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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第310話 ノースト

「神霊だと……!? そのようなはずは……」


いと言い切れる? じゃあどうして、きみだけが全ての魔物と繋がる魂を持っているんだろう。なぜ生まれたときからそばに魔剣ドゥシュタ・ニル・ガマナが在り、守護魔という役目を負う運びとなったのかな。愛の光を誘発するためとはいえ、ムンディがアスターソウル派遣の筆頭にきみを選んだ理由は?」


「そ、それは…………わからぬ。わかるわけがなかろう」


 自分が自分として誕生した背景を知っている者などいるだろうか。いな、誰もがその答えを知らぬまま、先天的にそなわっていた能力、境遇、環境を甘んじて受け入れ、日々を生き抜いているに違いない。


 そこからどのような志が形成され、どのような道を進むことになり、誰と出会って、何がのこるのか――よしんばすべてがみずからの選択による帰結であろうとも、"今"を生きる者にその淵源えんげんを観測するすべはないのだ。


「でも、かせはずれた"今"なら辿り着ける。さあ、恐れずに集中してみて」


「しかし……」


「表層の黒が斥力せきりょくを起こして、きみのなかで本能的な忌避きひが働いているのは理解できるよ。けど今は、私が自由意志を度外視して神気をさずけた意味をどうかみ取ってほしい。このタイミングできみがせいの動機と本懐に気づくのは、陽だまりの風として(・・・・・・・・・)重要な仕事なんだ」


「!」


 月読命の指摘どおり、ノーストはこれまで己の魂をとらえる機会を本能的にとおざけてきた。正直しょうじきなところ、それが普段ふだん精霊や神仏といった上位次元の存在に向けている色眼鏡いろめがね――斥力に由来した同族嫌悪(けんお)だったという実感はある。


 どうやら月読命は、その同族嫌悪を乗り越えて深層の光に意識を合わせろと言いたいらしい。重要な仕事と付け加えたのは、遂行すいこうできなければ陽だまりの風に支障が出るとあんに警告しているようにも聞こえた。逡巡しゅんじゅんするノーストを見て、ガウラがつぶやく。


「……とんと事情は見えぬが。ひとつだけ確かなことがあるのう」


「ええ。つまり今度は、ノーストさんの番がやってきたというわけですね」


「なはは! なーんか躊躇ためらってるみたいけどさぁノスっち。要はあんたが"自分はすごい魂だった!"って認めちゃえばいいだけの、簡単ちぃな仕事だろ? そんなのここにいる三人はとっくに知ってるんだしさ。今さら隠してもしょうがないじゃん!」


(なんだその"簡単ちぃ"とは……)


「ふふ、彼らの言うとおりだよ。きみは陽だまりの風に乗った刹那の闇。今こそ、あのときの約束を思い出して!」


 以前、白竜と化したホウゲンが放っていた言葉を引用し、意味ありげに焚きつけてくる月読命。ノーストはあきれ顔でひとつ深呼吸すると、佳果たちを思い浮かべた。瞬間、不思議とみずらをる抵抗感が薄れてゆく。


(……神霊上等(じょうとう)。あやつらと、こやつらのためにも。われがなぜ吾たりるのか――見極めさせてもらおうか)


 刹那せつな、ノーストの光が一帯をおおい尽くした。



  遠い昔のこと。金色こんじきの雲海に浮かぶ、白い柱がたくさん立ち並んだ神殿しんでんのような建造物の内部で、二柱の神が会話していた。


『やあホウゲン、ここにいたのか』


『……誰かと思えば"ツキの"か。何用だ』


定刻ていこくになっても姿がみえなかったから、むかえにきたんだ。……みんなとても心配していたよ?』


『……ふん。おれが出ようが出まいが、さしたる影響もあるまいに。かみはかりなど、けがれなき誠神せいしん連中だけでやっていればよいのだ』


『ふふ、そう言っているわりには、わざわざ天界こちらまで戻ってきたんだね? 黄泉よもつ比良坂ひらさかから遠路はるばると』


『……』


『本当はきみも、最初から出席してくれるつもりで――』


『どうにも緊張感が足りんようだな。この際だから忠告ちゅうこくしておこう。お前たちが出雲いづもの領域に出払っている今、有事の危険性ははなだだ高まっている。ここで慎重を期さずして、如何いか他星たせい謀略ぼうりゃくを阻止できようか? まったく……必要な恒例行事とはいえ、迂闊うかつなことこの上ない』


『……なるほど。まあそこは心配しなくても、御主おしゅうとスーリャがうまくやってくれていると思うけどね。でも今の言葉で、きみがこの地球(ほし)を大切に想ってくれているのはよくわかった。当代のまがかみはとても優しいって、戻ったらみんなにそう伝えさせてもらうよ』


『や、やめろ気色きしょくの悪い……』


『おい、見つけたぞ!』


 不意に空から颯爽さっそうと現れたのは、ホウゲンと同じく二本にほんづのを生やした神だった。彼は少し慌てた様子で両者の前に降臨したが、月読命を見て目を丸くする。


『ぬ、随分ずいぶんと珍しい組み合わせではないか。何かあったのか』


『なに、別段べつだん行くつもりのない会議の招換しょうかんに付き合わされていただけだ』


『会議? ……ああ、出雲の。そういえばもう、そのような時節であったな』


『こんにちはノースト。相変わらず、なおびのかみとして彼を助けているんだね。……それで? 今しがたの"見つけた"とは、何を意味するのかな』


 にわかに、おだやかながらも迫力はくりょくのある表情に切り替わる月読命。ノーストはちらとホウゲンに目線を送り、意向をはかった。


『言っても構わん。こいつに()はないが、その手の事情には比較的理解(りかい)がある』


心得こころえた。……セレーネよ、うぬも耳にしていると思うが、昨今さっこん幽界ゆうかいは混迷をきわめている。特に近頃ちかごろの魔境は、あまりにも異様な情況だ』


『……具体的には?』


『修羅道を選んだ者において、魔珠ましゅの獲得や武の向上を目的としない、不純な殺戮さつりくが急増している。奴らは血にえた享楽的な狼藉ろうぜきを繰り返すうち、自らの負の生命エネルギーを暴走させ、やがては強力な魔獣へと変貌へんぼうげる』


『そして集落や里などを、片端かたっぱしから滅ぼすようになるわけだ。これは縄張りないえさを探し回っているだけの他の魔獣とは一線をかくす。加えて、なまじ戦闘力にひいでているせいで、度胸どきょうだめしに太刀たちちしようと息巻いきまき、犬死いぬじにするうつけ者が後を絶たない』


『ふむ……現地の魔物たちが手に負えない脅威きょういの発生か。確かに、瘴気しょうき問題で逼迫ひっぱくしているムンディの負担を考えても見過ごせない情況だね。すると"見つけた"というのは差し詰め、そのなかでも突出した力量のある魔獣さん、とかかな?』


しかり。まあ、本来そういう時のために仏力ぶつりきが控えているのだが……いかんせん、最強格のゾグが難色なんしょくを示した兇手きょうしゅでな。液状の珍妙な生態を持っていて、先日アパダムーラと命名めいめいされた』


『! アパダムーラ……稀代きだい牛頭ごず天王てんのうでさえ、手に余る相手であると?』


 月読命(セレーネ)が驚いたのも無理はない。幽界には牛頭天王や不動明王といった仏が、連合を組んで常在している。これは斥力によっての次元へ干渉できない誠神に代わり、秩序をたもつために置かれた特別機構(きこう)だ。しかし、中でも特に平定へいていするちからにけた前者のトップ――ゾグが対応できない案件となると。


畢竟ひっきょう、上位かつ黒をいなせる、おれたちが出張でばほかにない。そこでノーストには、天界ここからアパダムーラを捕捉ほそくするための座標をさぐってもらっていた次第。それが判明した今、時は満ちたといえるだろう』


『……』


『だがいくらわれらの神気といえども、ゾグの仏力ぶつりき捕縛ほばくできぬ相手を無条件で制圧できる可能性は低い。そも神気は、そうした用途ようとに向いておらぬからな……つまり選択肢は、別のかたちで斥力を無視できる特殊な切り口に限られる』


『特殊な切り口……そうか。龍神時代の長かったホウゲンなら、はくの貯蓄を利用できるわけだね』


 魄とは、神々のかかげる禁則――自由意志の侵害に抵触せず、また次元(かん)におけることわりへだたりをすり抜けて、神意しんいを具現化する力である。おもに龍神が、己の功徳(グナ)を変換して扱える権能けんのうだ。


『ああ。だがおれは、この機に乗じて星魂せいこんに付けろうとするやからにも目を光らせておく必要がある。……たとえ上がどんな予防策よぼうさくこうじていようともな。よって目下もっか本霊ほんれいはここに残し、魔境には分霊ぶんれいを送る算段だ』


『ただし、相手の実力からして分霊程度(ていど)のエネルギー量では制圧はおろか、膠着こうちゃく状態に陥るのがせきの山。ゆえに此度こたび、ホウゲンには"封印の魄"を付与した刀剣としてあちらに顕現けんげんしてもらう。そして現場でそれをふるい、奴を僻地へきちの底へ沈める役は吾が務める。無論、そちらは本霊(・・)で臨む所存』


『え? ノースト、それってつまり……』


『うむ、吾は魔境へ転生する。そのための手筈てはずもすでに整えてある』

◆補足


黄泉比良坂というのは、現実世界と幽界のはざまのような次元を指しています(数字的には3.05次元くらい)。ホウゲンは5次元より上の神様なので本来その次元にはとどまれないのですが、魄を消費することで無理やり可能な状態にしているそうです。


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