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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第298話 窮地

「あちらとは随分ずいぶん、地形が違うんだのう……」


 およそ足場とは呼べぬほど、せまい断崖だんがい絶壁ぜっぺきの道に挑むガウラ。彼は体の前面を岩肌へ密着させ、横向きのまま高所を移動している最中である。遠方えんぽうにそびえるシーマ山の結界を一瞥いちべつして思い出すのは、以前ノーストとあの山を登ったときの場面だ。


(向こうは全体的に急勾配(こうばい)じゃったが、こうした悪路には遭遇そうぐうしなかった。……やれやれ、冷や汗が止まらんわい)


 当時とはまた毛色けいろの異なる洗礼せんれいにおののく。

 その様子を見兼みかねたノーストは、落ち着いた声色こわいろで言った。


「魔境の山はどこも様々な危険をはらんでいるが、ここはとりわけ峻険しゅんけんたぐいといえるだろう。ガウラよ、あせる必要などない。一歩一歩着実(ちゃくじつ)に、慎重にのぞめ」


「うむ、かたじけない。……とはいえすまぬのう、わしのせいで予定外の足踏あしぶみを」


「とんでもありません! むしろオレたちだけこんならくをさせてもらっちゃってて、申し訳ないくらいですよ」


「別にこっちのことは気にしなくていいんだぜ? 今は自分の安全を第一に考えてくれよな~ガウっち!」


 便乗して激励げきれいの言葉をおくる昌弥まさやとトレチェイス。彼らは現在、浮遊魔法で(そら)を飛んでいるノーストの両脇りょうわきかかえられている。この魔法は発動中、術者の全身に魔力が循環じゅんかんし続けるため、人間が触れれば自我崩壊を起こしてしまう。よってガウラひとりが困難な陸路をいられている次第であった。

 「恩に着るぞい!」と二人に礼を述べた彼は、ふうと一息つく。


(ようやく半分といったところか。……これほどのスリル、いつぞやにいのちづななしで屋上おくじょう胸壁きょうへきを歩かされたとき以来じゃな)


 人知れず、現実世界でのまわしき過去がフラッシュバックする。だが今の自分には、それがちっぽけに思えるくらい、かけがえのない仲間たちがついてくれている。


(……ヌハハ、つくづくめぐまれとるなぁ)


 勇気を取り戻した彼は、次に手足を預けるべき凹凸おうとつの選定に集中した。さいわ無風むふうであるゆえ、この調子で進んでゆけば無事にゴールできるだろう。


「――?」


 そう思った矢先である。何か嫌な予感がして反射的に頭上をあおぎ見ると、巨大な落石のかげがガウラの顔をおおい尽くした。残り一秒足らずで接触すると思われる。


「……!!」


 体感速度が急激に変化してゆく。訪れるスローモーションのなか、ガウラの思考は目まぐるしく動いた。


(なぜこんな瀬戸際せとぎわまで気づけなんだ? ……む、よく見ると目がついておるな。ははぁ、さしずめ魔獣の急襲というわけか。つまりこれをそこねればお陀仏だぶつ……じゃがこうも接近されてしまっては、もはやかわすこともできまい。何よりロケーションが絶望的すぎるのう。仮に回避できたとて、今度は落下をまぬがれん)


 以前、里長から聞いた覚えがある。魔境で自損じそんを起こした場合、傷口に大気中の魔のエネルギーが流れ込む影響で、やはり人間は自我崩壊の一途いっとをたどる、と。

 ――万事ばんじきゅうす。静かに目を閉じる彼の無念な表情をとらえたノーストは、即断をせまられる。


(よもやわれ索敵さくてきくぐるとは……! 隠密おんみつ攻撃にひいでた使い手、しかも奴らは集団(・・)……!)


 ガウラ視点では一体の岩型魔獣が襲ってきたように映っているものの、実際にはそれらの雨が降りそそいでいた。必殺といっても過言ではない不意打ちの初撃、加えて殺意の高い追撃の激流げきりゅう。あの無慈悲な連携を無血むけつでやり過ごすには、一体どうすれば良いのだろうか。


(転移魔法で……いや、此奴こやつらを抱えたままでは受け切れぬ。ならば一度、対岸にワープしてから……駄目だめだ。そも転移魔法は練り上げる魔力が莫大ばくだいすぎる。連発すればインターバルが生じてしまう)


 目下もっか斯様かようなタイムラグは致命的でしかない。


(くッ、ガウラ――)


 たる瞬間を傍観ぼうかんせざる得ない状況に、焦燥しょうそうつのらせるノースト。このとき、彼が取るべき行動はひとつだった。すなわち、瞬時に昌弥たちを手放し、二人が地面へ落ちるまでの刹那せつなを使ってすべてを処理する方法である。しかしいくら百戦錬磨の彼といえども、その"解"に至るには、与えられた猶予ゆうよがあまりにも短かった。


 にわかに張り詰め、殺伐さつばつとする空気。


 ところがその凄惨な須臾しゅゆつらぬいたのは、目にも止まらぬ速さでノーストの腕をすり抜け、ガウラを囲うように岩肌へと手足を突き刺し、身代わりを買って出たトレチェイスの一声いっせいであった。


「させねえってんだよ!!」

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