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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第302話 光のなか

「オラッ! なんであいつは良くておれらは駄目だめなんだよ! 差別か!?」


 体育館の裏に呼び出されためぐるは、不良たちから集団リンチにっていた。鋭いパンチをみぞおちに喰らい、呼吸ができずにうずくまっていたところを、今度は四方しほうから蹴り倒される。激痛に耐えているさなか、リーダー格が「なんとか言えよ」とおどしてきた。


「ゲホッ……ゲホッ……か、か……彼は……家のために……将来のために、勉強を頑張ろうとして……だから手伝って……」


「ああ? なんだもしかして気づいてねぇのか。あいつ、てめえからせしめた金の半分は遊びに使ってんだぜ?」


「……え……」


「ま、ベンキョーなんてクソだりぃことさせられてんだから、息抜きくらい当然の権利だとも思うけどな。……つーわけでさ、おれらにもめぐんでくれよ? ここにいるヤツらは片親かたおやだったり捨て子だったり、てめぇみたいに温室でノラリクラリと暮らしてきたのとはワケがちげぇんだ。ちょっと手伝って(・・・・)くれてもいいだろ?」


 またを大きく広げ、しゃがんだひざひじを置き、両腕をだらんとらす不良。その指には火のついたタバコが挟まっており、周りの連中のなかには、酒瓶さかびんを持っている者もいた。

 ――確かに、人生には享楽きょうらくてきうるおいも必要だ。でも彼らはおそらく、その先を見据みすえているわけではない。自らのかわきを満たすだけの息抜きは、きっと心の寂寞せきばくを助長するだけだろう。


「うっ……うっ……」


 それでも圧倒的な暴力と恐怖の前には、なけなしの勇気など風前ふうぜん灯火ともしび。彼らの非行に加担かたんせざるを得なくなっためぐるは、言われるがまま家に戻った。

 そうして恐喝きょうかつされているのを悟られぬよう、街中まちなかでアスターソウルのデバイスを見つけ、これを購入したくなったという建前たてまえで、家政夫に100万円以上の現金を要求する。相手あいてかたの人数と今後の定期的な譲渡じょうとを考慮すると、この段階でまとめてもらっておいたほうが融通ゆうずうくと思ったからだ。


「…………」


 家政夫は寡黙かもくな男だった。しかし最近、明らかに出金の頻度ひんどが増えていたこと。そしてめぐるの顔に涙痕るいこんがあるのを見て、彼はいつになく言葉をつむぐ。


「……っちゃん。人には自由意志というものがあります」


「え……?」


「何が良くて、何が悪いのか。それは誰の主観にもとづくかで、かたちを変えてしまう。ですが――」


 めぐるの横を通り過ぎ、背を向けたまま家政夫は言った。


「そのかたちを探求しようともせず、ただ多様性という真実の奴隷どれいを演じるのは……我々、汚い大人おとなだけで十分じゅうぶんです」


「……」


「あなたは、あなたのほこれる道を――光のなかを生きなさい。そのためには、ここで歩みを止めてはいけない。さもなくば、あなたの大好きなガウラさん(・・・・・)を……ずっと待たせることになってしまいますよ」


「!!」


「フフ、出過ぎた真似まねをしました。……あとはお任せを。学校には私から話をしておきます。坊っちゃんはどうか、しばらく休養に専念されてください」


 それ以上なにも言わず、家政夫はただ静かに微笑ほほんで須藤邸を後にした。


 ――その後、めぐるは大人たちの配慮で少し遠方の中学へ転校する運びとなる。新しい学校では他人に境遇を明かさず、粛々(しゅくしゅく)と日々をやり過ごした。行きと帰りは家政夫に車で送迎そうげいしてもらい、彼は徐々に心の平穏へいおんを取り戻してゆく。残りの中学校生活において、再び波風なみかぜが立つことはなかった。



「ねえ須藤くん、ゲームショウの動画もう見た!?」


「お、おはよう具治ぐじくん……え、えっと……もちろん見たよ」


 高校に上がっためぐるは、相変わらず人とのコミュニケーションが苦手だった。ところが三度の飯よりゲームが好きというこの具治に目をつけられて以来、最近はこうして彼とだけ話す機会が増えている。


「『ファントムリーフ』の新キャラやばかったよね!? 2(ツー)のラスボスがプレイアブル化とかめっちゃ燃えるんだけど!」


「う、うん……自分も楽しみ」


「発売日まであと三ヶ月か~! ボク限定のプレミアムボックス買っちゃおうかな! ……あ゛。でもうち今年からお小遣い制が撤廃てっぱいされたんだった……ぬぬ」


「……」


「うーん……よし決めた。ボク、派遣はけんやってみる!」


「は、派遣? って確か、単発でも稼げるお仕事……だっけ?」


「そう! アルバイトだと、必要な額を稼ぎ終わっても仕事(つづ)ける流れになりそうだしね。そのせいでゲームする時間が減ったら本末転倒だよ」


「な、なるほど……そ、その……大変だと思うけど、がんばってね……」


「うん! じゃ、さっそく派遣会社さがしてみよーっと」


 そう言って自席に戻り、スマホをいじり始める具治。新しいことへの挑戦にわくわくしているのか、その横顔は輝いていた。


(……普通の友達なら、ここで"一緒に働こう"って言えるんだろうな。けど自分は……きっと迷惑をけるに決まってる)


 光のなかを生きるには、どうしたらいいのだろう。未だ遠くにたたずんでいるガウラから視線をらすように、彼は勉学へはげんでよどんだ思考を押しのけた。



『須藤くん、ヘルプミー!』


 例の新作ゲーム発売を前日にひかえた日曜日。自宅でネットサーフィンをしていると、画面の右下にメッセージの通知が届いた。差出人は具治である。めぐるが返信を入力していると、立て続けに彼から電話がかかってきた。慌ててマイクをセットし、応答する。


「も、もしもし……」


「あ、須藤くん! ごめん、突然で悪いんだけど、いまひま?」


「……う、うん……まあ暇といえば、暇かな……」


「ほんと!? よかった! じゃあさ、今から住所(おく)るんで、ちょっとここまで来てくれない?」


「え……」


 まもなくURLリンクを受信する。開くとマップアプリが立ち上がり、場所が確認できた。やや面積の広い土地で、ここからそう遠くない位置にあるようだ。付近の写真を調べたところ、大きな建物が写っている。


「こ、これは……倉庫……?」


「そそ! 今、派遣の仕事で来てるんだけどね。ちょっとしくっちゃって……実は何万種類もある物資の中から、特定の商品を見つけ出さなきゃならないんだ。その……場所の手がかりなしで…………」


「て、手がかりなし……!?」


「あはは、本当は場所が書いてある紙があったのに、どこかに落としちゃったみたいで……でもでも、夕方までに見つけられればセーフなの。ただボクは他にもまだいっぱいピックアップするものが残ってるから……」


「じ、自分に……手伝ってほしいと……?」


「どうかお願いしますっ! ちなみにこの倉庫、人の出入りについてはかなり適当なんだ。私服の人がほとんどだし、きみがまぎれても不審ふしんに思う人はいないはず。で、その商品を見つけてくれたら、お礼として給料の半分をそっくりあげるから! ってことで、ひとつよろしく頼むね!」


「あ、いや……! ちょ、ちょっとまっ……」


 あらしのような通話が一方的に終了する。正直かなり勝手な話だとは思ったが、わざわざ連絡を寄越してきたくらいだ。わりと本気でこまっているのかもしれない。


(……まあ、こういう手伝いだったら……大丈夫だよね……)


 久しくガウラに近づける機会を得たと思った彼は、急いで支度したくを済ませ、自転車で現場へ向かった。

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