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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第307話 ただの賢者

「! そ、そんな……」


 ガウラの告白に愕然がくぜんとする昌弥まさや。彼が慈善じぜん的な人物なのはよく知っている。しかし仲間に黙って命をけずるほど、苛烈かれつな想いをかかえているとは思い至れなかった。いつもほがらかな裏で、斯様かような闇を引き連れていたとは――過去の映像をたばかりなのも手伝って、やるせない気持ちがあふれてくる。


「……」


 いっぽうトレチェイスは、出処でどころのわからぬ強い感情に支配されていた。

 本当の自分と出会であうべく全てをかなぐり捨てた先で、それが幻想だとわかったときの絶望。そのふちに響きわたるおのれの声こそが、内なるさけびであると知ったときの衝撃しょうげき。そしてやっとの思いで与えることのできた愛は、大切なものと引き換えにちゆく、()なかたちをしていたという真実。


(な、なんだこれ……? どうして涙が……)


 わけもわからずすすり泣くトレチェイス。つられて昌弥ももらい泣きを始めた。彼らの目から流れ落ちるしずくに、ガウラの神妙な表情が映っている。

 三者の情動に触れた賢者は、人知れず納得した。


(なるほど。ここにいる者は全員、だれかのために命をけた経験があるんだね。……きみも含めて)


 はかなげな賢者の視線をかわし、ノーストはゆっくりと目を閉じた。


「……吾とて、かつては自刃じじんの計画を目論もくろんだ身。それをたなに上げ、知れた講釈こうしゃくれるつもりなど毛頭もうとうない。だがめぐるよ……吾らはもはや、孤独の渦中かちゅうにはないはずだ。うぬを独りたらしめているのは、うぬ自身の心であると――そろそろ認めてもよい頃合ころあいではないか?」


「……」


 ノーストの言葉を聞いた瞬間、めぐるの脳裏に数多あまたの顔が浮かんだ。両親、家政夫、中高ちゅうこうの同級生や不良たち。具治ぐじ、カナヘビの店主、組長くみちょうと親父さん、依帖えご先生、陽だまりの風、フルーカ女王にウー、そして里長さとおさや眼前の仲間たち。


 ――彼らとの出会いが一つでも欠けていれば、今の自分が形成されることはなかったであろう。ゆえにその恩を返すべく、これまで光と闇のはざまでり切れる選択をいとわなかったが。


(わしは…………自分は…………)


『誰がために剣を揮うか。それはわしのためであり、お主のためでもある。何故なら我らは一心同体――いつ何時も連れ立だってきた、魂の同胞なのだから』


「!」


 不意にみずからの生命エネルギーがガウラをかたどり、めぐるの魂に語りかけてくる。


『だからめぐるよ。わしに固執こしつするでない。そのようにせずとも……光はつねに、お主とともにある。お主の周りにだって、無限に広がっているんじゃ』


「ガウラ……」


『ヌハハ! しからば、今度こそ大丈夫じゃな? わしとめぐるをへだてるものなど、はなから存在せんわい! 人のことわりおもいを結ぶ。そこから伸びゆく道は、いつもひとつに繋がっておる。ゆめゆめ忘れるでないぞ』


 にっこりと笑ったガウラは賢者に向き直ると、『あとはお頼み申す』と言ってウインク混じりで二指にし敬礼けいれいを送った。そうしてめぐるの魂にけゆく彼を見届けながら、賢者が小さく「承知したよ」と呟いた直後のこと。


「ぬ」「あっ!」「おぉ!?」


 めぐるの生命エネルギーは、にわかに本来の大きさを取り戻すに至った。



「……そろそろ落ち着いたかな?」


 賢者がやわらかな声色こわいろで確認する。ひとまず洞穴の外に出た一同は現在、安全地帯でき火を囲んでいるところだ。試験以降、何かと動揺どうようしてばかりの四名であったが、ようやく平静を取り戻しつつある。


「悪かったなぁ、すっかり取り乱しちまって……おれっちはもう平気だぜ」


「オレも大丈夫です。ガウラさんは?」


「うむ、問題ないぞい」


「……であるならば、先ほどの件について改めてうとしよう。賢者――いや、この場はつきよみのみことと呼んだほうが適切か」


「ふふっ。まあこれからする話に耳をかたむけてもらうには便利かもしれないね、その名も」


「へ……」「い、今なんと!?」


 さらりと明かされた事実にきょうたんする昌弥とガウラ。

 その横でトレチェイスは首をひねり、ハテナを浮かべている。


「ん? キヨミ……ノミコ? なんだって?」


「ト、トレチェイスさん! このかたは……!」


「か、神様じゃよ神様!」


 慌てて取りつくろう両者をよそに、彼はあっけらかんと続ける。


「神ぃ……? 神って確か、少し前に兄上(あのひと)やノスっちを向こうの世界に送り込んだとかいう……」


「それは魔神ましんムンディのことだね。私と彼とでは、少し立場や役割が違うかな。黒に対して斥力(せきりょく)が働かない一点いってんにおいては、同じ神霊しんれいといっても過言かごんではないけれども」


(ふむ……?)


 ガウラは関連する情報を思い起こした。チャロいわく、夕鈴ゆうりの守護神となっていたまがかみホウゲンが、丁度ちょうどそのような性質をもついっちゅうであったとか。すなわち月読命もまた、魔神と誠神せいしんのあいだにある存在なのかもしれない。

 ――ともあれ、本来ならばおよそあり得ぬ高次の御魂みたまとの邂逅かいこう。ガウラも昌弥も非常に緊張している様子だ。その態度が心苦しかったのか、月読命は相も変わらず穏やかに笑った。


「ああ、ごめんね。神といっても別にえらいわけではないから、私をうやまう必要はないよ。どうか肩の力を抜いて、ただの賢者として接してほしいな」


「……ただの賢者というのも妙な話だがな」


「とりあえずおれっちは、わかりやすくツキっちと呼ばせてもらうぜ!」


 すこぶる謙虚けんきょな神に、まったく物怖ものおじしない二人。人間の感覚が根強ねづよいガウラと昌弥は、顔を見合わせて苦笑した。さすがに愛称あいしょうおそれ多くもあるため、以降は賢者呼びをつらぬくべきだろう。


「――さて、じゃあ本題。まずはノーストの問いに答えるところから始めようか」

トレチェイスが涙した理由は第216話で語られています。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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