第288話 三つの気
かつて、魔神ムンディの放つ"世界悪意"を受けたときのごとく。美しい輝きをまといながら毅然と黒に立ちはだかる佳果を目の当たりにして、零子は思った。
(……佳果さん。あなたはあたしよりずっと年下で、この手の相手は畑違いのはずなのに……どうしてそこまで背中が大きく見えるのでしょう? そんな光を見せられちゃったら、ひとりでべそをかいているわけにはいかないじゃないですか)
心が震え、おもむろに立ち上がろうとする零子。佳果の迫力に気圧されていた桐彦たちは、ハッとして臨戦態勢に入った。また彼女に拘束術を使われては厄介だ。ここは一気に方をつけねばなるまい。
『ならば望み通り、引導を渡してくれる! やれ、福丸!』
『数多の恨みが凝縮されたこの波動……受けられるものなら受けてみよ!』
瘴気に似たエネルギーが佳果をめがけて迸る。目を覆いたくなるほど禍々しい衝撃が襲いかかるが、彼は瞬きひとつせず正面からそれを受け止めた。そして双方がぶつかり合った瞬間、佳果の魂が放つ勇・零・神――三つの気が邪念を包み込み、怒涛の勢いで浄化が始まる。
『なっ……!』
『よもや出力が足りぬとでも……!? ええい! 斯くなる上は、我ら以外の黒もかき集めて利用するまでよ!』
岬季が対処しきれずあぶれてしまった付近の闇を吸収し、波動を強める福丸。しかし佳果はいっさい臆することなく一歩、また一歩と彼らのもとへ近づいてゆく。そのまばゆき佇まいの根底に、桐彦はどこか懐かしいものを感じてやまなかった。
《ほら、元気だして》
にわかにフラッシュバックしたのは、あの日あたたかい飲み物をくれたおじいちゃんの笑顔。刹那、彼は福丸の頭を撫でて攻撃を制止していた。
『! なぜ!?』
『福丸、あいつがあそこまで食い下がれる理由……それを見極めるぞ』
佳果の到着を静観し、直接魂の光に触れる両者。すると彼が今まで経験してきたと思われる記憶のかけらが流れ込んでくる。そこには家族や大切な者の命が失われた忌まわしき事件が含まれており――その背景に因果を垣間見た桐彦と福丸は、互いに顔を見合わせると臨戦態勢を解くに至った。
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