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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第291話 憑依

 佳果の言葉に黒ずくめの風貌ふうぼうを想起する零子。ウーの転生に際し、彼が使用していた謎の固有スキル《オクリアクト》――あれを現実世界に流用できるのかはわからぬものの、対象の魂が有するカルマやグナといった抽象的な部分に働きかけるその効果を推しはかるに、悪人の更生において応用がく可能性は十分にあるだろう。


 問題は、何かにつけて助力を惜しんでばかりの当人が、果たしてこちらの事情をんでれるかどうかだが――。


(……佳果さんは、信用にあたいすると思ったからこそ引き合いに出したんですよね。最近は一緒にボランティア活動をおこなっているとも言っていましたし……ならここは、せいぜいダシに使わせていただきますよ明虎あきとらさん!)


 零子は錫杖しゃくじょうおさめて敵意のなさをアピールしつつ、三者さんしゃのほうへ歩み寄って佳果のげんを後押しした。


「いかがですかお二方ふたかたとも。真の意味で復讐をすには、うってつけの方法だとあたしも思いますけれど?」


『……貴様ほどの術者が太鼓判を押す以上、嘘ではないとみえる。直接断罪(だんざい)できぬのはいささか不本意ではあるが……抜本ばっぽんを望めるのであれば、甘んじて条件をむのもやぶさかではない』


『しかし佳果。この場で口約束だけしても、俺たちは地縛じばくを解いてもらったあと、きみたちを裏切って勝手に動き出すかもしれないぞ? さっきまで敵対していた者を、そう易々(やすやす)と信じていいのか?』


「かか、そんなふうに確認されちゃ、かえって疑う気も失せるってなもんだぜ。……でも確かに、こういうのはあかしを立てたほうがお互い後腐あとくされがねぇかもな」


『証……?』


 怪訝けげんそうに聞き返す福丸にうなずき、くるりと背を向ける佳果。そうしてサムズアップした親指で自らの右肩あたりを指さした彼は、あっけらかんと言った。


「二人とも俺にいてくれ。そうすりゃ色々、担保たんぽにもなんだろ?」



「……ちょっと目を離したらこれだよ」


 滞留たいりゅうしていた負のエネルギーの浄化を完遂した岬季みさきが、霊道を閉じて近寄ってくる。零子の術によって地縛じばくを解かれ、佳果の魂に憑依ひょういした二体の浮遊霊をた彼女は、やれやれと首を横に振りながら事の顛末てんまつを聞き終えた。


「まったく、おのれ領分りょうぶんわきまえてもらう意図いとでわざわざ零子と組ませたってのに、そんないびつなもん背負しょっちまってまあ」


「勝手なことしてすまねぇ、岬季さん。けど俺……無理やりはらうよか、こうしたほうがいいんじゃねぇかと思ってよ」


「……ふう、いいかい坊や。死霊ってのはね、あんたが想像しているよりもはるかに危険な存在なんだ。まだ大義たいぎせていない分際ぶんざいで、ちと無鉄砲が過ぎるんじゃないかい?」


「! そ、そりゃその……」


 言外げんがいで"身を滅ぼしたらどうするつもりなのか"と叱咤しったする岬季。その眼光に、佳果だけでなく桐彦きりひこたちもバツが悪そうにしている。すると零子が「待ってください」と割り込んだ。


「師匠。無茶とわかっていて彼らの合一ごういつを見届けたのはあたしです。今回の件は全部あたしの責任です。だから……どうか佳果さんたちを責めないであげてください」


「……まな弟子でしだからって贔屓ひいきはしないよ。なら霊能者として、その無茶を通した理由を聞かせてみな」


「……佳果さんは霊感にとぼしいですから、本来霊障(れいしょう)が起こった際にあらがすべを持っていません。しかし彼の場合、瘴気しょうきをも晴らす清らかな在りかたを心得ている。その上、神気廻心(えしん)と零気により魂を光のベールで包み込むこともできます。正直どんなに醜悪しゅうあくなおけがいたとしても、毒されるとは考えにくいと判断しました」


「ふむ。けどざっと霊視した限り、そこの犬っころたちが荒ぶっていたのはどこぞの魔神ましんが手引した結果と見受けられる。……の存在は今なお、虎視(こし)眈々(たんたん)とこちらに付けすきを狙っているかもしれない。あんた、もし自分の手に負えないレベルの相手が急に襲ってきたらどう責任を取るつもりだい?」


「その時は命にえても彼を守りぬきましょう。……あの人が、あたしにそうしてくれたように」


 昌弥まさやを浮かべ、ふっと表情をやわらげる零子。その覚悟は上辺うわべだけで犠牲ぎせいぜんとする自己否定の正当化ではなく、直向ひたむきに仲間や家族といった大切な存在へ愛を与えんとする、勇敢ゆうかん矜持きょうじにまみれていた。岬季は少し目を見開いたあと、再びやれやれと肩をすくめながら微笑びしょうする。


「……わかったよ。ちと楽観的な嫌いはあるけど、どうやら無謀むぼうさとせるほど浅慮せんりょでもないみたいだからね。今回は大目に見てあげようじゃないか」


「師匠……!」


「それに坊やの言うとおり、この手合いは浄霊じょうれいできるならそうするに越したことはない。……ま、憑依(つな)いどきゃ簡単には逃げられないって意味じゃ管理かんりも楽か。ほれ」


 そう言って佳果に何かを渡す岬季。「おん?」と目を丸くして受け取った彼の手のひらには、片眼鏡(モノクル)が乗っかっていた。


「なんだこりゃ?」


「あたしが下積み時代に使っていた道具さ。それを掛けておけば、そいつらが良からぬことをたくらんだり、魔神のエネルギーが近づいてきた際にいち早く動向を察知できるようなる。……いくらあんたが"気"の扱いにけているとはいえ、死角しかくから不意を突かれちゃひとたまりもないだろ? 上手うまく活用して、くれぐれも気をつけるように」


「! サンキュー岬季さん!」


「で、犬っころたち」


『な、なんでしょう』『……その呼び方、どうにかならぬのか』


 零子を軽く凌駕りょうがする霊能力を察知し、萎縮いしゅく気味(ぎみ)に返答する桐彦と福丸。ここで彼女の機嫌をそこねれば、先の交渉が水泡にす――その確信が二人の態度を引き締めた。


「まっとうな方法で積年せきねんの恨みを晴らすのはおおいに結構。でもこんなかたちで生者せいじゃと組めるチャンスなんて、金輪際こんりんざいないと思ったほうがいいよ。せっかくなら譲歩じょうほしてくれた坊やに感謝して、色々と見聞けんぶんを広めておくことだねぇ」


『? と、言いますと?』


「あんたらが未練を断ち切ってしかるべき次元へ戻ったとき、ここからどういう立ち回りをしたかによって処遇しょぐうが変わってくるのさ。……向こうでも愛犬とたわむれたきゃ、今の冷静さをたもって死ぬ気で坊やを助けな。でないと現状、地獄行き(・・・・)が関の山だよ」


『! き、肝に銘じておきます』


(……なんなのだ、この有無うむを言わさぬ迫力は)


 ――ともあれ、こうして話がまとまった一行は、そのまま下山げざんして雨知あまち道場へと帰還するのであった。

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