表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
289/356

第281話 痕跡

 なんとか立ち上がった桐彦きりひこは、このまま待機していても福丸ふくまるが戻ることはないだろうと即断した。すぐ公園を出て、車椅子を走らせながら今後の対応を考える。


(マイクロチップにはGPS機能がないから、アナログで捜索そうさくするしかないよな……今だったらまだ手がかりを掴めるかもしれないし、まずは目撃情報を集めるべきか。そのあとは警察にも相談して――)


「わっ!」


 道を曲がろうとした瞬間、犬()れのおじいちゃんとはちわせた。普段よりも減速が甘かったせいか、驚かせてしまったようだ。緊急事態とはいえ人様ひとさまに迷惑をかけてしまい、彼はすみませんと何度も繰り返し謝罪する。


 いっぽう、その切羽せっぱ詰まった表情と不自由な足、そして何も繋がれていないリードを見て、おじいちゃんは怪訝けげんそうに「僕は大丈夫。それよりも」と切り出した。


「きみ、たまにこの辺りへ遊びに来てたお兄さんだよね? ……おっきなワンちゃんと一緒に」


「は、はい。…………あっ! もしかして……前に一度、公園のほうで世間話に付き合っていただいたこと、ありましたっけ……?」


「そうそう、その節は楽しい一時ひとときをありがとう。……で、今日はあの子どうしたの? ひょっとして、はぐれちゃった?」


「! そうなんです、実は――」


 掻いつまんで事情を打ち明けたところ、おじいちゃんは深刻な顔になって「ちょっとそれ貸して」と言い、自分の犬にリードの臭いを嗅がせた。するとすぐに鼻をヒクヒクさせながら二人の誘導を開始し、歩道と道路を隔てている背の高いパーティションのようなしょくじゅたいへと突っ込んでゆく犬。


 おじいちゃんもそのまましげみ掻き分けて押し通るが、桐彦は車椅子のため、迂回うかいしてスロープ状に切り下がっている段差から彼らの元へ急いだ。やがて人通りの少ない小道の路肩ろかたにて、犬がわんわんと吠えているのが見えてくる。


「何かありましたか!?」


「うん。あの子、たしか毛色けいろはイエローだったかな」


 彼が指差す場所に、わずかではあるが抜け毛が残っている。仮にこれが福丸のものだとすれば、連想される筋書すじがきはひとつだ。


「……信じたくないんですが、やっぱり誘拐ゆうかいでしょうか」


「車が路駐ろちゅうできる位置にこれがあるってことは、残念だけどそうかもしれない。さっきまで居たんだろうね、まだエアコンの排水もかわいてないみたいだし」


 一部、地面が黒くなっている。福丸自身も濡れていたはずだが、彼からしたたったという感じの染みかたではない。おじいちゃんの言うとおり、車が停まっていたと考えるほうが自然だ。ならばキャリーケースなどをもちいた複数人による共犯の線が浮上してくる。突如として襲いかかってきた悪意に絶望し、桐彦は肩を震わせた。


「うう、福丸……福丸……」


「……諦めるにはまだ早い。僕、近くの交番に行っておまわりさんに事情を説明してくるね。きみは一旦、ここで待っていてくれる?」


「ぐすっ、わ、わかりました……すみません、ありがとうございます……」


「お安い御用ごようさ。……これがもし本当に誘拐事件なら、僕だって犯人たちを許せない。同じ飼い主として協力はしまないよ。ほら、元気だして」


 そう言って未開封のどら焼きとあたたかい飲み物が入った水筒を手渡し、軽快に走り去るおじいちゃん。この短期間で一度に人の残酷さと慈愛を味わった桐彦は、しばらくの間、涙をぬぐうだけで精一杯だった。

お読みいただき、ありがとうございます!

もし続きを読んでみようかなと思いましたら

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ