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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第283話 嵐

 電話を切り、放心状態で項垂うなだれる桐彦きりひこ。暗い部屋の中でひとり、漠然ばくぜんと感じるのは後悔の念だった。不意に外で雷が鳴り響き、我に返った彼はぐるぐると思考する。


(――俺が遠回りしたからこうなったんだ。あの時、用を足すのだって我慢できたはずじゃないか……俺が目を離したから、迂闊うかつにもあいつのそばを離れたから! 福丸ふくまるはヤバい連中に連れ去られちまったんだ!)


 もはや何度目かわからぬが、どっと涙があふれてくる。そして行き場を失った罪悪感は次第に激情を呼び起こし、冷静な判断を遠ざけた。


(暴力団……現実にかじりつくこともせず、同じ穴のむじなが傷を舐め合い、社会に逆恨みして……他者を踏みにじる、人でなしの有象うぞう無象むぞう!)


 困難な人生を歩みつつも、その荒波にまれまいと誠実に日々を耐え抜いてきた桐彦にとって、対極に生きる彼らのような存在が断固否定すべき"悪"であるという偏見へんけんを抑えるのは難しかった。実害をこうむった手前、制御できぬ敵愾てきがいしんが膨張してゆく。


(どうせ金儲かねもうけのためにあいつを道具扱いしたんだろ……!? 人のパートナーをもてあそびやがって、絶対に許さねぇ……! 待ってろよ福丸、俺が今すぐ助けに行ってやるからな!)


 ピカピカと明滅する雷光が、憤怒ふんぬの表情を浮かべる桐彦をしきりに照らした。むかし護身用に入手したスタンガン、アウトドア用に買ったサバイバルナイフ、懐中電灯などをバッグに詰め込み、彼は車椅子に乗って家を飛び出す。



「あそこか」


 この地域で繁殖場といえば、該当する場所は一箇所しかなかった。マップアプリを使って一心不乱に現場へ急行した桐彦は現在、閉ざされた門をにらみつけている。


(あの中に福丸が……家宅捜索は明け方にやる予定だって聞いたけど、そんなの待ってられるか! 不法侵入上等(じょうとう)、とにかく今はあいつに会いたい、安心させてやりたい!)


 松葉杖を使い、門のわきから強引に侵入を試みる。やがて時間は掛かったものの、何とか怪我けがなしで乗り越えることができた。そうして敷地内を移動してゆくと、倉庫のような建造物に辿り着く。そこには巨大な扉が構えていたが、不用心にもじょうは掛かっていなかった。


(動物の臭いがする……この中か!)


 扉の隙間に両手の指をつっこみ、思い切りぴらく。一瞬(ぞう)が鳴くような音が立ったが、無事入室に成功した彼はそのまま、懐中電灯をつけて内部の様子を確かめた。果たして、たくさんの犬たちが管理されている光景が目に飛び込んでくる。


(うっ……なんて狭いケージなんだ……掃除そうじもほとんど行き届いてないし、身体はガリガリでぐったりしている子ばかり……いくらなんでも杜撰ずさんすぎる!!)

 

 あまりのやるせなさに桐彦が唇を噛んでいると、寝ていた犬たちは懐中電灯の光と人気ひとけを感じ取ったのか、一斉いっせいに吠え始めた。それは今までおよそ聞いたことのない、負の感情がこもった怨嗟えんさの嵐だった。責め立てるかのごとく明確な敵意を帯びた咆哮ほうこう飽和ほうわが、さらに彼の理性を狂わせる。


「くっそぉぉおぉ! 誰もいねぇのか!? いるなら出てこいよ!! 全員、俺が断罪してやる!!」


 ギラギラとした瞳でナイフを取り出し、携帯する桐彦。血眼ちまなこで福丸を探しつつ、彼は奥へ奥へと進んでいった。

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