第300話 片羽
「ぬ、あそこじゃな!」
「お~やっとこさ到着かぁ!」
「やりましたね、みなさん!」
頂に程近い岩石地帯。ようやく見えてきた目的の洞穴に、ガウラたちのテンションが上がってゆく。
ノーストによれば、あの中から青生生魂の気配が感じられるそうだ。それは同素材から作られているという魔剣『ドゥシュタ・ニル・ガマナ』を有する彼にしかわからぬ感覚なのだが――全幅の信頼を寄せている三人は、「とうとう見つけてやったぞ」とすでに手中へ収めたと言わんばかりに歓喜している。
「……やれ、そう逸るものではない。ぬか喜びに終わったとしても吾は責任を取らぬぞ」
「またまたぁ! ノスっちに限って見当違いってこともないだろ? てなわけで、おれっちは一番乗りで"ガチ喜び"を掴ませてもらうとするぜ!」
「ああっ! ずるいですよトレチェイスさん!」
「わしも早く見たいぞい!」
スタコラサッサと抜け駆けするトレチェイスのあとを、ガウラと昌弥が全力疾走で追いかけてゆく。その迂闊な行動に待ったをかけようと宙に手を伸ばすノーストであったが、これまで散々難路を越えてきた彼らの気持ちがわからぬわけでもない。
「まったく、仕方のない奴らめ」
そう呟いたノーストは転移魔法を使い、結局誰よりも先に洞穴内へ到着する。突如として出現した彼の背中にドンと顔をぶつけ、「そ、そりゃないぜノスっち……」とトレチェイスが涙目を浮かべるいっぽう。両脇に立った他の二人は少し先のほうに、地面から生えるように隆起している不可思議な結晶を捉えていた。
「ほう! 想像以上に美しいのう……吸い込まれるような水色じゃ」
「銀の粒子が立ち昇っているのも幻想的で綺麗ですね。……ん? でもあの結晶、なんだか陽炎みたいに揺れている気が……輪郭があやふやといいますか……」
「とりあえず、もっと近くで見てみようぜ!」
今度は同じ歩幅とペースで、ゆっくりと青生生魂に近づいてゆく三人。殿を務めるノーストは、彼らのうしろ姿を見守りつつ思案した。
(物質としての状態は、法界の箱舟をつくった際に楓也が入手してきた"夜の水月"と似ているな。ディメンションアイテムというやつか……ならば例に漏れず、何らかのセキュリティが働くものと考えて然るべきだろう)
先刻の失敗が記憶に新しい手前、極限まで感覚を研ぎ澄ませ、警戒を強めるノースト。すると果たして、青生生魂のゆらめきが人影を象りはじめた。彼がすぐに「下がれ!」と先頭へ出て臨戦態勢を取ると、にわかに緊張が走る。
「!? これはもしや……RPGのお約束、宝の守護者が出てきて一戦まじえる流れかのう!」
(……不穏な状況なのに、楽しそうだなぁガウラさん)
「でもそれにしちゃ、微塵も毒気を感じないぜ?」
「――なにやつ。速やかに正体をあらわせ」
ノーストが凄むと、人影は一気に鮮明となった。現れたのは着物をまとった美しい人物。黄金色のミディアムヘアを後ろで結ってハーフアップにしており、女性のようだが青年にも見える、眉目秀麗の容姿である。その佇まいに、各々が反応を示した。
「! うぬは……!」
「? ノースト殿、顔見知りかのう?」
(あの雰囲気……もしかして、前に里長が言っていた……!?)
(んん~? どっかで見たことあるような、ないような……この頭んなかが霞ががってピリピリする感じ、やっぱり"昔のおれっち"絡みなのかねぇ)
四人の表情をそれぞれ見渡した相手方は、ふっと表情を和らげて言った。
「やあ、ノーストにトレチェイスも久しぶりだね。あとの二人は初めましてかな? ……こんにちは、私はこの地で賢者と呼ばれている存在の片羽。きみたちの来訪、心から歓迎させてもらうよ」
アスターソウルもついに300話に突入しました!
カクヨムや某所を含め、長らく応援いただいている読者の皆様へ
厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございます!
今後も完結に向けて、ゆるりと頑張ってまいります。