第26話 わたあめの気持ち
「いやー、あん時はあやうく死にかけたぜ」
佳果がフロートをつつきながら、おどけたテンションで言った。クイスの事件から数日。四人はフリゴ隣接の遊園地にて、観覧車に乗っているところだ。楓也はドリンクを、アーリアとヴェリスはコーンのアイスを片手に搭乗している。
「まったく洒落になってないんだけどね……」
「わたくし、寿命が縮みました……」
「でも、佳果が元気になってよかった」
いちご色のクリームにかぶりつき、口元を汚すヴェリス。それを指で拭き取って舐めるアーリアを見て、彼女は無邪気に笑った。手すりに頬杖ついた佳果は、その平和な光景を見て目を細めた。
「ヴェリス、ありがとうな。お前のおかげでなんとかなったわ」
「ううん。わたしは何もしてない」
少しだけ悲しそうに返事をした彼女の顔は、前よりも大人びて見える――いや、実際に成長していた。というのも、ヴェリスのSSはあの件でエリアⅢに移動できたのだ。魂のグラフィックは灰色のなかにピンクやスカイブルーがちらつき、もにょもにょとした弾力のある質感に変貌を遂げている。本人の容姿も、9歳くらいだったのが12歳くらいになった。
「……お前、急にでかくなりすぎだろ」
「そうかな? 今までが幼すぎただけかも」
「うう、今のヴェリスちゃんもすごーくかわいいのですけれど……前のヴェリスちゃんも、もっと堪能しておきたかったですわ」
「いかんせん、怒涛の流れでしたもんね」
窓からジェットコースターを見下ろしつつ、楓也が言った。ヴェリスがパーティに加わってから、まだそれほど時間は経過していない。しかし、初めて会ったあの日はもう遠い昔のことだったように感じられる。それほど密度の濃い経験を重ねたということなのだろうか。
一同を乗せたゴンドラは中盤にさしかかり、かなり高いところまで上がってきた。
「うわぁ~、雲が近い!」
「へへ、なんだかわたあめみたいだね」
「天気がよくて、すかっとすんなぁ」
「みなさん、下の方も絶景ですわよ。ほら、あれが次に行く予定の"アラギ"です」
アーリアの指さす方向に、大きな町がある。ドーム型の闘技場や様々な商業施設が目を引く、たいへん活気のありそうな拠点だ。この『アスターソウル』ではSSに応じて、行ける場所やできることの幅が広がってゆく。"アラギ"はエリアⅢ以上の者から入場できるようになる町である。
「人がいっぱい……楽しみ」
「マジか? ちょっと前まで、飯屋に入るのもこわがってたくせによ」
「む、わたしはもう大人なの」
「お、大人だぁ……? ぷっ…………くくっ」
「――アーリア、佳果とっちめたい」
「御意に。楓也ちゃん、まいりますわよ」
「はーい」
「は? ちょ、おい、ひゃめろ! こぼれんだろぉ!」
くすぐりの刑に処された佳果を見て、ヴェリスは満足そうに微笑んだ。
(カンランシャに座るの、とっても楽しいな)
揺れるゴンドラの中は、空を飛んでいるようにふわふわしていた。
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