第282話 主犯
しばらくして。「待たせたね」と息を切らしておじいちゃんが戻ってきたため、桐彦は水筒をお返しし、まず一息ついてもらった。そうして少しの間を置いてから詳しく話を聞いてみたところ、意外な朗報が届けられる。
「この件、なんとかなるかもしれないよ。お巡りさんが言うには、すぐ近くに自治体が設置した防犯カメラがあるんだって」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん、不審な車が映っていないか、さっそく開示請求してくれるそうでね。本当は被害届を出してから動かなきゃいけないみたいだけど……現場の状況と、きみの身体のことを説明したら臨機応変に対応してくれた」
「っ……そうだったんですか……本当にありがとうございますっ!」
再びこぼれた涙が手の甲に落ちる。それをペロリと舐め、寄り添ってくれるおじいちゃんの犬を撫でていると、続いて署から派遣されたと思しき警察官がやってきた。
「あなたが、攫われてしまったというワンちゃんの飼い主さんですね? 私こういうものですが……少々お時間を頂いてもよろしいですか」
「! はい、お手数をおかけします」
こうして改めて事情聴取を受けた桐彦たち。最終的に警察官は「何かわかり次第連絡します」と言い残し、その場は解散の運びとなる。
◇
「来ないな……」
あれから数時間が経った。外は夕闇に包まれ、その昏さが窓越しに不安を煽ってくる。差し当たり帰宅した桐彦は、一向に鳴らぬサイドテーブルのスマホを横目に、ベッドへ横たわりながら一縷の望みをかけ、ひたすらに福丸の無事を祈った。
(どうかあいつが見つかりますように……)
目を見開いて何度もそう念じる。しかし心が憔悴していた彼は、疲労困憊の身体も相まって、徐々に瞼が重たく感じられるようになっていった。やがて飛ぶように意識が途絶えてしまい、さらに時は流れゆく。
その後どのくらい寝ていただろうか。気がつくと、スマホが振動音を立てていた。桐彦は勢いよく上体を起こし、画面の電話番号を確認した。案の定、相手は警察である。
「も、もしもし……!」
「夜分に失礼いたします」
丁寧な口調の担当から、今日の昼間に起きた事件について聞かされる。最初は寝ぼけた意識で相槌を打っていた桐彦だったが、防犯カメラの映像から犯人を割り出したというくだり以降、一気に脳が覚醒してゆく。
「やっぱり福丸は誘拐されたんですね!?」
「お気の毒ですが、間違いありません。そしてこれを言うのは非常に憚られるのですけれど……今回の主犯は、"西沖会"と呼ばれる暴力団の傘下にある繁殖業者と思われます」
「え」
「福丸くんは連中の施設に連れ去られた可能性が高い。今、我々は家宅捜索の準備を――」
真摯に経緯と状況を話してくれる警察。だが暴力団、繁殖業者と聞いて頭が真っ白になってしまった桐彦は、その内容を半分も理解することができなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかなと思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!