第287話 これ以上
西沖会の傘下にあった繁殖場の一角が、自然災害により焼失した火災事故。消防団の他、捜査のため駆けつけた警察は、付近に幹部と思われる男が倒れているのを発見した。そして別棟の倉庫などに残っていた様々な物的証拠から、彼は直前に掛けられていた容疑以外にも多量の余罪があることが判明。まもなく重罪人として逮捕される運びとなる。
なぜか重度の統合失調症に罹患していた被告人にはその後、精神鑑定を受けてなお、然るべき判決が下ったという。それ以降、西沖会の関連施設では不審死や怪奇現象が相次ぐようになり、次第に衰退していった組織はやがて、空中分解の一途を辿った。
ところで、事件当夜から行方不明となっている一般男性は、それから数十年が経過した現在も見つかっていない。
◇
「……っ……ぅえっ……」
霊視により、眼前の怨霊とモノノケの境遇に触れた零子。嘔吐きながら蹲る彼女は、氷のように冷たい身体を温めるように膝を抱えた。呼吸が苦しくて、涙も止まらない。その異変に気づいた佳果は、すぐに駆けつけて懸命に背中をさすった。
「おい、大丈夫か零子さん!」
「ごめん……なさい……あたし、心がぐちゃぐちゃになって…………?」
隙間から覗くと、どういうわけか彼もまた泣いている。
「佳果さん……?」
「……零気越しに、ウーが零子さんの視ているビジョンを共有してくれたんだ。あいつら、魔神の力を借りて己の存在を変換してまで連中の断罪を執行したみたいだな。そんで団が瓦解したあとも、人間そのものに対する負の感情に縛られたまま……霊道を彷徨っているうち、この場所へと流れ着いた。そんなところか」
佳果は自分の着ていたアウターを彼女にかけ、二、三歩ほど前へ出た。対峙する二つの黒は、零子の精神状態が不安定になった影響で拘束術が解け、すでに自由の身となっている。
『クク……これで決着だ。さあ、狂気に染めてやろう』
『弱者を虐げる人間どもよ。我らと同じ苦しみに喘ぎ、骨の髄まで贖罪した後……その薄汚い命を散らすがよい』
「――あんたらは、誰にも動かせねぇ激情を持っている。それをてめぇの自由意志で貫くっつうなら……俺にできんのは、全霊で受け止めてやることだけだ」
彼は涙を拭うと両手を広げ、胸を張って大の字を形成した。
「! ダメです佳果さん!!」
『……ほう』
『ふん、殊勝ぶって心にもない台詞を口にすれば、情けをかけてもらえるとでも思ったのか? 愚か者め、いま裁いて――』
「……けどさ、桐彦さん。それに仲間たちの想いを背負い過ぎて、そんな姿になっちまった福丸もよ……俺、これ以上あんたらが傷つくのだけは見過ごせねぇわ」
『!?』
『貴様、なぜ我らの名を……!』
「二人とも、遠慮は要らねぇ。……ありったけの怒りを俺にぶつけやがれ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかなと思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!