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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第309話 出身

(これは、神気(てん)じょう……!)


 目をいて三人を見回すガウラ。以前チャロは、魔人であるノーストにとって光のエネルギーが猛毒であるむねを説明していた。察するに、それは魔物に属するトレチェイスと昌弥にも適用される斥力せきりょくたぐいであろう。ともすれば、彼らの魂が光のエネルギーたる神気をまとうことは通常、あり得ないはずだ。


(やはり賢者殿の神気は特別なんじゃろうか。……いや、いま重要なのはかせほうじゃ。"はずす"ということは、もしやノースト殿たちは何かにしばられて……)


「良い洞察力だね、ガウラさん。……きみの魂だけはスーリャの神気が顕在化している状態だから、そのまま私のを渡しても競合きょうごうの兼ね合いで()が得られない。ここは一時的な霊感上昇で対応させてもらおうかな」


「!?」


 月読命は銀のオーラを凝縮ぎょうしゅくしてつくった珠を、ガウラの脳に浸透しんとうさせた。すると一瞬(いっしゅん)視界がブレたかと思えば、夢と現実を一挙いっきょ俯瞰ふかんしているかのような感覚が襲ってくる。しかしチグハグだった画面はまもなく調和し、やがて不確かで灼然しゃくぜんとした球体を浮かび上がらせた。


「みえる……魂が、みえるぞい……!」


「おお、ガウラさんもですか!」


「なかなか綺麗きれいだよなこれ!」


 先んじて、昌弥とトレチェイスも同じものがえていたようだ。立ち上がった三者ははしゃぎながら互いの魂を観察する。


「……ありゃ、でもさっきと違って透明なモヤが視えないなぁ」


「それはエネルギーとしての階層にへだたりがあるからだ。意識レベルを調節して解像度を上下させれば、切り替えや同時透視といった芸当も可能になる。……もっとも今に限っては、故意こいに設定された度数(・・)以外への変更は叶わぬらしいがな」


 初めての経験に高揚こうようするガウラたちとは対照的に、ノーストはどこかいぶかしげな面持おももちである。現在、四人の瞳はまばゆい光の珠玉しゅぎょくとらえている。ところがその美しさは、つね日頃ひごろから魂を観測している彼にとって不自然(きわ)まりないものだった。


「……して月読命よ。何故なぜこのような捏造ねつぞうを?」


「おや、捏造とは大きく出たね。どうしてそう思うの?」


「無論、われら魔の手合てあいに黒が認められぬのが理由だ。加えて白の氾濫はんらんが道理にそむいているのも捨て置けぬ」


 お馴染なじみの抽象概念を持ち出すノースト。白と黒にまつわる知識はかねてより仕入れているが、理解度は依然いぜん高くない。――神の御前ごぜんまさる学びの機会はないだろう。造詣ぞうけいを深めるべく、ガウラは両者の会話に割りった。


「差し支えなければその話、わしにも詳しく教えてもらえんじゃろうか」


「? ああ、構わぬが……まず魔族まぞくとは例外なく固有の黒、すなわち魔珠ましゅ大元おおもととなるの生命エネルギーを魂に宿やどしている。だが月読命こやつくばった目はそれを映しておらぬ。第一の齟齬そごがこれだ」


「なるほど……(魔珠といえば、この地で修羅道を突き進む魔物たちが日夜(にちや)奪い合っているエネルギーかいの名称じゃったな。そのみなもとに負の生命エネルギーなるものがあったとは……ん? ならば逆に、愛珠においては正の生命エネルギーを利用しているとみるべきかのう)」


 ふと、魔物と化した夕鈴ゆうりが過去のトレチェイスを救出した場面を思い出す。愛の全放出がおこなわれたあの局面、彼女はホウゲンの助力を得て己のすべてを愛珠に変換していた。思えばあれは、"寿命じゅみょうけずる"という愚行を選んだ自分すらも、はるかに凌駕りょうがする壮絶な献身けんしんのかたちであったに違いない。


(……佳果があの子を放っておけなかったのもうなずけるわい。っといかんいかん、思考が横にれてしまった。ノースト殿の話に集中せねば)


「――第二の齟齬は他でもなく、このくらむような愛の輝き。どう見積みつもっても白が強すぎる。閾値いきちを超えているのは火を見るよりも明らかだ」


「閾値ってなんだノスっち?」


「吾らが"死線"に等しい。魔族の魂は全体の30%を超えて愛のエネルギーを保有できぬ。黒との間に有機的な不和ふわが発生し、光の侵食によって消滅してしまうゆえにな」


「!? そ、そうなのか……」


「……オレたちは把握しておいてしかるべき情報でしたね」


 改めて己に対する無知を痛感する二人。

 しかしとがめるつもりのなかったノーストはただちにフォローした。

 

「知らぬのも致し方ない。昌弥は人間時代の記憶しか残っておらず、トレチェイスに至っては記憶そのものが失われているのだからな。……まあさいわい、その死線を悪用するような脅威きょうい目下もっかこの魔境に存在せぬ。知識としてたくわえておくだけでもじゅうぶんだろう」


「あ、な~んだ……じゃ結局はウンチクの域を出ないってことだよな? ビビっちまって損したぜ!」


「……やれやれ、そういうのは思っても口にするでない」


 小さくため息をつく彼のそばで、ガウラはひげを触りながら言った。


「ふむう、つまるところ"魔の比率が70%を下回ることがない"というアレも、その裏返しだったわけじゃな。ゆえに"捏造"であると……じゃが……」


「……? どうしたガウラ。言いたいことがあるならハッキリ申してみよ」


「ああ、いやなに。今しがたの問答もんどうを聞いていても思ったんじゃがのう。たとえ魔人であるにせよ、ノースト殿は凛然りんぜんと皆を支え導く、さながら大黒だいこくばしらのような御仁ごじんじゃろう? わしはてっきり、白と黒のバランスに比例しない"愛"が貴殿のなかに隠されていて、それを賢者殿が見せてくれたものとばかり――」


「ふふ、ガウラさんは既に気づいていたみたいだね。彼の本質(・・)に」


「!?」


 不意に真横へ立たれてぎょっとするノースト。構わず月読命は続けた。


「ごらん。私とノーストの光、どこか異なっているところはあるかな?」


「え? ……ど、どうでしょう。もしかしたら違いがあるかもしれませんが、ぱっとた感じだと、オレにはさっぱり……」


「ん~~。お二人とも、この中じゃダントツで(さわ)やかな光を放ってるのは間違いないと思うぜ? けど甲乙こうおつつけろって言われたら難しいよなぁ」


「……賢者殿。するとやはり、ノースト殿は……!」


 先ほどの本質という言葉と、外すべき"枷"の真意が腑に落ちるガウラ。

 彼の確信に目を細めると、月読命は語り出す。


「そう、今きみたちが視ているのは捏造などではなく、まごうことなき本物の魂。さっきノースト自身も説明していたけど、エネルギーには階層というものがあってね。それは魂にも当てはまることわりなんだ。要するに、その神気纏繞の眼差まなざしは白と黒の混在する表層領域を捉えているわけではないということ」


「なっ……ではうぬの……吾のこの光は……!」


「うん、深層にある本質の部分さ。きみは元々(もともと)、私と同等の光をもつ存在――天界出身の神霊だったんだよ」

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