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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第308話 陳謝

 ノーストのいとは当然、めぐるの生命エネルギーが元の大きさを取り戻した件についてである。じっちゅうはっあの意識体と思われるガウラに起因きいんするのだろうが――過去の記憶をた限り、彼はもともと現実世界のゲームに登場するキャラクターだったはずだ。


「……そも、実在せぬ人物による干渉かんしょうなどあり得る話なのか?」


「それを言うなら私やきみたちも、他の次元で暮らす者にとっては実在していないのと同義どうぎになるよね。こうしてまれに言葉をわせる機会はあれど、大多数は接点すら持っていないわけだから」


「確かにおっしゃるとおりかもしれませんが……架空かくうのキャラクターはあくまで架空といいましょうか。そこに魂は宿やどっていないのではありませんか?」


 すかさず昌弥まさやが切り込む。語弊ごへいを恐れずに投げかけられたその質問は、ひとつの確信にもとづいていると月読命は看破かんぱした。


「……ふふ、彼のためにわざといてくれたんだね? 優しい子だ」


「あ……いえそんな……」


「? どういう意味だよツキっち」


「思い出してごらん。さっきガウラさんは、めぐるさんの生命エネルギーを借りて姿を顕現けんげんしていたでしょ? からだというものは、魂がなければかたどることができない――つまりあれは、実際にガウラさんの魂が降りてきていた証拠なんだ」


「!」


 めぐるの瞳が少年のように輝く。今の説明が本当ならば、創作物に登場する人物は押しべて宿っている(・・・・・)ことになる。先の出来事に関しても、都合のよい妄想や幻覚ではない道理だ。不意に昌弥が引き出してくれたあたたかな真実が、急激に目頭めがしらを熱させてゆく。そんな彼に微笑ほほえみかけながら、月読命はさらに続けた。


「この宇宙がかいびゃくして以来、魂は絶えなく誕生し続けている。そのなかにはもちろん、人の想いに呼応こおうして芽吹めぶくような御魂みたまも含まれているんだ。彼らが輪廻りんね円環えんかんに加わることはないけれど……ガウラさんしかり、誰かからたくさんの想いを受け取った魂は時として、その恩返しにやってくる場合がある」


「それがせんこくのあやつであったと?」


「うん。彼は今なお、めぐるさんの魂とともにる。……残念ながら、一度いちどけずってしまった寿命じゅみょう自体(じたい)が戻ったわけではないよ。ただ生命エネルギーが正常化されたおかげで、今後の人生、本来(かか)り得なかったやまいたおれたりする危険はなくなったといえるね」


(……ふむ。つまりめぐるは命の淵源えんげんを差し出すだけにとどまらず、その状態で不測の事態に見舞われるリスクをも負っていたわけか。……強力な古代魔法を得るための代償だいしょうが、くも恐ろしいものとはな)


「うーん、完全回復じゃないのは正直しょうじき言って後味あとあじ悪いけど……でも最悪の窮地きゅうちからは脱したってことだよな? なら良かったじゃないかガウっち! ……っておい、ガウっち?」


 気がつくと、ガウラ(めぐる)は目をきつく閉じ、歯を食いしばって泣いていた。正座せいざした両のひざに置かれたにぎりこぶしは、小刻こきざみに震えている。


「……わしは……大切な者たちの気持ちをないがしろにしてきた。ことにウー殿は、御身おんみのエネルギーを愛珠あいしゅとしてわしにさずけ、古代魔法をつくる際に使ってくれと破格はかく便宜べんぎはかってくれた……だのにそれを浅はかな独断でこばみ、自分の寿命を代用だいようしたのは……まぎれもなく、わしのくだした決断だったんじゃ」


(ガウラさん……)


「そしてその事実をみなせた……再び古代魔法に手を伸ばそうとしたおりもあった。あのとき里長さとおさ殿にいさめられていなかったら……きっと今ごろ、取り返しのつかぬあやまちを繰り返していたじゃろう」


(……本当に阿呆(あほう)なやつめ)


「しかしガウラは……こんなわしにも、ガウラは……! 歩むべき道を示し、あまつさえ背中を押してくれた! ならば魂の同胞どうほうとして、わしは絶対に果たさねばなるまい! おのれ不届ふとどきをじ、誠心誠意、みな陳謝ちんしゃすることを……!」


 そう宣言すると、ガウラはノーストたちに向き直り、丁寧に頭を下げた。


「心配をかけてすまなかった! わしはもう、わし自身を手放したりはしないとここにちかおう! ゆえにこれまでかさねてきた愚行ぐこうの数々……どうか、どうか許してはもらえぬじゃろうか?」


 ぎゅっと目をつむったまま恐る恐る懇願こんがんするガウラ。一同は複雑な表情をして沈黙したが、寸陰すんいんを置いて小さく息をいたのはノーストだった。


「ふう……まあそこまで言うのならば、魔剣(あれ)の封印を先延ばしにしてやらぬこともないが」


「ノースト殿……!」


「ただし、うぬが今の殊勝しゅしょうさを維持しているあいだに限った話だ。……くれぐれも二度失望(しつぼう)させてくれるなよ、ガウラ」


「む、無論むろん……! 貴殿きでん寛恕かんじょ胡座あぐらをかかず、これから全霊ぜんれい精進しょうじんするぞい!」


 彼の決意を聞き届けたノーストは満足そうにうなずくと、昌弥に視線を移した。


「……オレはガウラさんの気持ちもよくわかるので、元より責めるつもりなんてありません。ただ……このお話はぜひ、零子たちにもしてやってくれませんか? あの子を始めとして、きっと陽だまりの風のみなさんも待ち望んでいると思うんです。あなたとしんの意味で、魂の同胞になれるその瞬間を」


「! ……あいわかった。あちらへ戻ったら必ずや、すぐに皆へ真実を打ち明けると約束いたそう!」


「ふふ、ありがとうございます。とびきりの勇気が必要になるとは思いますが、健闘けんとうを祈っています、ガウラさん!」


 虫のような異形いぎょうの手でガッツポーズを取る昌弥。それを横目に、足を伸ばして座っているトレチェイスは後ろに手をついて、赤い空を見上げながら言った。


「最後はおれっちか。ん~、むずかしいことはよくわからないけどさ。とりあえずガウっちは、泣いてる顔よりも能天気に笑ってる顔のほうが似合にあってると思うぜ? だからあれこれ気負きおいすぎず、もっと楽に生きてみたらいいんじゃないか? ……そう、たとえば今のおれっちみたいに! なーんちって」


 かざのない愛嬌あいきょうが場をなごませる。

 彼の柔和にゅうわな言葉は、ガウラの心に深くきざまれた。


「……なんともみわたる激励げきれいじゃ。トレチェイス殿、貴殿にはこの身だけでなく、心まで救われるかたちになってしまったのう。わしは一刻いっこくも早くその恩義にむくいるため、これから己をきたえ、出来できることを増やしてゆくつもりじゃ。いずれは貴殿の役にも立ってみせるゆえ、どうか今しばらく待っていてほしい」


「へへっ、なら近々(ちかぢか)身の振りかたでも考えておくとするかなぁ。いざとなったら目一杯(めいっぱい)当てにさせてもらうから、修行しゅぎょうはしっかり頼むぜー?」


「ヌハハ、がってん!」


 ――こうして仲間たちへの謝罪を済ませたガウラは、どこか吹っ切れたように清々(すがすが)しい表情で笑った。その横顔に「このぶんなら陽だまりの風(あちら)も問題なかろう」とノーストが心中しんちゅうでひとりごつ最中さなか。気を良くしたトレチェイスがおどけてみせた。


「というわけで、どうよツキっち? 無事ガウっちも前を向けたようだし、ここはいわいがてら、景気よく青生生魂(アポイタカラ)ゆずってくれる展開とかもありなんじゃないか?」


 とっぴょうのない提案に、月読命はニコニコしながら答える。


「そうだね。この場ではちょっと難しいけれど、アレは遅かれ早かれきみたちにさずけることになると思う。機がじゅくしたあかつきには、景気よく祝福させてもらおうかな」


「ちぇっ、やっぱ今すぐにはもらえない感じかよ~」


「――だが試験についてはこれでパスした。そうとらえても良いのだな?」


「うん、必要な素養そようはもう十分じゅうぶん確認できたからね。ちなみに授けるタイミングについては、ガウラさんの今後にかっているよ」


「! わしの……」


「さっきの誓い、真心まごころって有言(ゆうげん)実行じっこうしてみて。きみが望んだ未来は、その先に広がっているはずだから」


「……承知つかまつった。格別のご高配こうはいに感謝いたしまする」


「ふふっ、どうかがんばってね。――あ、それともうひとつ。きみたち三人にかけられているかせも、ここではずしておかないとね」


「え……」「なに」「?」


 寝耳ねみみに水の昌弥たち。すると月読命は音もなく立ち上がり、三者に神気(・・)を分け与え始めた。やがてテラリウムと化した各々(おのおの)の瞳が、にわかに互いの魂をあばき立ててゆく。

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