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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第295話 凪

 息をむような美しい視線に魅入みいられつつも、おのれ心奥しんおうのぞかれている感覚に一抹いちまつの恐怖をおぼえるおじさん。はやった彼は、それを誤魔化ごまかすように緊張の面持おももちで鑑定結果をたずねた。


「じょ、嬢ちゃん。どうなんだい俺の魂は……!?」


「……もうちょっとだけ待ってね」


 ヴェリスは現在、白と黒の勾玉まがたまみ合ってできた円――たいきょくの様相をていする、球状のエネルギー体をその目にとらえている。本体は水っぽく、サラサラと流動しており、周りにまとった陽炎かげろうのごとき黄色のオーラは、不自然なほど一定の(・・・)揺らぎを繰り返していた。


(わたしたちの場合、あのオーラ(ゆらめき)は魂の声に反応して、火みたいにずっとかたちを変え続けてる。けどおじさんのは……たぶんこれ、NPCだからってことだよね。前にサブリナとノーストが"成長できない"って話してた意味が、やっとわかった気がする)


 彼の魂を構成している要素そのものは、自分や、すぐ横で固唾かたずをのんでいるソティラとまったく変わらない。すなわち愛と魔の二律背反に同義である。しかしそこにともなっているはずの、感情や思考などによって起こる不規則な脈動がいっさい認められないのだ。おそらく彼らNPCにSSやエリア移動といった概念が適用されないのは、この抑圧が否応いやおうなしに働いているからであろう。

 ――なぎの魂に、新たな光は生まれないのかもしれない。


(でも)


 これまで色々な魂を視てきた経験をもってすれば、たとえ彼がプレイヤーでなかろうとも、どのような状態に置かれているのかかんがみるのは造作ぞうさもない。ヴェリスはおじさんの内なる叫びに耳をますと、その本懐ほんかいに触れてみた。


(……出会ったばかりの頃の楓也に似てる。誰かのために、何かになろうとしていて。答えを見つけたくて、必死に悩んでいる感じ……色はエレブナに着いたときのわたしと一緒だ。なら何を認めてほしくて、何を与えたいんだろう? もう少し、"内側の黒"をよくればわかるかな)


 誰もが抱えている魂のかげ奥魔おうましょうされるそのにごりにフォーカスする。超感覚制御が未熟だった時代は、これをやると黒に侵食され意識が破壊されてしまうため、他者の光をたべて拒絶(ガード)する必要があった。だが今は自らの光を調節するだけで黒をゆるし、じっくり観察できるようになっている。


「……ん、だんだんとわかってきた」


「おお! どんな具合だ?」


「えっと、いちばん大切だと思う部分について話すね。まず、どうしておじさんは毎日(かよ)うくらい闘技場が好きなのかっていうと……それは正々堂々と闘って高め合う選手たちの姿がすごくカッコよく見えて、あこがれているからなの」


「!」


「本当は自分もフィールド(あそこ)で闘ってみたい。強くなって、選手たちとわくわくするような駆け引きをして――観客たちを目一杯、楽しませてあげたい。だけど……自分はそういう(・・・・)立場じゃない(・・・・・・)ってつよい気持ちが、いつもその願いを押し殺してしまう。違うかな?」


「…………いいや、合ってるぜ。ガッハハ、こんなの誰にも話したことねぇってのに、目ぇ見ただけで看破かんぱするなんてすげぇな嬢ちゃん! こりゃ本物だ!」


 そう言っておじさんは気さくに笑った。ところがその表情は、徐々にくもってゆく。


「ただなぁ……不思議なことに、なんで"不足してる"って日和ひよっちまうのか自分でもよくわからなくてよ。この前なんて意気揚々と武具まで買い込んだくせして、いざエントリーしようと受付まで行ったら、途端とたんに足がすくんで動けなくなっちまった。……てんで頭と心がチグハグっつうのかな。実は最近、俺は俺という存在を信じられなくなってきたところだったんだ。……って考えすぎか! ガハハ!」


(おじさん……)


 ソティラが悲しい顔をする。普段、選手たちの健闘をほがらかにたたえる裏で、彼がそのような葛藤かっとうを抱えていたとは。しかし"自分でもよくわからない"というのは――そう考えていると、ヴェリスが見解を示す。


「あのね。受付で動けなくなっちゃったのは、おじさんがNPCだからなんだと思う」


「えぬ……? そういやここへ来るとき不思議ちゃんも言ってたっけか。一体なんなんだそりゃあ?」


「――"決められた役割"のみをまっとうし、たる転生にそなえ、冥界()りを目指すアスターソウルの御魂みたま。それがNPCですよ」


 背後でガチャリと扉の開く音がした。

 不意に隣の部屋から現れたのは、チャロであった。

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