第277話 依代
「ここに霊道ってやつが……?」
岬季に連れられてやってきたのは、佳果が在学している高校の裏山だ。校舎や町並みを眺望できる高さまで登ってきた三名は現在、風化した祠と思われる瓦礫に近づいている。
「ああ。元々は、この辺りの管轄である山の神が鎮座していた場所のようだが……今やすっかり廃れちまってるねぇ。おかげで無法地帯さ、ご覧よ? まさに魑魅魍魎のオンパレードじゃないか」
「ひ、ひぇぇ……!」
瓦礫の奥に何かがいるらしく、それを視た零子が顔面蒼白で岬季の背中に隠れる。いっぽう霊感のない佳果はいくら凝視しても認知できないものの、嫌な感じだけはひしひしと伝わっていた。
(……まだ晩秋でもねぇってのに、真冬レベルの寒さを感じるな。やばい場所っつーのは、こんな薄気味悪い冷気が流れてやがんのか)
「うう……ちなみに師匠、山の神様は今どちらへ……?」
「さて、もはや気配も残っていないし、正確なところはわからないよ。ただこの惨状から察するに……おそらくは狂気に陥って、なかば逃れるように麓まで下りたんだろう。ま、神様ってのは宿るものがなけりゃ3次元を移動できないから、その場合はどこか近くに新たな依代を見つけたことになるけどね」
(依代……こっから一番近いのはガッコで、あそこにゃ昔、父さんと母さん……そしてあいつがいた。……まさかな)
眼鏡の光る七三分けのスーツ姿と、件のおまもりを想起する佳果。あれは母が渡したものと本人は言っていたが――神妙な表情で沈黙を続ける彼を横目に、岬季はふうとため息をついて言った。
「……いずれにせよ、こんな状態の土地が身近にあったにもかかわらず、先日あたしが発見するまで霊能者仲間からの報告がゼロだったってのは妙だ。もしかすると、例の暗黒神が関与して隠蔽されていたのかもしれない」
「あり得るな。ちょうど奴とその配下が一線を退いたばかりのタイミングだしよ」
お読みいただきありがとうございます。
ようやく家族の病状も落ち着いてきましたので、
明日から元々書いていた程度の文量に戻していきます。
※もし続きを読んでみようかなと思いましたら
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