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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第301話 違和感

「なんと……賢者けんじゃ殿どのであらせられるか! 貴殿きでん御高名ごこうめいはかねがね……!」


 ガウラが挨拶あいさつがてら、握手あくしゅを交わそうと歩み寄る。

 以前、もう一人の賢者 けん 里長さとおさである周治しゅうじ刻宗ときむねの助力を得た際に、ノーストは眼前がんぜんの人物から『結界と愛珠の関係性』を詳しく教わったことがあると話していた。同時に夕鈴ゆうりとトレチェイス失踪しっそうの件について、何らかのかたちで関与かんよしていた可能性も高い存在だったはずだ。


(加えて……わしが古代魔法に触れたおり、本来()っていたやもしれぬ御仁ごじんじゃな)


 ウーやフルーカのちからを借り、"書庫"を閲覧するという裏道うらみちを通ってきたガウラにとって、彼との邂逅かいこうはあるしゅ本道ほんどうともいえる、いずれ果たすべき必然のイベントであった。お近づきのしるしとして差し出されたゴツゴツの手を見て、賢者は嬉しそうにそれを取る。


「ふふ……どうやらきみが、此度こたびの資格者のようだね」


「? はて、資格者とは……」


 次の瞬間、賢者から立ちのぼっていた銀のオーラが赤くなり、ガウラを包み込んだ。どこか様子がおかしい。


「! ガ、ガウラさん!」


「お、おいおい賢者様よ、ガウっちにいったい何をするつもりだ!?」


「――心配しないで。青生生魂(アポイタカラ)を扱うにる魂かどうか、確かめるだけだから」


 その言葉を聞き、ノーストの脳裏のうりに当時楓也(ふうや)が言っていた"試験"の二文字がよぎる。


(……案の定、ディメンションアイテムの洗礼せんれいを受けなくてはならぬらしいな。もっとも相手は賢者の名をかんし、この魔境に顕現けんげんせしめた月の意識(・・・・)。まして、ガウラ(あやつ)も並々ならぬ光をもっている人間だ。ここは両者を信じ、見守るしかあるまい)


 刹那せつな、賢者はガウラの持っている記憶の世界をのぞいた。



がために剣をふるうか。それはわしのためであり、おぬしのためでもある。何故なら我らは一心同体――いつ何時なんどきも連れってきた、魂の同胞どうほうなのだから』


「~~! やっぱり何度プレイしてもカッコいいなぁ、ガウラは!」


 中学に上がったばかりの須藤すどうめぐる。彼は幼少期から親しんできたゲームのワンシーンを見て、思わず感嘆かんたんの声を漏らした。もう何周したかわからぬが、やり込むたびに新たな発見があり、その時々(ときどき)で受け取れる教訓も変化するこの作品は、今後もずっときずに楽しめることだろう。


(自分もガウラみたいになりたいな! 人を助けるのは当たり前……それでいてみんなをえんの下から支えて導いてくれるような、そんなカッコいい大人に!)


 興奮こうふんさめやらぬ表情でこぶしを握り、自室の天井をあおぐ。すると不意に、テーブルの上で冷たくなっている夕飯を視界のはしとらえた。あれは仕事で海外へ飛んだ両親に代わり、今日から()み込みで働くようになった家政夫がつくってくれたものだ。一気に現実へ引き戻されためぐるは、はぁと短くため息をついて立ち上がった。


(……お父さんとお母さんは、自分たちにしかできないことをするのに忙しいんだよね。でもそれはきっと、ガウラも一緒で……誰かのために一生懸命がんばってる証拠なんだ。とても素晴らしいことじゃないか。息子むすこがワガママ言って、足を引っ張るわけにはいかない)


 さびしさを振りほどき、グラスに入った水を一気に飲み干す。そうして電子レンジを開け、彼はおさない感情でないがしろにしてしまった料理を温めながら己をかえりみた。先刻はつい「赤の他人がつくったものなど」と思って知らんぷりしてしまったが。


(……家政夫さんに謝ろう。そして明日からは、ちゃんとできたてを頂こう)



「おーい須藤。折りってお願いがあるんだけど」


 教室移動で渡り廊下ろうかを歩いていると、急に後ろから呼び止められる。めぐるは「え……な、な、なんですか?」と言って硬直こうちょくした。くち下手べたで引っ込み思案な性格をしている彼は、基本的にクラスメイトたちとからむことがなく、ゆえに"話しかけられる"という不測の事態に遭遇そうぐうすると、いつもこのようにどもってしまうのだった。


「はは、なんで敬語? 普通に話していいって。……んー、ここだとアレだから、場所()えてもいいか? こっちこっち」


 手招きしながら、有無うむを言わさず先導する男子生徒。あわてて後を追ったところ、人気ひとけのない階段のおどり場に到着した。


「わりぃ、話しづらい内容だったんで」


「……だ、大丈夫。そ、それでお願いって……?」


「――唐突とうとつなんだけどさ。おれんち、すんげー貧乏びんぼうなのよ」


「……は、はぁ」


「どんくらい貧乏かっていうと……そうだな。まともに給食費がはらえないくらい」


「……そ、そ、それは……大変だね……」


「おう、みじめだからみんなには黙っといてな? んで、こっからが本題。実はさ……うちの親、めちゃくちゃひどいんだわ」


「?」


「なんか将来的に、偏差値70近い高校を受けさせるつもりでいるらしくて。だから今の時期から勉強やれやれって毎日死ぬほどうるさいんだよ。まだ一年なのにだぜ?」


「……」


 話が見えず押し黙るめぐるをよそに、男子生徒はなおも続けた。


第一だいいち、マジでそこ狙うんだったら過去かこもんとか参考書とか、たくさん買わなきゃならんわけ。なのに肝心の金がまったく足りてないっつうか……月にくれる小遣こづかいが少なすぎて、まるで手が届かない状況なのよ」


「……」


「で、親にそれ言うと"勉強は教科書だけで十分"とか言ってきて……じゃあなんで世の中にはじゅくがあんだよって感じじゃん? おれ別に天才じゃねぇし、道具も無しに戦えるわけないっしょ。…………あ~つまり、なんだ。おれの言いたいこと、須藤ならわかるべ?」


「……きょ、教材費を、工面くめんして欲しいと……?」


「ッそう! まさにそういうことなんだよ! いやぁ~さすがは須藤、理解が早くて助かるわ! じゃあ協力してくれるってことで――」


「ちょ、ちょっと待って……!」


「? なんだよ?」


「その……ど、どうして……どうしてそんなお願いを、自分に……?」


「ん? そりゃ決まってんじゃん。お前んち、超がつくほど金持ちなんだろ?」


「!」


実際じっさい、小遣いどんくらいもらってる? もしアレだったら、そん中からイケる分だけ助けてくれる(・・・・・・)感じでもいいからさ! 頼むよ、このとおり!」


「……」


 めぐるは逡巡しゅんじゅんした。要するにこれはお金を貸す――いな譲渡じょうとする話である。彼の言うとおり、確かに実家は経済的に裕福ゆうふくであり、小遣こづかいに至っては実質無制限。家政夫に欲しいものを伝えればなんでも買ってもらえるし、金額を言えばいくらでも現金を手渡してくれる。しかしその出処でどころが親のふところであるという事実に、ぬぐえぬ違和感がまとわりつくのだ。


「……や、やっぱり、お金のやり取りは……ま、まず大人の許可を……」


「それはダメだ! 大人が出てきたら絶対面倒(めんどう)ごとになるって! この話自体(じたい)なかったことにされちまうよ……。なあ、ゴショーだからさ。おれたちの中だけで話(すす)めてくんねーかな? こんなこと頼めるの、お前しかいないんだよ……」


「…………。きょ、教材費は……いくらくらい必要なの?」


「! とりあえず、受験に必要な全科目分をカバーすんのに二万くらいは……ああ、でも問題()き終わったら、また別の参考書を買わないと。って考えると、できれば定期的にサポートしてくれたらありがたいんだけど」


「……な、なるほど。……ち、ちなみに……勉強するのは、いやじゃないんだ?」


「へ?」


「だ、だって、ようは親の期待にこたえようとしてるんでしょ? 本当は勉強なんかしたくないって思っているなら……こ、こんなお願いはしないだろうなと思って」


「……あ、ああーそうなんだよ! まあ親孝行おやこうこうも兼ねてるっていうか? とにかく、先立さきだつものさえあればすべてがうまくいくはずなんだ。だから明日、(かね)持ってまたこの時間にここへ来てほしい。くれぐれも、先生とかには内緒ないしょで頼むぜ?」


「あ……、う、うん……」


 なかば押し切られたような気もするが。こうしてめぐるは、クラスメイトにほどこす運びとなった。依然として先の違和感は消えないものの、少し角度を変えてみるなら、この施しは"自分の境遇でしかできない人助け"とも言えるだろう。実際問題、自分は金に困っておらず、彼は貧しさにあえいでいるのだから。ともすれば、特に悪いことではないのかもしれない。


(……そうだよね。彼は頑張って勉強して、いい学校に入って……親を安心させてあげたいんだ。すごく立派な心がけじゃないか。それを後押ししてあげられるのは自分だけ――ガウラもきっと、「力になってやれ」と言ってくれるはず)


 普段ゲーム以外で出費しないめぐるにとって、この金の使い方はむしろ他者を活かしる有意義なものにすら思えてきた。これはガウラという理想に近づくためのチャンスだ。そう自分に言い聞かせ、男子生徒に金を渡し始めてからしばらくったある日のこと。気づけばめぐるは、見知らぬ不良たちに囲まれていた。

大晦日に不穏な感じで恐縮ですが、めぐる回です。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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