表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
282/356

第274話 十分

「ってなわけで、改めてよろしく頼むぜおさんかた! いや~、それにしても旅に出るなんて新鮮な心地だ! ただ進んでるだけでも楽しいなぁこれ!」


 伝説の素材を求め、集落をった一行いっこう。気さくな挨拶を繰り出したトレチェイスは、パーティの最後尾で両手を首の後ろへ回し、鼻歌まじりでのっしのっしと歩いている。その陽気な言動に、ガウラがこそっとノーストへ耳打ちした。


(随分と気丈きじょうに振る舞っておるが……たしか、トレチェイス殿はこれまでの記憶を失っているのではなかったかのう?)


(ああ、アパダムーラが討たれたあの時、"儀式"が完成したゆえにな。まがかみにまもられていた夕鈴ゆうりとは異なり、今のあやつは転生のごとくまっさらな状態で生きている。もっとも、名は以前のままという特例のようだが)


「おっ、なんだなんだ? さっそく陰口かげぐちでもたたかれちまってる感じかぁおれっち? まあ役に立たないやつが急についてくとか言い始めたわけだし、そりゃ誰だってけむたがるわな。なっははは!」


 二人の密談に気づき、なぜか楽しげに自虐じぎゃくを始めるトレチェイス。すかさず昌弥がフォローを入れた。


「ご、誤解ですよトレチェイスさん。お二人はただ、あなたのことを心配しているだけなんです」


「……? おれっちを心配?」


「ええ。あなたは長らく、魔の親玉に魂を支配されていました。そしてそれがようやく解けたかと思えば、今度はじつのお兄さんすらマトモに覚えていない状況でこの魔境を処世しょせいさせられている……はたから見て、とても過酷かこくな運命を辿っているように感じますよ」


「……」


 かつて地獄へ落とされ、右も左もわからぬまま魔境へ放り出された昌弥にとって、トレチェイスの境遇がどれほどの辛苦しんくを内包しているのかは想像にかたくなかった。無論ガウラたちもそのかげを推し量っており――だからこそ、三人は慎重に距離感を測っていた次第である。


「そんな逆境にも負けず、あなたは明るく笑ってオレたちに接してくれますが……もしちょっとでも無理してるなら、遠慮なく言ってくださいね。ここにはあなたの敵なんて、ひとりもいないんですから」


「そのとおりじゃ! ともに旅をする仲間同士、隠し事はなしでまいろうぞ!」


「……何か不足がある場合はすぐに言え。可能な限り善処ぜんしょしよう」


「! ……へへっ、そっかい。ありがとなぁマサっち、ガウっちにノスっちも」


 ユニークな愛称あいしょうを口にし、にっこりと笑うトレチェイス。彼は血のような色の空と黒雲くろくもを見上げながら、はっきりと思い出せぬ顔を浮かべて目を細めた。


「でもおれっち、いま本当に楽しいんだぜ? ――誰かがさ、教えてくれたから。おれっちは世界に愛されてるし、おれっちもまた、世界を愛することができるんだって」


(トレチェイス殿……)


「……色んなこと、忘れちまったみたいだけども。おれっちは、そんだけ残ってれば十分じゅうぶんなんだ。よって無理も隠し事も、不足もいっさいなし! あるのはで~っかい感謝だけさ! なっははは!」


 そう言って、昌弥と肩を組むトレチェイス。バシバシと腕を叩く彼のほがらかな笑い声が、かわいた大地に響き渡った。

お読みいただき、ありがとうございます!

もし続きを読んでみようかなと思いましたら

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ