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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第280話 忽然

「よーし福丸ふくまる、散歩に行こうぜ」


 着古きふるしたボロボロの服をまとった天然パーマの壮年そうねんが、愛犬をリードに繋いで出かけようとしている。イエローラブラドールの福丸は、とても嬉しそうにワンと鳴いて尻尾しっぽをおおきく振った。


 数年前、事故で片足が不自由になってからというもの。散歩のときは、こうして車椅子で移動するのが常である。独り身で仕事も失ってしまった壮年――桐彦きりひこにとって、福丸の世話を続けるのは決して容易なことではなかった。しかし固いきずなで結ばれた両者は、たとえ生活を切り詰めようとも、ともに生きる道を選んだのだった。


「お前と過ごすこの時間が、俺の心をどれだけ支えてくれていることか。本当にありがとうな、福丸」


「あぅ?」


「はは、なんでもない。……さ、今日はお互い体調も良いし、ちょっとだけ遠回りしていこう」


 いつものコースからはずれ、ペットが水遊びできる噴水施設が設置された公園を経由する二人。ここは以前、たまに訪れては長居ながいした思い出の場所だ。今は人気ひとけがなく、貸し切り状態にある。


「お、運がいいな。福丸、遠慮せず遊んできていいぞ!」


「ワンッ!!」


 興奮気味にはしゃぐ愛犬の無邪気な姿に微笑ほほえみながら、彼はベンチの横に車椅子をつけ、持参していた松葉まつばづえを使ってそこへ座り直す。プシュっと開けた缶コーヒーを飲んで空を見上げると、また明日もがんばろうという気がいてくる。


(次こそは、ってもらえるといいな)


 後日、予定している面接に思いを馳せる桐彦。そうしてしばらくぼんやりと再就職について考えていた彼だったが、途中でもよおしたため、おもむろに立ち上がる。


「ごめん福丸、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


「!」


 聞き慣れた単語に反応し、福丸が近寄ってくる。この犬種の特性ともいえるが、彼は主人の行動をサポートするのにすこぶけていた。普段どおり介助かいじょおこなおうとする優しい素振そぶりに、桐彦はよしよしと頭を撫で、"待て"の指示を出してリードをベンチに繋いだ。


「大丈夫、すぐに戻るから」


 今回は自分だけで問題ないと判断し、その場を離れる彼の背中を、福丸はハッハッと舌を出して見つめていた。



「あちゃ、ハンカチ忘れてきたか」


 ポケットをまさぐるが、何も入っていない。仕方なくズボンで手を拭いた桐彦は、気を取り直して愛犬のもとへ戻った。


(さて、そろそろ帰るかな…………ん?)


 想定と異なる光景が目に飛び込み、急激に体温が下がってゆく。なぜならさっき繋いだはずのリードがはずれており、福丸がいないのだ。


「!? ふ、福丸! どこだ、福丸!」


 あわてて松葉杖をつき、周辺を確認する。だが見える範囲に彼の姿はなく、歩道に戻ってみるも、やはり気配すら感じられなかった。


(落ち着け……落ち着け……)


 そう言い聞かせ、いったんベンチまで戻る桐彦。だが動揺しているせいか、途中でバランスを崩して地面に倒れてしまった。


「いっつつ……」


 服越しにひざりむき、じんじんと痛みが広がってゆくのがわかる。誰もいない公園でひとり這いつくばる自分――そのあわれなていたらくを俯瞰ふかんし、彼はかえって冷静になれた。


(俺はあいつに見捨てられたのか? ……いや、そんなわけない。福丸はかしこい犬だ。今まで勝手に消えるようなことは一度もなかったじゃないか。リードだって確実に結んでおいた……記憶違いなんてあり得ない)


 つまるところ、彼は人為じんいてきに放たれた可能性がある。それは現在、桐彦の瞳に映っている福丸の足跡あしあともまた示していた。


(これ……どう見ても片道分しか無いよな? なら、リードを外して誘拐ゆうかいした奴がいる? だがあいつの体重は30kgを超えているし、吠える声もまったく聞こえなかった……いったい誰が、どうやって、何のために……!)

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