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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第311話 帰還

 あっけらかんと答えるノーストに、セレーネは少し顔をくもらせた。


すでにそこまでの根回ねまわしを……よく御主おしゅうの許可がりたね?』


われも通る可能性は低いと踏んでいた。しかし(6次元)経由で確かに"一任する"との神勅しんちょくたまわっている。おそらく、それほどまでに今の星魂せいこんは危機的状況にあるということなのだろう』


『…………そうか。うん、事情はよくわかった。ただ、ひとつだけ確認させてほしい』


『?』


『きみがそうすれば、結果的に地球は未曾有みぞうの危機を回避できるかもしれない。けれど……魔を内包する魂への転生は、神格と記憶を失うどころか、神々に斥力を発揮する"闇"を長きにわたってまとい続けることになる。それは今のきみにとって刹那せつなでも、ひとたび生まれ変われば途方もない時間に感じられるはずだ。ことに魔境は、時の流れがゆるやかだから』


『……』


『本当にいいのかい? 魂ごと、私たちと相反あいはんする役をずっとこなすかたちになるんだよ? その茨道いばらみちは神々の歴史においても過去に例を見ない苦行くぎょう。今だったらまだ、再考する余地よちも……』


『ふっ、元より覚悟の上だ。加えて、封印とはいずれ解けるもの。たるアパダムーラ復活の際、先導する者が残っておらぬことにはどの道すべて立ちゆかなくなる。心配はありがたく受け取るが、此度こたびの決定を取り下げるつもりはない』


『ノースト……』


『そのような顔をするな。……吾は常々(つねづね)思っていた。神につらなる者とは元来がんらい、黒もまた愛すべきであると。白の進んだ誠神にとってそれがこくな話であるのはわきまえている。しからば、その穴を灰色(・・)たる吾らが埋めるのは当然の責務。違うか?』


 不敵な微笑びしょうを浮かべるノースト。セレーネは静かに目を閉じると、少しをおいてから『違わない』と肯定し、彼と同じように笑った。


『……違わないけれど。ならその"吾ら"にはもちろん、私も入るよね?』


『な、なに?』


『ふふっ、こうして話を聞いてしまった以上、一枚()ませてもらうという意味さ。異論はないでしょ、ホウゲン?』


『いやおおいにあるぞ。灰色は同じとて、おれたちとお前では立場も管轄かんかつも異なるではないか。そちらは引き続きアスターソウルを主軸に――』


だ』


 美しい笑顔で食い気味に否定され、顔をしかめて肩をすくめるホウゲン。セレーネはこうなると梃子てこでも動かない。


『考えてもごらん。ホウゲンはこの件が片付かたづいたあとも分霊をノーストにかつがせたまま、弱化じゃっかした状態で黄泉よもつ比良ひらさかに戻ることになる。いっぽうノーストも、生まれたての身空みそらで大一番にのぞみ、それを乗り越えてなお、厳しい魔境の環境下で生き抜かなければならない。当然、導き手の存在が不可欠になるはず』


『まあ、そうかもしれぬが……』


『もっと重要な理由もあるよ。実は今、出雲いづもで議論されているのもそこなんだけどね。……御主から、あと数百年もたないうちに特異点(・・・)が現れるとの通達があった』


『!』


 セレーネのげんに、思わず顔を見合わせるノーストとホウゲン。


『どういう流れになるかは正直まだわからない。でもとおからず、きみたちの力が必要とされる因果が必ずめぐってくる。そのとき「本領ほんりょうを発揮できませんでした」なんて、望むところではないでしょ? だから私も魔境へ分霊を送るよ。ホウゲンのそれを代行し、しかるべきタイミングでノーストのかせはずすためにもね』


『代行だと? もしや……お前も魄が使えるのか』


『あれ、言っていなかったかな。魄はもともと私がつくったエネルギーなんだ。わけあって今は枯渇こかつしているから、実際に交代こうたいしてあげられるのは少しあとになってしまう嫌いはあるけど』


『『……』』


 衝撃の事実に押し黙る二柱にちゅう。エネルギーの創造は並の神格でかなう芸当ではない。普段セレーネは自身について多くを語らぬため知り得なかったが、どうやら底知そこしれぬ権能けんのうを持っているようだ。5次元の神でありながら太陽神(スーリャ)双璧そうへきをなしているのも俄然がぜんうなずける。


『――ともあれ、すべてが星魂のかたむきにたんを発している事実は変わらない。私たちは今後ともムンディと連携し、これに対処してゆくべきだ。……ゆえにノースト、どうか約束してほしい』


『約束?』


『うん。転生後、たとえどんな宿命がきみを待ち受けていても……最後には絶対、私の元へ逢着ほうちゃくするとね。かわいい後輩たち(・・・・・・・・)のためだけじゃない。何より、きみ自身の愛のために』


 はかなげな表情で差し出された小指を、ノーストは少しのあいだじっと見つめていた。しかしまもなく指をまじえると、こう宣言する。


『ああ、約束しよう。きっと……きっとたがえはせぬ』



「!」


 自身の神気がいにしえの記憶を呼び起こし、ノーストは愕然がくぜんとしながら目の前の月神げっしん――セレーネをとらえるに至った。今ならば、先ほど言っていた"生の動機と本懐"の真意。そして"約束"の意味するところがはっきりと理解できる。セレーネはあの時と同じ儚げな表情で彼の帰還を出迎えた。


「……改めて、久しぶりだねノースト。また会えて嬉しいよ」

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