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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第306話 歪さ

「い、今のって」


「ガウっちの記憶……なのか?」


「…………」


 三者さんしゃの反応を見るに、賢者だけでなく場の全員に過去の映像が共有されたらしい。ガウラは少し寂しそうな顔をして両腕を組むと、皆に背を向けて洞穴どうけつ天井てんじょうあおいだ。


「そうじゃ。今しがたの映像はすべて、現実世界のわし――須藤めぐるが辿った運命に相違ない。……ヌハハ、陰気いんき臭いものをせてまこと面目めんぼくないわい」


 哀愁あいしゅうびた声で小さく笑い、ひげを触って目を閉じるガウラ。その後ろ姿にかけるべき言葉が見つからず、昌弥まさやとトレチェイスはうつむいて押し黙る。いっぽうノーストは「やれやれ」とつぶやき、おもむろに出現させた魔剣を地面に突き刺した。


「賢者よ。すまぬが今一度、こいつの封印を頼みたい」


「……きみの相棒あいぼうか。でもそれは少し前に解放したばかりだったはずだよね? 久しぶりの活躍もつかの間、もうおやく御免(ごめん)にしてしまうのかい?」


如何いかんせん当てがはずれたからな。こいつを再びふるえる日など……当分とうぶん来ることもなかろう」


 脈絡みゃくらくのないやり取りに、昌弥たちが戸惑とまどっている。しかしガウラだけは、その裏に込められた痛切な叱咤しったを感じ取った。このままでは彼との約束を反故ほごにしてしまうだろう。いずれ本気で剣をまじえ、ともに血沸ちわくような時を過ごさんとちかったあの高揚こうようすらも。


「やはりわしでは……貴殿きでんの相手は務まらぬか」


「……阿呆あほうが。不足があるのはめぐる(・・・)、うぬの心に他ならぬ」


「!」


「地をい、苦汁くじゅうめ、己の未熟さに打ちのめされ……なおも光を信じ、手を伸ばし続け、ついには勇気の本質を垣間かいま見るに至ったおとこ。それがうぬだ。しかしその心意気が相殺そうさいされるほどに、うぬは致命的な欠点をかかえている」


「……うん、残念だけどノーストの言うとおりだね。きみの魂はまだ、青生生魂(アポイタカラ)を扱うに相応ふさわしくないようだ」


 落ち込んだ様子のガウラに対し、あろうことか追い打ちをかける両名。

 トレチェイスはあたふたと反論した。


「ちょ、ちょっと待ってくれよお二人ふたりとも!? おれっちは異世界の事情なんてわからないし、ノスっちとの間に何があったのかも知らない……けど、けどさ! ガウっちが誰かのためを想って一生懸命、しにものぐるいで頑張がんばってきたってことだけは伝わったぜ!? なのにどうしてそんな……!」


「そう、死物狂い。まさにそこが問題なのだ、トレチェイスよ」


「え……」


 ノーストが目くばせする。賢者は無言むごんうなずくと、今度は銀のオーラをそのまま一同に向けて放った。刹那せつな各々(おのおの)の身体がまとっている透明のモヤがあらわになる。昌弥まさやは直感的に、その正体をさとった。


「これ……もしかしてオレたちの生命エネルギー、ですか……?」


しかり。魂の代謝たいしゃが引き起こす精気せいきの流動と言い換えてもよい。元来(がんらい)魔物であれば肉眼でとらえられる代物しろものなのだが……うぬらは何故なぜえておらぬ様子だったのでな。賢者のちからを借りて一時的に可視化かしかさせた。今ならばあやつのいびつさを確認できよう」


「歪さだって? ……あ……」


 トレチェイスは理解した。生命エネルギーは人間、魔物、魔人、賢者と、種族を問わずみな一様いちように透明のゆらめきで、身体の周りをおおい尽くしている。ところがガウラだけはそのモヤが異様いように小さく、身体の内側から立ちのぼっている具合なのだ。その光景は言わずもがな、不穏ふおんな空気をただよわせていた。


「……めぐる。うぬがそうなったのはアパダムーラとの決戦前だったな。陽だまりの風の士気しきにも関わるゆえ、これまでえて詮索せんさくせず、おのずから真実が語られる日を待っていたのだが……先刻の記憶をて確信したぞ。うぬは吾らに黙って、いったい何を差し出した(・・・・・)?」


「ッ! そ、それは……」


 射竦いすくめるノーストの迫力に気圧けおされる。

 同時に、昌弥たちからも懐疑かいぎ的な眼差しが向けられた。


「え……? どういうことですか、ガウラさん……?」


「お、おいガウっち……まさかとは思うが……」


 先ほどノーストは、彼には致命的な欠点があると言った。加えて過去のめぐるが初志しょし貫徹かんてつで、己をかえりみぬ献身けんしんを繰り返していたこと。果てに、もし彼の生命エネルギーが弱まっている(・・・・・・)のだとしたら。


「――寿命じゅみょうじゃよ。わしは古代魔法をもちい、寿命を払うことで固有スキルの強化をはかった。かの死闘でみなを、敵の空劫くうごうほうから守るためにのう」

お読みいただき、ありがとうございます!

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