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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第299話 あかし

「トレチェイス殿……!?」


 ガウラの頭上で歯を食いしばるトレチェイス。その背には岩型いわがた魔獣のたきなだれ込み、けたたましい衝撃音がのべつ幕なしに鳴り響いている。しかし山のごとく構えた彼は、敵の猛攻に押し負けることなく、やがてすべてをしのぎ切ってみせた。


 そうして直前までの土壇どたんが嘘だったかのような静寂がおとずれると、唖然あぜんとしていた昌弥まさやがはっとして口を開く。


「っ! 大丈夫ですか、お二人とも!?」


「う、うむ……きゅういっしょうを得るとはまさにこのことじゃわい……。トレチェイス殿、おぬしにはまこと、なんとお礼を申したらよいか」


「ん? あ、ああ、どうやらうまくいったっぽいな! もうけもんだぜこりゃ」


「?」


「……話は後だ。とかく今は、そこを渡り切るのに集中せよ。再び奴らのような手合てあいが現れぬ保証もないからな」


 ノーストの冷静な指示を聞き、「おお、そうじゃった!」と我に返るガウラ。足元を見下ろすと、なぜかすくみは止まっており、気づけば冷や汗も引いていた。

 ――今しがたの勇姿が焼きついて、ふるい立っているのかもしれない。


 すっかり心身の強張こわばりが抜けた彼を見て、トレチェイスは「この距離なら、おれっちを踏み台にすれば行けるんじゃね? ほれ使っていいぞ!」と気前よく身体を差し出した。その厚意こういに笑顔でうなずいたガウラは、果敢かかんにも立ち幅跳はばとびの要領で向こう岸へジャンプし、見事(みごと)着地に成功する。



 安全地帯にぎ着けた一行いっこうは、休憩しながら先の出来事について語っていた。


「うぬ、いつの間に奥義おうぎを? 当代であれを使えるリザードマンは目下 (もっか)、パリヴィクシャしかいなかったはずだが」


「へえ、そんなすごいやつだったのか~さっきの」


("超硬化"。アパダムーラ戦で兄上あにうえ殿どの披露ひろうしていた絶技ぜつぎじゃったな。しかしこの他人ひとごとぶり、もしや……)


「……別に、あのひとから教わったとかじゃないんだ。おれっちはただ、ガウっちを助けなきゃって思っただけで。そしたら身体が勝手に動いてたというかさ。咄嗟とっさに飛び出して間に合ったのもそうだけど、たぶんもう一回やれって言われても絶対無理(むり)だぜ? だってやりかた知らないし! なはは!」


 そう言って明るく笑うトレチェイスに、だから"儲け"と言っていたのかと昌弥は納得した。確かに無我夢中の時というのは、自分でも信じられないような力を発揮できる場合がある。かつてり橋で零子を助けた場面を彼が思い出しているさなか、ガウラは改めて頭を下げると、感謝の意を表した。


「いずれにせよ、お主は身をていしてわしを救ってくれた。……ありがとう。この恩、わしは生涯しょうがい忘れぬじゃろう」


「! よ、よせやい。まったく大袈裟おおげさなじいさんだなぁガウっちは」


謙遜けんそんする必要はなかろう。……われからも礼を言わせてほしい。本来あの役はこちらでになうべき範疇はんちゅう。しかるに、もしうぬが居合わせなれば失敗していたのは明白だ。危うく佳果たちに顔向けできなくなるところであった……恩に着るぞ、トレチェイスよ」


「ふふ。出会ったばかりの異種族を命()けで守るなんて、あなたは本当に"世界を愛することができる"ひとなんですね。オレ、心から尊敬しますよ」


「ノスっちにマサっちまで……」 


 トレチェイスは顔から火が出そうになり、思わずそっぽを向いた。だがこのむずがゆくもあたたかい、震えるような喜びはどこかで――。


(……やっぱり思い出せないか。でもきっと、これこそがおれっちの生きている証(・・・・・・)なんだ。それだけは信じられるぜ)


 鼻の下をこすりながら赤い空を見上げる。絶えずひしめく黒雲、彼はその向こう側に、少しだけ手が届いたような心地がした。

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