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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第303話 崩壊

 無事に倉庫へ到着しためぐるは、入口付近で具治と合流した。本当に人の出入でいりには無頓着むとんじゃくらしく、あっさりと内部へ侵入できる。


(セキュリティ大丈夫なのかな、この会社……)


「ほんっと助かったよ須藤くん! やっぱり持つべきものは友だちだね! ……で、探してほしい商品なんだけど。これがその番号」


 バーコードと数字が印字された小さなシールを渡される。これと一致するものを、倉庫内のどこかから見つければミッションコンプリートだ。彼は「じゃ、悪いけどお願いしまーす!」とさわやかに手を振り、早々に消えていった。かなり忙しいようだ。


「やれやれ……よし、これも人助け。がんばって探してみよう」


 ――その後、刻限こくげんである夕方ギリギリになって商品は見つかった。しかし具治がどこにいるのかわからなくなってしまったため、その日は場所をスマホで伝えて帰路につく。途中、めぐるは初めての体験に高揚こうようし、また動揺どうようしていた。


(働くってあんな感じなんだ……まあ、自分がやったのはほんの一部だけど……具治くんはいつも、ああやって汗水あせみずらしながら欲しいゲームのために頑張ってきたんだな。ひきかえ自分は、いつでも好きな物が手に入る……何もしていないのに)


 俄然がぜん、あの時に生じた違和感がより鮮烈せんれつな痛みとなってのしかかる。思えば、不良たちの主張も全てがまとはずれだったわけではない。誰かに尽くすなら、まず温室から出て外の空気を吸うべきなのだろう。自分にしかできぬこと――それを知るためには、他者にならい、普遍ふへんの視野をつちかう勇気が必要だ。


(光は……ガウラは、きっとその先にいる。心をみがいて、からやぶって……ほこれるおのれと出会ったとき、自分は初めて誰かのかてになれるのかもしれない)



 翌日の学校。具治は感謝を述べながら、日払いの給料を折半せっぱんしてきた。


「須藤くん、昨日はありがとう~! おかげでしかられずに仕事が終わったよ!」


「そ、そっか……何よりだったね」


「で、はいこれ! 約束してたお礼の4000円!」


「! あ……そ、そのことなんだけど……」


「?」


「……えと、自分……昨日は適当に宝さがししてたようなものだし……お陰様かげさまでいい気分転換にもなったというか……だ、だからお礼は別に要らないかなって」


「えっ!? で、でもさすがにそれは……」


「いいんだ。と、というか具治くん、昨日(きのう)働いていたってことは、その4000円がないと、きょ、今日ゲーム買えないんじゃない?」


「ギク! ……あ、あはは、まあね。実はシフトの都合つごうでそうなっちゃってさ……とはいえ、今日のところは大人おとなしく我慢がまんしてもう一日(はたら)けば済む話だから。須藤くんが気をつかう必要はないよ」


「け、けど……自分は……前から話してたとおり、今日の放課後、さ、さっそくきみと協力プレイできるほうが……こ、個人的には断然(うれ)しいんだけど……」


「……! ……まったく、本当にお人好ひとよしだなぁ須藤くんは!」


 満面の笑みを浮かべて背中をぼんとたたいてくる具治。彼はめぐるの厚意こういに甘えて、この場は感謝の意を表明するだけにとどまった。代わりに放課後は、二人で存分にゲームを楽しむつもりだ。



 最後の授業が終わると、二人はすぐに行動を開始する。具治は近くのショップでゲームを取り置きしてもらっているそうで、浮き立ちながらそれを受け取りに行った。すでに現物を所持しているめぐるは、待ち合わせ場所に指定したとある空き教室に向かう。旧校舎の一階にひっそりと存在しているこの場所は、滅多めったに邪魔の入らない秘密の穴場あなばなのだ。


(いよいよか。楽しみだな)


 念願のプレミアムボックスを手に入れた具治が、ハツラツとやってくる姿が目に浮かぶ。今日は菓子なども用意しておいたし、さぞや充実した時間になるだろう。


(…………)


 ――そろそろ戻ってくる頃のはず。あと少しの辛抱しんぼうだ。


(…………)


 ――なんだか遅いような。彼もまた、食べ物などを用意しているのだろうか。


(…………)


 期待とは裏腹に、一向いっこうに現れる気配のない具治。あれから1時間近くとうとしているにもかかわらず、途中経過の連絡すら届かない。急激に胸騒むなさわぎが襲ってきためぐるは、鳴らぬスマホを置いて立ち上がった。


(具治くん……まさか、事故にでもって……?)


 窓ガラス越しに正門のあたりを見つめる。やはり、下校する生徒たちがまばらに歩いているものの、具治は影も形もない。しかし、ふと視界の上方じょうほうで何かが動いた気がした。吸い寄せられるように視線をずらすと、そこには信じがたい光景が広がっていた。


「!?」


 屋上で誰かと言い争っている具治。その腕には四角いものが抱えられており――まもなく相手に奪われたそれは投げ捨てられ、こちらのほうへ向かって宙を舞った。数秒後、地面に落下した箱はかわいた音を立てて無惨むざんにも砕け散る。残骸ざんがいの中からは、限定のポストカードにえがかれたキャラクターの笑顔がのぞいていた。

 瞬間、めぐるの魂はひどく揺さぶられた。

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