第22話 楓也の決意
「太陽の雫といいますと、佳果さんがいつも持ち歩いている?」
「はい、ヴェリスの記憶を見るきっかけにもなったアイテムですね。阿岸君はあれをチュートリアルで手に入れたと言っていましたが、そのチュートリアルはアイさんが仕組んだものだった――あのアイテムには、エリア移動に関して何らかの効力があると考えられます」
「ふむ……それを嗅ぎつけて、狙ってきた方々がいるということですのね」
「おそらくは」
うなずく楓也。ヴェリスは今の会話から、二人が敵の正体を探っているところまでは理解できた。ならば、最も手がかりとなる情報を持っているのは現場にいた自分のはずだ。話せることは話すべきだと思って、彼女も口をひらく。
「あいつら、わたしたちが宿屋に泊まったことを知ってた……あと、わたしがくーるたいむ中だってことも。佳果のくーるたいむは知らなかったみたいだけど」
「そうでしたのね。つまり、わたくし達は見張られていた? 一体いつから……」
「ピクニックの時は既に、と考えたほうがいいかもしれません。……潮時かな」
「楓也ちゃん?」
おもむろに正座して、真剣な表情をする楓也。
少し間があって、彼は決心したように言った。
「現状から推理すると、敵は"クイス"というギルドに所属している人達だと思います」
「クイス――ってたしか、観光ガイドに力を入れている、珍しいギルドでしたわよね?」
「ええ、表向きはグルメ情報や娯楽施設の情報をファンサイトでレビューしている、有志のつどいです」
「……内実は?」
「ゲームの攻略に関する情報を独占して、自分たちだけが優位に立てる状況を作ろうとしている組織です。貴重な情報を得るためなら、禁止されている"プレイヤー同士の争い"もためらいません。一応、そうなった時は状態異常とかの搦め手で、無力化するだけに留めてるみたいですけど」
「なるほど……そしてそれを知っている楓也ちゃんは、さしずめクイスの一員といったところですのね?」
「! アーリアさん、もしかして気づいて――」
「いいえ。ただあなたが時折みせる不安定な表情に、ようやく合点がいったというだけですわ。わたくし、これでも年上でしてよ」
ヴェリスから離れ、近づいてくるアーリア。楓也は平手打ちが飛んでくると思って身構えたが、すぐに自業自得だと観念して力を抜いた。だが、不意に彼を襲ったのはぬくもりであった。
「あ……」
「楓也ちゃんが何者であっても、あなた自身の魂をだますことはできませんの。佳果さんやヴェリスちゃんに対する愛情をみていればわかります――すべての根幹に、あの子がいるということも」
「!」
「真実をかたる必要はありません。あなたは頭がよくて、ちょっとおせっかいで……他人のことばかり考えている、わたくし達の愛すべきパーティメンバー。ただそれだけですわ」
「……ぅ……くぅう……」
「楓也……? どこか痛いの?」
「……ううん、ちがうんだ、ちがうんだよ……」
◇
しばらく肩を震わせていた楓也だったが、やがて吹っ切れたかのように清々しい顔になった。そして自らの素性について、簡単に二人へ説明する。
「ゲームを始めたばかりの頃、ぼくはとある情報を得るため、スパイとしてクイスへ加入しました。現在も幹部の連中とは繋がりがあります」
「……すっぱい?」
「ふふ。ヴェリスちゃん、"スパイ"ですわ。つまり、仲間のふりをしていたということですわね。それで、今回の一件にそのクイスが関わっている根拠は?」
「ぼくに指示が届いていないからです」
「と申しますと?」
「クイスは少し前に、阿岸君の動向を調べようとしていました。ぼくはその隠密の担当に志願して、昨日までは一任される形で動いていたんです」
「いわゆる二重スパイですか……でも、志願したのはわたくし達を裏切るためではありませんわね?」
「はい、クイスをかく乱する目的でした。ぼくは虚偽の報告を幹部に伝えて、阿岸君に必要以上の監視がいかないようにコントロールしていたんです。とはいっても、ログアウトの予定時刻とか、辻褄合わせで本当の情報を流すこともありました。たぶん、ぼくらがいない時に二人が襲われたのもそのせいで……みんなに黙ってパイプ役をやっていただけでも裏切り行為なのに、本当に申し訳ありません」
「……楓也ちゃん、それについては佳果さんがもどってから改めて話しましょう。しかしそうなってまいりますと、いまの楓也ちゃんの立場は……」
「ぼくがこちら側の人間だというのは、少なくとも昨日の時点で気づかれていたんだと思います。……大手を振って反旗をひるがえすには、ちょうどいいタイミングかもしれませんね」
「よろしいんですの?」
「もちろんです。ぼくは、ぼくの大切なものを傷つけてまで演技に徹することはできないんだって……気づかせていただきましたから」
「……わかりました。ともに行きましょう!」
アーリアは立ち上がり、微笑みながら手を差しのべた。その手を取って決意をかためた楓也は、ふとヴェリスが握りしめている紙切れに気づく。
「ヴェリス、それは?」
「あ、これ……あの変な人がくれたやつ。楓也たちに渡せって」
「なんだろう。どれどれ……これは座標……かな?」
「ざひょう?」
「地図上で特定の場所を探すのに使われるんだ。やってみよう」
彼がマップと発音すると、地図のウィンドウが出てくる。そして紙切れに書かれた座標を入力したところ、場所が明らかになった。
「洞窟みたいだね。フリゴから、そんなに遠くない位置です」
「あの情報屋の方はきっと、そこに佳果さんがいると言っているわけですわね。相手方の見当もついたとことですし、さっそく参りましょう!」
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