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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第305話 懺悔

 立ち入り禁止の屋上から他校の男子生徒が転落した事故。不幸中の幸いか、彼は真下にあった駐輪場の屋根がクッションとなり、重症を負うも一命をとりとめた。


 男子生徒の境遇や現場の状況から見て、ことの背景には様々な因果が絡んでいるのは想像にかたくなかったが――当事者とみられる生徒らがこぞって無関係を主張し、また男子生徒自身も口を閉ざし続けたため、真相は闇へとほうむられる。以降、大人たちはこの件をタブー視し、徐々に風化の一途いっとを辿ることとなった。


 すべてを知っているめぐるは、具治の負った心の傷とカルマをおもんぱかり、家政夫以外に真実を打ち明けることはなかった。だがいびつとなってしまった友好関係を手放しに維持するのは難しく、彼は楽しみにしていた"協力プレイ"を実現できぬまま不登校となって、あの望まぬ結末にせきを感じ、半年ほどうなされる日々を送る。


(自分は……勇気の示し方を間違えたんだ。本当なら彼ら(・・)いさめて止めるべきだったのに……やっぱり、自分はガウラにはなれないのかもしれない)


 光を進んだはずの道の先には、果てしない闇が広がっていた。しかしこの闇は、おのれまねいた必然。もがき苦しむのは義務でもあると思い直し、めぐるは懺悔ざんげの心で再び登校するようになる。ところが具治との間に生まれた軋轢あつれきはすでに、容易に解消できるものではなくなっていた。


「なんでずっと来なかったの? なんで連絡してるのに返事をくれなかったの? ……ボクを避けてたんだよね。ぜんぶボクが悪いと思ってるんだよね」


 こうして孤独というむくいを受けためぐるはさらに、他クラスからあのリーダー格の恋人とおぼしき女子生徒がやってきて、陰湿な嫌がらせを受けるようになった。


「あんたさえいなければ……!」


 人気者で味方の多い彼女の標的になったことで、他にも多数の生徒から狙われる日常が幕を開ける。それが逆恨さかうらみやいわれれのない暴力だと知っていてなお、めぐるは贖罪しょくざいを全うせんと、甘んじて理不尽に耐え続けた。すでに他の友人関係をきずいていた具治は、その不憫ふびんな姿に目をつむり、手を差し伸べることもなかった。



『あー、なんつーか悪かったな。俺うまれつきこんな感じだからよ……つかタメなんだし、めぐるも敬語はよせって』


 二年に進級し、初めての修学旅行。なぜ生きているのかすらわからなくなってきた精神状態で鬱々(うつうつ)と参加したこのイベントには、見覚えのない金髪の不良が同じはんのメンバーに割り振られていた。ところが彼のほうは自分の名を把握しているらしく、横にいる風流ふうりゅう才子さいしな好青年も、どういうわけか親切に接してくる。


『あははっ! 須藤君、そういうわけだからさ。清水の舞台まで三人でオタトークでもして行こうよ!』


 ――清水の舞台を回った後も二人は気さくなままで、忘れかけていた"友達との接し方"が次第に呼び起こされていった。そしてどもらずにしゃべれている自分に心底(しんそこ)驚かされると同時に、まるで夢を見ているような感覚だと思っていたところを佳果にぴしゃりと言い当てられ、脳内は混乱を極める。正常な判断ができなくなっていたからだろうか、気づけばめぐるは、初対面の人間に弱みを吐露とろしていた。


『ぜんぶ、自分が悪いんだ。それはわかってるんだけど、どうにもならなくて……痛い思いをするたび、いっそ死ねればと……でもそんな自分が嫌で、もっとどうにもならなくなって……』


 佳果はそんな自分に対して、あろうことか"逃げる"選択をすすめた。あの日、もう逃げないとちかったはずなのに――彼の言葉は不思議と心にみて、魂が照らされてゆくような心地がした。しまいには、かつて後ろ暗い口実に使った"アスターソウル"というゲームを次は自分の力で手に入れるべく、アルバイトを始める覚悟を決めている自分がいて。


『ぅぅうううぁぁあああああああ!』


 矢先やさき、自分の闇がかすむほどの凶悪な黒に飲まれかける二人をの当たりにしためぐるは、もう二度と勇気を履きちがえぬため、拳銃をもった担任教師へ渾身こんしんのタックルを繰り出していた。まもなく強烈な反撃を喰らってしまったが――白に染まりゆく視界のなか、彼は佳果の言っていたとおり、心が痛みから解き放たれていることに気づく。そこで初めて、光のなかでガウラが微笑ほほえんだような気がした。

後半の引用セリフは『第53話 なげうったもの』と『第57話 カタルシス』から。

めぐるにとって、佳果たちとの出会いは大きなターニングポイントでした。


※お読みいただきありがとうございます。

 今年も一年、読者の皆様にはたいへんお世話になりました!

 元旦まであと少しですが、どうか良い新年をお迎えください。

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