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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第296話 魂の栄養

「チャロ! ごめんね、起こしちゃった?」


「いえ、寝ていたわけではないので問題ありません。それよりも……とうとう見つけたのですね、あなたなりの答えを」


 ヴェリスと客人らを交互に見つめ、微笑びしょうを浮かべるチャロ。にわかに、温泉での一幕ひとまく脳裏のうりよみがえる。あのとき彼女が"自分探し"のヒントをくれたおかげで、こうして愛をやわらかくする方法を思いつき、実践までぎ着けられたのだ。ヴェリスは大きな感謝を込めて、「ん」とまぶしい笑顔を返した。そんな二人の様子に、おじさんとソティラは顔を見合わせている。


「なんだかよくわからねぇが、べっぴんさんが増えたな」


「うん、美しき淑女しゅくじょたちの交流……眼福だねぇ♪」


 おじさんよりもおじさんみた台詞せりふを吐くソティラに、三者がジト目を向ける。しかしおどけたテンションとは裏腹に、彼女は心中であれこれと考えを巡らせていた。


(見た目はわたしより年下とししたっぽいのに、どうにも尋常じんじょうじゃない風格の子だなぁ。ヴェリスさんと一緒の家にいるってことは、陽だまりの風のメンバー? というか今、とんでもない発言をしていた気がするんだけど……)


「ふふ、ふたかたとも。横槍よこやりを入れるような真似まねをして失礼いたしました。わたしはA――いえ、チャロと申します。僭越せんえつながら、彼女が出した鑑定結果について補足させていただければと」



「……成長できねぇ、不変の魂……俺が……」


 NPCの概要を聞き及んだおじさんが衝撃を受けている。彼は自分以外にプレイヤーが存在するという事実についても、今日こんにちいたるまで知り得なかったようだ。その表情はき物が落ちたかのごとくおだやかでありながら、抑えきれぬ絶望と好奇心が同居した複雑なものであった。

 ヴェリスはあの日のサブリナを彷彿ほうふつとする。


『我々は生まれた瞬間からこの姿と境遇を与えられており、生涯その宿命が変動することはありません。できるのは決められた役割のなかで日々を生き抜くことだけ……だからでしょうか、フルーカ女王や皆様を見ていると、ときどき羨ましい気分になったりもします』


 ――きっとおじさんのなかにも、そうした己の存在意義に対する疑念が湧き起こっているのであろう。なぜなら彼は、"闘技場の熱心なファン"というぶんを越えて別の立場に転じることはできないこと。いわば世界のことわりしばられている真実(仕様)を、深いレベルで理解してしまったからだ。ヴェリスは真剣な顔でうつむいた。


(……ここでおじさんの痛みをやわらげてあげられなきゃ、鑑定を受けてもらった意味がない。だってわたしは、みんなが前向きに、幸せに近づけるようにこの活動を始めようと思ったんだから)


 だがいくらいさめども、現在(ゆう)している予備知識だけで彼にかけるべき最適な言葉を手繰たぐり寄せるのは難しい。自分の未熟さを認めた彼女はうしろに向き直り、救いをう眼差しを送った。チャロは「わかっています」と言わんばかりにヴェリスの肩へ手を置くと、小さくうなずいてとなりに座り、話を続ける。


「……おじさん、別段(べつだん)思い詰める必要はありません。たとえ成長できなくとも、それであなたの存在意義や価値が揺らぐわけではないのです。なにせNPCは生きているだけでグナを積むことのできる、ゆいいつ無二むにの素晴らしい存在なのですから」


「ぐな……?」


功徳くどくすなわち他者を助けた善報ぜんぽうとして得られる、魂の栄養とでもいいましょうか。あなたはこれまで、闘技場の観戦者として直向ひたむきに生きてきました。そのなかで選手たちを心から応援し、はげましてきた想いがグナを生み、魂に蓄積しているのです。たところ、冥界めいかい()りもそう遠くない進捗しんちょくといえるでしょう。どうかご自身の偉業をほこってください」


「! べ、べっぴんさんにそう言われると、まあそんなに落ち込むこともねぇのかなって気がしてくるけどよ……しかし冥界なぁ。さっき"来たる転生にそなえて目指してる場所"みてぇな言い回しをしてたが、要するにあの世ってことだろ?」


「平たく申し上げればそうですね。ただ、冥界入り(イコール)死ではございません。むしろ、誕生に近い位置づけかと」


「?」


「冥界まで辿り着いた魂はやがて、あちら側(・・・・)の世界に転生できるタイミングがやってきます。つまりNPCとは、グナをってこのアスターソウルからばたき、別世界にて"真の自由"を獲得すべく、決められた役割を日々まっとうしている存在なのです」


「あ、あのうチャロさん」


「はい、なんでしょう?」


「あちらがわって……もしかしてわたしたちプレイヤーが住んでる、現実世界を指してたり……?」


「そのとおりです」


「え~~!?」


 普段ならば荒唐無稽(むけい)すぎて一蹴いっしゅうする類の与太話。しかしこれまでつちってきた経験則が、"彼女のげんに虚偽は含まれていない"と主張している。――かねてより妙なゲームだとは思っていたものの、よもやあの世だの転生だのと、これほど眉唾まゆつばの事象に関わっていたとは予想外だ。


(……)


 ソティラが驚愕きょうがくしている一方いっぽう。真横でチャロの説明を咀嚼そしゃくし、ヴェリスは魔境の構造を思い出していた。の地もまた、地獄から出たあとは実質的にグナと等しいエネルギーかいである"愛珠あいしゅ"を集めることで、結界と門を越えられるようになり、別世界に移行する資格を得る仕組みだったはずだ。


 その移行先が冥界ないしアスターソウルである、とノーストや楓也から又聞またぎきした情報を踏まえると、魂の変遷へんせんとして考えられる最も長い旅路は、地獄から魔境、魔境からアスターソウル、アスターソウルから冥界、冥界から現実世界というルートになる。


(でもわたしやシムル……チャロも、半分プレイヤーだからなのかな。グナの積み方がNPCと違ってるよね。それに夕鈴ゆうりたちと同じ世界に転生ができるとわかっていたなら、どうしてチャロは"冥界を目指そう"って、今まで言わなかったの?)


 いぶかしがるヴェリスのモノローグに、チャロは小声で「それについては後ほど」と耳打ちした。ひとまずこの場は、おじさんの鑑定を完遂するのが先だ。


「……正直、急にあちら側とか言われてもあんまピンとこねぇや。でも本当にその転生っつうのができりゃ……俺はプレイヤーになって、今度こそ選手としてあの闘技場に出られる日が来るのかい?」


「もちろん。だからこその()、ですよ」


「……そうか……そうだったのか。……ガッハハ! んじゃ、俺のすべき仕事はあいも変わらず、闘技場(あそこ)びたってみんなを応援することってわけだ。なら落ち込んでても仕方ねぇ! 明日からまたせっせと通うとするぜ!」


「あはは! ナイスポジティブだよ、おじさん!」


 すっかり元気を取り戻し、ソティラとピースサインを送り合うおじさん。和気あいあいとした二人の様子に、ヴェリスは胸をで下ろしつつ目を細めた。

 不意に、再び耳元でチャロの小声が聞こえる。


「ヴェリスさん。この段階で、改めておじさんを鑑定してみてください」


「? ……わかった」


 言われるがまま超感覚制御の微調整を再行使し、宇宙の瞳となって彼の魂に焦点を合わせる。するとほんのわずかではあるが、なぎだったオーラに変調が観測かんそくできるではないか。


(! これ、もしかして――)


「んん? なんだ嬢ちゃん、もう不思議ちゃんの番ってか?」


「ううん、違うの。あのねおじさん、ちょっとステータスって言ってみてくれる?」


「おっとと、ま~た異世界語のご登場か。……ほいよ、ステータス」


 果たして立ち上がったのは、プレイヤーたちが閲覧えつらんできるものと同じ"ステータス画面"だった。ただし魂のグラフィックを含め、ほぼすべての項目が空欄となっている。唯一、《SS-0(F)》というソウルスプレンダーの表示をのぞいて。

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