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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第二章 誰がための力 ~暗躍する善意~
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第24話 うそぶく善意

※前話を読み飛ばしたかたは、あとがきの要点をご覧ください。

「――――」


 声も発さず、ヴェリスは駆け出していた。黒と赤のオーラに、青が混ざっている。超スピードでつっこみ、ダクシスもろとも佳果の周辺にいる敵を吹き飛ばす。フォーラは、遊園地の時とは別人にも思えるその形相ぎょうそうに目をむいた。一方、ダクシスは軽やかに空中で一回転し、余裕そうに着地する。


「きみはヴェリスさんだね? なぜスキルが使え――」


「」


 彼の言葉を無視し、問答無用で追撃をあびせるヴェリス。顔面を波立たせながら、ダクシスは祭壇に衝突してがれきに埋もれた。圧倒的な戦闘力の差に、クイスの者たちだけでなく楓也とアーリアも固まっている。


「きょ……距離をとれぇ!!  からめ手を使える者は、出し惜しみするなぁ!!」


 がなるフォーラの指示にしたがって、黒服集団が一斉にスキルや魔法を放つ。しかし彼女の青のオーラは、一切のデバフや状態異常の効果を焼き払った。


「なんだと……!? そんなの反則じゃ――」


「――――」


 鼻じろんだ隙をついて、疾風迅雷しっぷうじんらいのヴェリスが攻撃の雨をふらせる。構成員は次々に宙へと舞い上がり、意識を失っていった。

 鎮圧された洞窟内は静寂を極めた。ヴェリスは祭壇のほうへゆっくりと歩み寄る。はっとして、楓也も彼女の隣まで走ってゆく。アーリアはぐったりした佳果を介抱した。


「ぐっ……話が通じない相手はこれだから嫌いなんだ……」


 ダクシスは身体の節々をけいれんさせながら上半身を起こし、苦悶くもんの表情で言った。


「代表……」


「もぷ太くんか。よくここがわかったね。やはりきみには先に退場してもらうべきだったかな……おかげで予定が狂ってしまったよ」


「……なぜですか」


「なぜとは?」


「こんなやり方!! いくらなんでもひどすぎる!! あなたは、そこまでやる人じゃなかったじゃないですか!!」


「クッフ……フッフッフ」


 場の空気を無視して笑うダクシス。

 ヴェリスはその胸ぐらを掴んで、冷酷に言った。


「楓也の質問にこたえろ」


「……きみたちは何もわかっていない。このゲームに秘められた、唯一無二の可能性を」


「可能性?」


「エリア移動とはすなわち"魂の成長"。ならばその先になにがあると思う?」


「一体、なにを言って……」


「神の領域だよ」


「!?」


「きみたちが草原で会っていたあの少女……私には(・・・)わかる。あれこそまさに、神に至りし者だ」


 楓也は思った。ダクシスは決してクイスのメンバーに自らの固有スキルを明かさなかった。しかしおそらくは、他者の情報を盗み見るような効果を持つのだろう。彼の確信めいた口調には、アイに関して何らかの情報を得ている節がある。同時に、この暴走の背景には何者かがいると直感した。


「……世迷よまい言はやめてください。あなたの目的はなんなんです?」


「それは愚問だねぇ、もぷ太くん。神の領域へ到達してやるべきことといえば、一つしかないだろう」


「……?」


「世界を、より良いものにするのさ」


 それを聞いたヴェリスは掴んだ胸ぐらを持ち上げて、がれきの山へ放り投げた。立ちのぼる土煙に向かって、彼女は叫ぶ。


「佳果をあんな風にしたお前が、なにを良くするっていうんだ!!」


「フッフフフッフッ……! やはりきみたちは何もわかっていない。幸せのうらには得てして、おびただしい不幸が積み重なっているものだ。ならばその不幸は、知っているもの(・・・・・・・)が制御しなくてはならない。必要悪というやつさ」


「――それこそ、世迷い言ですわね」


「なに?」


 アーリアが立ち上がり、楓也たちと並ぶ。


「悪事を働いた張本人が、必要悪をうたうなど滑稽こっけい千万。確信犯とはそもそも、目的と手段が矛盾しておりますの。あなたの主張にあなた自身が反しているというのに、そこに正当化の余地があると本当にお思いですか? 恥を知りなさい」


「ふん。エリアⅨにありながら、ぬるま湯につかって停滞している小娘に説教されるいわれはない。……理解できないか? これは究極の善意なのだよ」


「あなたのような方を、真の偽善者というのです。あなたが傷つけた人がどうなったのか、今一度よくご覧になって。……それでもまだ、ご自分の理念は世界を良くすると断言できますか?」


 アーリアは佳果のほうを見て、ただただ悲しい表情をした。その意味を理解し、楓也は血の気が引いて身体を震わせた。


「アーリアさん、あ、阿岸君は……?」


「魔法で全回復しました。息もあります。でも、彼は今あそこにいない」


「……そん……な……」


 がっくりとひざを落とす楓也。彼の心には"脳死"の文字がよぎっていた。通常、過度の負荷が掛かれば強制切断でまもられるはずの脳。それを掻いくぐり、よってたかって執拗しつように攻撃し続けたのだ。つまり、現実世界の佳果も――。


「楓也? ……アーリア? 佳果はどうして倒れたままなの?」


「それは……」


「彼は壊れたんだよ。結局、少女の話は最後まで聞けず仕舞いだったが……まだきみたちが残っているうえに、太陽の雫は我が手中にある。大変有意義な、尊い犠牲だったと私は評価しているよ」


 一同、言葉が出てこなかった。ヴェリスは無言で彼の顔を蹴り飛ばす。さすがに三回目ともなれば意識を保てなかったらしく、ダクシスは気絶した。だがそれでもなお、彼女は馬乗りになって殴り続けるのをやめない。


「ヴェリス!」「ヴェリスちゃん!」


 彼女のレベルは60。防御無視があるとはいえ、その攻撃自体は格上の体力をさほど削ることはできない。気絶値を稼ぎやすいという利点はあれど、相手を倒すには手数が必要なのだ。


 つまり、現在ヴェリスはダクシスをほうむろうとしている。ゲーム内の殺人に対してとられる処置は永久凍結。この世界がすべてである彼女にとって、それはかたきとの心中になりかねない行為である。止めに入る楓也とアーリアだったが、我を忘れたヴェリスは彼らの手でさえも払いのけてしまう。


「このままでは、ヴェリスちゃんが……!」


「くそっ、なんでこんな!!」


 絶望的な状況のなか、ダクシスのローブのなかで人知れず、太陽の雫がうっすらと輝いた。その光は佳果の身体とリンクし、彼を白目のまま起き上がらせた。

お読みいただき、ありがとうございます。

重い展開で申し訳ありませんが、

次回好転しますのでよろしければ見守ってください。


【第23話の要点】


・洞窟に捕らわれた佳果。クイスに太陽の雫を奪われる。

・リーダーのダクシスから入手経路やAIについて訊かれる。

・黙秘を続けていたところ、拷問が始まってしまう。

・楓也たちが現場に到着するが、すでに佳果の意識はなかった。

・怒りに我を忘れたヴェリスが報復行動に出る。

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