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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第二章 誰がための力 ~暗躍する善意~
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第25話 夕日がさして、鈴が鳴る

「阿岸君!?」


「意識をとりもどしたんですの!?」


 期待して呼びかけるが、返事はない。彼は足を引きずりながら、よろよろとヴェリスの方へ向かってゆく。ダクシスを殴り続ける彼女はそれに気づかず、佳果が背後まで近づいても止まる様子がなかった。


 ――佳果の手が、ヴェリスの頭にポンと置かれる。

 刹那、世界はまっしろに染まり、時間が止まった。


 二人だけの空間になり、彼女はゆっくりと振り返る。そこにはボロボロで意識のない佳果が、無言で首をよこに振る姿があった。その意図をくみとろうと思った瞬間、頭のなかに彼の記憶が流れ込んでくる。



夕鈴ゆうり!!」


 息をきらして高架下こうかしたに登場した佳果の目に飛び込んできたのは、六人ほどの男子生徒が幼馴染の押垂おしたり夕鈴を囲んでいる光景だった。彼女はへたり込み、胸の前で腕を交差している。シャツのボタンが取れ、下着が見え隠れしていた。

 佳果の視界が赤くなる。彼は歯を食いしばり、筋肉がつりそうなほど拳と喉仏のどぼとけに力をいれた。


「んだよ! これからって時にうざってぇ!」


「ちょうどいいじゃん。あいつぶっ殺したらもっと面白いことになるぜ」


「這いつくばってキャンキャン泣きわめく狂犬か。……ははっ、悪くねぇな」


 六人のなかには刃物を取り出す者もいた。

 「いつでも来いよ」とあおるリーダー格の言葉で、佳果の理性は吹き飛ぶ。


「っ! ダメだよ佳果!!」


 夕鈴が必死に声を上げて制止するが、彼の心はもう止まれる場所にいなかった。

 ――乱闘がはじまり、10分足らず。

 佳果はリーダー格の上で馬乗りになり、断続的にこぶしを振り下ろしていた。うずくまっていた他の5人はもう、逃げ出した後である。


「も゛う゛……や゛め゛ッッて゛く゛れ゛ェッッ」


「――――」


 必死の命ごいに耳を貸さず、佳果は攻撃を続けた。

 乾いたその瞳に映るのは、獣のように純粋な敵のまなざしと、それを見下す汚泥にまみれた自分だった。


「佳果、その人死んじゃう……! わたしはもう大丈夫だから……だからそれ以上は!!」


 腰が抜けて動けない夕鈴は、泣きながら彼を何度も説得しようと試みた。しかし今は彼女の言葉でさえ、届くことはない。


(どうして……)


 夕鈴はよく知っていた。佳果がどれほど他人の痛みに敏感な人間であるのかを。

 いま自分が止められなければ、彼は生涯さいなまれ続けることになるだろう。

 背負いきれない、深いごうのうずきに支配されて。


(わたしが佳果を助けなきゃ…………あれは?)


 佳果の頭上に、黒いきりが見える。それはまるで生きているかのごとく、ゆっくりと動き、数秒ごとに姿を変えている。やがてロープ状になった霧は、地面に転がっている物へと繋がった。


 誘導されるように、佳果がふと視界の端をとらえる。そこには敵の持っていた刃物があった。手にとって見つめているうちに、黒い霧は刃物からリーダー格の首筋へと移動する。


 夕鈴は直感した。あれは佳果に近づけてはならないものだ。


「はあっ……はっっぁぁあ! ぅううっ!」


 腕のちからだけで、無理やり佳果の元へ向かう。彼はしばらく刃物をぼんやり眺めていたが、おもむろに逆手に持ちかえて振りかぶった。


「佳果!!」


 間一髪かんいっぱつで割り込んだ夕鈴が、刃物をぎゅっと握りしめる。腕にしたたる血の向こう側で、彼女の笑顔が夕日に照らされた。


「わたしはここだよ」


 そう言って彼の頭をぐいと抱き寄せ、おでこ同士をくっつける。じんわりとあたたかい。うるんだ夕鈴の瞳は快晴の空のように透き通っていて、そこに映る自分は――阿岸佳果だった。


「ゆう、り…………」


「あなたのいる場所はここだよ」


 鈴のような声が、自分が何者であるのかを思い出させる。

 佳果はすぐに、刃物を投げ捨てて謝った。


「ごめん」


「ううん。……ね、約束して」


「……?」


「もう二度と、誰かのためにあなた自身を傷つけないで。憎しみに負けないで」


「……俺……お前を守りたくて……」


「ありがとう。でもこれからは……あなたとわたし、二人のことを守って」


 困ったように笑う夕鈴。こぼれ落ちる佳果の涙が、黒い霧へと吸い込まれる。

 たちまち散り散りになったそれは、どこか遠くへ旅に出かけた。



「!」


 気がつくと世界は色を取り戻し、時間がながれていた。もたれかかる佳果のひたいが、ヴェリスのそれとくっついている。横にはなぜか、太陽の雫がひとりでに浮かんでいた。


 彼女はオーラを解くと、まるで生まれる前からその方法を知っていたかのように、太陽の雫を両手でつつみこんで、祈りの所作しょさをおこなった。


(ごめん……ありがとう…………そうだったんだ。それだけでよかったんだね)


 ヴェリスの祈りは光となり、洞窟を突きぬけて空へと届く。

 不意に、天井の方にウィンドウが現れてアナウンスが響きわたった。


《報告を承りました。これより、適切な処理を開始いたします》


《第一目標、ユーザー名YOSHIKAの生体情報復元を開始……完了しました》


《第二目標、ギルド"クイス"代表ダクシス、および当該ギルドに属するメンバーのうち、違反行為またはそれに準ずる行為を働いた者のログイン権限を永久に凍結……完了しました》


《第三目標、ユーザー名YOSHIKA、ヴェリス、アーリア、もぷ太の♯∽Δ�§¶を再計算……完了しました。以上をもって、処理を終了いたします》


 アナウンスが終わると同時に、クイスの面々はゲーム内から姿を消す。

 すべてを聞いていたアーリアと楓也は、驚きつつも二人の方を見やる。佳果の背中からひょっこりと顔を出したヴェリスは、眉をハの字にしてニカっと笑った。楓也は涙ぐんで目をつむり、アーリアは両手で顔をおおって長く息を吐いた。


 立ち上がり振り返った佳果が、ヴェリスと同じ顔で笑っている。

夕鈴の人柄が少しわかりましたね。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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