ意味をもつ言葉の類義語の頻出にも言えることですね。※いま書いた語尾の「~ね」「~な」「~か」とかも入りますし「……」「――」など“間”の役割をもつ記号も入ります。


私は今まで「読んでいてひっかからない、粗が気にならない文章を書く」「文体の美しさを考慮する努力を諦めない」「陳腐な表現に甘んじて、作品の幅を狭めない」。こうしたモットーで執筆を進めてきました。しかし、これらを初志貫徹するには実際問題、非常に長い推敲時間と膨大な労力がかかる上、作品のクオリティを底上げできる反面、キャラクターたちのセリフの自然さが損なわれたり、地の文がかたくなるといった弊害もございます。


つまり、作者の独りよがりな“こだわり”のせいで、作品が多少なりとも歪められている部分があったわけです。ゆえに此度、方向転換をしようと思い至りました。


もちろん、そういうところにこそ独自性や芸術性が宿ったりするという側面もありますから、完全に撤廃するつもりはございません。ただ、現状維持だと絶対に完結は遠のきますし、何より私が読者様に本当にお伝えしたいと思っているのは文体の良し悪しではなく、大枠にある主題のほうですので……ここいらで覚悟を決めて、凝り固まった主義を見つめ直そうと考えた次第です。


ここまでついてきてくださった皆様におかれましては、以降のエピソードを見て違和感をおぼえるかもしれません。あるいは読む気が失せてしまうかもしれません……。その意味で、この方向転換もまた作者の独りよがりな決断といえるのですが。今は前に進むために、とにかくできることをやろうと思います。


というわけで長々と失礼いたしました。

よろしければ、また続きを読みにきてくださいね!

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